アルゼンチンの食べ物 2
前回はアルゼンチンのピザとBBQについてお話した。私が特に好きだったアルゼンチン料理を熱く語ったために文字数が増え、泣く泣く2つだけの紹介となった。しかし、アルゼンチンには他にもおいしい料理がたくさんある為、ここで紹介したい。
【エンパナダ(Empanada)】
餃子のような見た目をした、小麦粉の生地で中の具材を包み、釜で焼く食べ物だ。サイズは手と同じくらいで餃子よりも大きく分厚い生地に具を包む。中の具材は、これまた様々種類があるが、一番主流なのは牛肉だ。他にもチキン、ハムとチーズ、玉ねぎとチーズなどがある。スペイン、またはポルトガル発祥の食べ物で、ラテンアメリカの多くの国で食べられている。アルゼンチンを代表する食べ物の一つであり、スナック感覚で食べられるエンパナダ。リーゾナブルな値段(一つ200円前後)で国民から愛されている。
【ミラネサ(Miranesas)】
顔よりも大きいサイズの薄切りの牛肉に衣をつけて焼いた、平べったいとんかつのような食べ物。元はイタリア移民が持ち込んだもので、アルゼンチンに根付いた料理。
牛肉に味がついているのでそのまま食べてもおいしいが、レストランなどで提供されるミラネサは牛カツの上にトマトソース、目玉焼き、チーズが乗っている。これがおいしい。サクサク衣の牛肉と卵、ソース、チーズの組み合わせは最高だった。
一番メジャーな具は目玉焼きとチーズなのだが、他にも玉ねぎが乗ったり、葉野菜を乗せたサラダのような見た目をしたものがあったりとその種類は豊富である。時間の関係で私はメジャーなもの以外を食べる機会がなかったのだが、次アルゼンチンに来た時は別の味を食べてみたいと思う。
【モルシージャ(Morsilla) 通称ブラッドソーセージ】
アルゼンチンに来て一番衝撃を受けたと言っても過言ではない料理はまさにこのモルシージャ。ブラッドソーセージ。血のソーセージだ。これは前回お話したBBQで食べられるソーセージの一つで、アルゼンチン人はBBQを食べる時、牛肉だけではなく豚肉、鶏肉、内臓なども同じように塊で焼いて食べる。そのセットにソーセージもつくのだが、普通のタイプのソーセージと一緒に、このブラッドソーセージも必ず添えられる。
これは挽肉などの材料と一緒に豚の血を混ぜ腸に詰めた、一般的なソーセージより赤黒く、血の風味があるソーセージだ。生き物の命を無駄にしない為に作られるようになった料理だという。中身は水分が多いためにドロリとしたペースト状になっていて、滑らかな舌触り。調味料も加えられているため、塩気があり、独特な風味を醸し出す。生臭さは思っていたほど感じない。
しかし、名前と血が混じっているという先入観から、私は最初は躊躇いながら食べていて、そこまで好きではなかった。
大好きなBBQを食べる度にこのソーセージがつくので、何度も食べることになったのだが、回数を重ねると、あら、不思議、だんだんと美味しく感じるようになった。最終的には何の抵抗もなしに食べられるようになった。そのまま食べてもおいしいし、BBQに添えられているパンにつけて食べてもおいしい。そして鉄分などの栄養素が豊富なので健康にもいい。
調べてみると東京でブラッドソーセージが食べられる店があるらしい。興味のある方は、ぜひ。
ここで注意しておきたいのが、ソーセージというものの概念が日本とアルゼンチンで違うことだ。アルゼンチンでは、ソーセージは安く、腸に包まれていない魚肉ソーセージのような見た目と食感のもの(中身は豚肉や牛肉)を意味し、日本人がソーセージと呼んでいる豚肉が腸に包まれた本格的なものはチョリソーと呼ばれる。チョリソーは実は辛いソーセージを意味する言葉ではないのだ。
それを知らなかったがために、夫とソーセージについて話をしていた時とにかく会話が噛み合わなかった。
このエッセイは日本語で記載しているため、日本の概念を採用してソーセージと表記している。が、アルゼンチンにいた時はみんなチョリソーと言っていた。
