王子少女(プリンスガール)は逃げ出したい! ~ただの村娘な私、完璧王子様の身代わりになったら、なぜか女の子たちに溺愛されるので困ってしまいます~

青単西本

第1話 王子少女は逃げ出したい!

私は、何の才能もない子供だった


人間がユニークスキルという、個人の才能を持って生まれるようになって数百年

私は珍しく、何の才能も持たずに生まれてきた


それでも、家族は優しかったし

幸運にも、スキルが無いせいでいじめられたりもなかった

ただ、期待されていないだけ


必要な誰かが必要なことをやり、自分はそれをお手伝いする

影でひっそり過ごせばいい

別に表で目立つだけが人生じゃない

できない人間はできないなりに生きていこう

幸せは、見えないところにも花開くのだと


…そう、思っていたのに


「お、王子助けて!あたし、悪党どもに追われてるの!」

金髪ロングの女の子が、私の影に隠れながらそう話す

そして、私たち二人は…彼女が悪党と断言する

いかにも悪そうな目つきの男たちに取り囲まれている



…何で…何でこんなことにいいいいいいいいいいいい?!




『王子少女(プリンスガール)は逃げ出したい』




私は田舎生まれ田舎育ち、一家で農業を営んでいるごく普通の村娘だ

最近、イノシシが我が家の芋畑を荒らしていて、大変困っていた

獣除けも置いてみたがどれも効果が薄く、冒険者(せんもんか)に頼もうかと悩んでたところだった


そんなある日

何やら畑の方が騒がしいので、私はまたイノシシかと思い、家から少し離れた芋畑に確認しに来た


芋づると一緒に雑草が増え、そろそろ草刈りしなきゃなぁ…と思ってた畑

そこでは、十数人の男たちが、一人の女の子を追いかけまわしていた


「!」

逃げ回っていた女の子が、こちらに気づき、なぜか満面の笑顔を見せる

彼女は何か黒い水着のような…変な格好をしており

突然こちらに向かって走ってきて、私の後ろに隠れた


私たちは彼女を追う屈強そうな男たちに、あっという間に取り囲まれる

彼らは、それぞれが手に斧や剣を持ち、袖の破れた服を着ていた



…陰でひっそりとはかけ離れた状況だった





と、とりあえず、何でこんな事になってるのかを把握しないと

私の後ろで隠れている少女に問いかける


「え、えっと…どういう事態なのか話してくれるかな?」

私は、後ろの金髪少女に話しかける


「はい、王子っ

 あたしは行方不明の王子を探して、はるばるこの地までやってきたんだけど

 開戦派のやつらがあたしを始末しようと、野盗を雇ったようで…」

…さっぱりわからない!

行方不明とか開戦派とか知らない話されても困るし!

そもそも私、王子じゃないし!

何の才能もない一般村娘だし! 


「おい!どこの誰だか知らねえが、とっととそいつを寄越せ!」

散々逃げ回られたのか、野盗さんたちはかなりお怒りのようだった

…ど、どうしよう……どうやったらこの子を助けられる…?

今から逃げたり隠れたりは無理だし…


「いや…ま、待て!あいつは……!」

悩む私の顔を見た野盗さんの一人が、驚きの声を上げる


「カナタ王子じゃないか!」

「…ふぁ?」

思わず変な声を出してしまう私

え、いや、なんで…?!

王子様なんて私、見たこともないんだけど、そんなに似てます?!


「く、くそ…!まさか王子と合流されてしまうとは…!」

「親分…なんかわかんねえけんど、あんな弱そうな奴、一緒に始末してしまえばええんでは?」

「バカ!アホ!田舎者!

 お前は都会に行ったことないから知らんだろうが、俺は元兵士だから見たことあるんだよ!」

「またはじまったべ…親分の元兵士マウント」

急に野盗会議がはじまった

…確かに、何か王子様だとまずい事があるのだろうか?

人数にして十人を超える男たちがいるし、王子様だろうと関係ない気がする


「あいつは、一人で数万の兵に匹敵するトンデモ完璧超人王子だ!」

「はははっ、何言ってんでさあ…娯楽小説の読みすぎはやめるべ?」

「いやホントだぞ!七歳の誕生日の式典で、隕石を落とす魔法を使って周りをドン引きさせた!」

「周りに被害が無いところを選んだそうだが…俺も遠くで見て唖然とした!」

「その時できたクレーターのある場所は、『王子の初隕石』とかって観光名所になってやがるぞ!」

説明ありがとう!

そっかぁ…そんなトンデモ王子様が私だと…

……そんな訳無いでしょ?!


「ふふふ…王子を見つけたからには、もうあなたたちに勝ち目はないわ!」

「や、やはり王子!」

「ささ、王子、一発どーんと、いつもの魔法で片付けちゃってよ!」

むーりーでーすー!

魔法って、元から才能があるか、お金がある人が学校行って覚えるものでしょ?!

一般村娘Aにできることじゃないよ!


「いんや、オラは信じねぇべ!そんな奴この世にいるわけねえ!」

私もそう思うよ!気が合いますね!

…などと言って和解したいくらいなのだけれど、状況が許してくれない

田舎なまりの男は、斧を持ち、こちらを威嚇したまま進んで……


「…あっ!」

彼の足元を見て思い出した

そこは、イノシシ対策で作った…!


慌てて呼び止めようと、手を前に伸ばし声を上げたが、もう遅かった


「はべっ?!」

イノシシ用の落とし穴に落ちる男

そうだった…あそこに仕掛けておいたんだった

落とし穴はイノシシがジャンプで抜けられないように、三メートルの深さがある


あああああ…これでさらに怒らせちゃう…

…と、心配した私をよそに、彼らは予想外の反応をした


「な…?!む…無詠唱魔法だと?!」

「ふぇ?」

「『トンネル』の魔法を一瞬で使ったのか?!」

「『はっ!』の掛け声だけで?!」

「さすが王子!あたしの見込んだ男だわ!」

ま、待って待って!

話がどんどんおかしな方向に進んでる!?


「だからやばい王子だって言っただろ!ま、まずい、引きあげろ!」

彼らは慌てて田舎なまりの男を引き上げ、一目散に逃げていく


あ、え…に、逃げていただけるんですか!ありがとうございます!

なんか勘違いしてくれたおかげで助かりそう!


「あははっ!あたしを追いまわした罰よ!おととい来なさい!」

やめてー!煽らないで!

本当にお礼参りに来ちゃったらどうするんですか!

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