第9話 王子少女は味わいたい!


山のようにイチゴの乗ったケーキが

三人のメイドさんと執事さんによって、王子のお部屋に運ばれてくる


「こちらでお召し上がりになられるのですか?」

「ついでに王子と相談事をしようと思ってね」

「なるほど」

「あ、秘密のお話なんですね、了解です!」

「では、うちらは失礼するわ~」

「王子、また後でお呼びくださいっ」

…一人だけ喋り方の違うメイドさんがいる…?


ミソラさんの話を聞いて、執事さんたちはそそくさと、部屋から出ていった

さすが執事さんとメイドさん、きちんとしていらっしゃる


「あの歳を取った執事さん、実は昔、『風』の領主の諜報員をやっていたのよ」

「え…スパイだったんですか?!」

「それが、王子に惚れ込んで、今は彼の執事になったの」

「…何で私、バレてないんですかね…」

スパイと言えば、変装のプロだろうし


「現役引退してから長いし、判断力が衰えてるのか…

 わかってても、あえて泳がせてるのかもね」

「こわ~い…」

「王子の世話係だし、しょっちゅう顔を突き合わせる事になるし

 説得して味方に引き入れておきたいんだけど…」

「なってくれますかね?味方…」

「彼も王子と同じ反戦派ではあるんだけど…

 偽物を許容してくれるかどうかね…」

王子に惚れ込んだ人なら、偽物は…許せないだろうなぁ…

じゃあ、黙ってるしかないかなぁ


「ちなみに、一緒にいるメイド三人は彼の娘よ」

「えっ?!ま、孫じゃないんですか?!」

執事さんが六十代後半くらいで、メイドさんは成人したて、くらいに見えるんだけど…

…ずいぶん頑張りましたね



「まあ、説得の方法は、また後で考えるわ」

「それは、それと、して…」

「食べちゃいましょう」


私たちの前、小さなテーブルに置かれた、ケーキに目を向ける


つやつやのイチゴが、これでもかとケーキに乗せられ

白が濃いクリームは、きちんと角が立ち

スポンジの壁面は、見事なデコレーションを作り上げている


「い、いただきます…!」

フォークでその芸術作品を切り取り、一部を口へ運ぶ


「…?!?????!」

意味わかんないほど美味しい…!

今、一瞬宇宙が見えた

私ではどうやっても作れないだろう、至高の領域…!

材料から調理器具、料理人に至るまで最高をそろえているのだろう

まさに、一生に一度味わえるかどうか…


味わいながら、とかそんなことを考えられない

手が勝手に、どんどんとケーキを口の中に運んでいく

幸福のひとときが、瞬く間に過ぎていく


「…ごちそうさまでした」

あっという間に無くなったケーキに、手を合わせる


「これまでの人類の歴史、そしてすべての生命に感謝を…」

「悟りを開いてる?!」

…それくらい、美味しかったのだ


「こんなケーキを毎日食べてるんですか…?」

お貴族様すごい…!


「…いや、これはさすがに特別よ?

 王子が帰ってきてくれて、料理長も嬉しかったんでしょうね」

……むむぅ


「そう聞くとなんだか悪い気が…」

「セッカちゃんには、王子の帰る場所を守ってもらってるのよ

 たとえバレても、料理長だって怒らないわよ」

ミソラさんは、流石に舌が肥えているのか

手が止まらない!なんてことはなく

上品に少しづつ自分の分のケーキを食べている


この作品に報いるために頑張ろう

そう思うのだった



「…それで結局あの、戦争派の『雪』の領主さん、どうするんです?」

おやつタイムから一息ついたところで、ミソラさんにそう聞いた


「そうね……残念ながら、現時点では手が足りないわ」

ケーキを食べた後のフォークを、教師の差し棒のように使って、そう答える

「今回、いなくなった王子が戻ってくる…という

 ジョーカーを仕掛けた訳だけど、押し切れなかった」

ああ言えばこう言う…みたいなやりとりだったなぁ


「息子のフレーダがいると、実力行使では勝てない」

「彼、そんなに強いんですか…?」

「彼は、自分と味方を強化する、謎のユニークスキルを使うんだけど

 それを使うと、全員がおかしいぐらい強くなるのよ」

「むむむ…」

やはりユニークスキル…敵に回すと恐ろしい


「最強王子がいる、というハッタリが効いてるうちに

 頼れる仲間を増やしていくしかないわ」

「仲間とは…?」

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