【アイスクリーム】
アルゼンチンはアイスクリームがとても人気で、そして評判だ。夫はカナダのアイスクリームをとにかく酷評していたのだが、ここに来てその理由を理解する。機械で大量生産したアイスクリームは質があまり良くなくアルゼンチンの人達はあまり好まない。好まれるのは、丁寧に人の手でつくられた伝統的な製法のアイスクリームだ。
ブエノスアイレスには本当に多くのアイスクリーム屋さんがある。その中で夫の友人が勧めるアイスクリーム専門店に行ってみると、夜中0時であるにも拘らず店内は人であふれ返り、外にあるテラス席は満席(ちなみにアルゼンチンは7~8月が冬)、そして多くの人が外で行列を作って待っていた。
友人によると、その店は過去に世界で2番目に美味しいアイスクリーム屋さんに選ばれたことがあるという。
店の名前はHeladorea Cadore。店は現地人、観光客にも人気で、10か国語以上のメニューが用意されている。日本語のメニューもあったため注文には困らなかった。
アルゼンチンのアイスクリーム屋さんではカップ、コーンの他に250g、500g、1㎏というサイズのアイスを注文することができる。夫が迷いなく250gを注文したため、私も同じ量を注文する。すると好きな味を3つ選べるという。私は冒険をしないタイプなので、苺、チョコチップ、ティラミスという何の面白味もない味を選んだ。
しかしこれが功を奏したのだ。
まず丁寧に作られたそのアイスは化学調味料に頼らない為、苺はよくある苺風味のアイスではなく、本物の苺の酸味と甘み、つぶつぶを味わうことができる。チョコチップはそのままチョコチップなのだが、甘すぎず、バニラとチョコが絶妙なハーモニーを生み出す。そしてティラミスはよくあるごってりと甘いものではなく、コーヒーの苦みを活かしたシックな味を表現している。
つまり苺は果肉本来の酸味、チョコチップはチョコとバニラの甘味、ティラミスはコーヒーの苦みがあり、それぞれ違う味を堪能することができる。お陰で250gという多めの量のアイスを私はぺろりと平らげた。
ちなみに私は年に一度食べるかどうか、というくらいにアイスを食べない人間である。常に甘い味しか感じられない上に、溶けて液体になったアイスが死ぬほど嫌いなのである。一度開封したが最後、溶ける前に早く食べなければならないというプレッシャーの中、ただ甘いアイスを、キンキン痛む頭を抱えながら食べ続けるという行為が苦痛なのだ。その為250gという量を食べ切れるか心配していたのだが、それは杞憂に終わった。
というのも、アルゼンチンでは250g以上の量のアイスを頼むと、専用の発泡スチロールの容器にアイスを詰めてくれる。これが画期的。持ち帰りができる。保冷材はいらない。アイスを買ってから家に着くまで15分程かかったがアイスは溶けていない。
そしていざ食べる時、私は小さなスプーンで一口ずつゆっくり味わって食べた。容器を手に持っていても手の熱で溶けることなく、アイスはいつまでも買った時の固形を維持する。そして上記で説明したように、それぞれ甘味以外の味も楽しむことができ、3つの味をローテーションしながら食べられた。30分弱かけてアイスを平らげたが、最後までアイスは液体にならず固形のままだった。
素晴らしい。これは今すぐにでも採用するべきだと思う。そしてこの画期的な容器とアルゼンチンのアイスは、私が抱えていたアイスクリームの悩みを一度に解決してくれた。
このようにアルゼンチンの料理は私の食の概念を大きく変えてくれた。次にアルゼンチンに行くまでにその美味しい料理を食べられないというデメリットを除けば、本当に素晴らしい体験だった。
もしアルゼンチンに足を踏み入れたら、ぜひこれらの料理を試すことをお勧めする。
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