箱庭に
尾八原ジュージ
母さんの家
01
じいちゃんが死んで、母さんと暮らすことになった。
ふつう逆だろと思うのだが、とにかくそういうことになった。
おれなんか一人でいいから、じいちゃんと住んでた家に住まわせてくれたらいいのにと思ったけど、どうもそういうわけにはいかないのだった。未成年って不便なものだ。
おれは電車に乗って、知らない街に引っ越した。電車を降りると、むし暑い空気がぶわっと顔に押し寄せてきた。今この辺でうっかり倒れたりしたら、脳みそが煮えてしまいそうだと思った。
駅の出口はひとつしかなかった。改札の外に、やせて顔色の悪い女の人が、だるそうな顔をして立っていた。それが母さんだった。母さんに会うのはひさしぶりで、何をしゃべっていいのかわからなかった。おれと顔が似ている気がするけど、そうでもないような気もする。近づくとたばこの匂いがして、そういえば母さんはたばこ吸う人だったなと思い出した。
「でっかくなったね」
あんまり興味がなさそうな感じで、母さんは言った。会わない間に成長したのは事実だから、おれは「うん」と答えた。最後に会ったのはいつだったっけ? 去年の冬あたりだろうか。母さんはたまに、じいちゃんの家に顔を出しにきた。
母さんはむかしから住んでいた一軒家で、今も一人暮らしをしているらしい。
「哲平、うちのこと覚えてない?」
そう聞かれて、おれはうなずいた。母さんがいる家には行ったことがない。会うときはいつも、母さんがじいちゃんの家に来たのだ。それだって年に一回あるかないかだったけど。
母さんは「そう」と言うときびすを返し、ロータリーに向かって歩き始めた。おれはあわてて後を追った。
「あのさ、いっこ気をつけてほしいことがあるんだけど」
母さんは歩きながら話し始めた。意外に歩くのが速くて、荷物を持ってるおれに合わせる気なんか全然ないみたいだ――なんて思いながらついていくと、母さんが急にこっちをふりむいた。
「うちの二階使えないから。絶対入らないで。絶対だよ」
ぜったい、という言葉がすごく強くて、そのせいだと思うけど、いやな予感がした。
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