後宮は王のもの

朝香るか

第1話 お輿入れ

 王室には美女が集まる。

 これは常識。

 次世代の世継ぎを産むこともあり、王の憩いの場でもあり、

 政治バランスの縮図でもある。


 この時の帝、18歳の楊月(ようげつ)


 先帝からの女性たちの移動が終わり、新たにお輿入れと相成った。

 2つの地方から話があった。

 

 どちらも優先するわけでもなく、先に話が来た方が貴妃となる。


 先に計画があった方が、貴妃きひ

 同時期とはいえ遅れた方が淑妃しゅくひとなる。

 紅い服がよく似合う黒髪の美女、李結林リ ユイリン貴妃。

 金髪碧眼の美女、張蘭チョウ ラン淑妃。


 「どちらが時の王のお気に入りとなる?」

 「お世継ぎは?」

 宮廷の噂はもっぱらこの2つ。


 ☆☆☆

 輿入れ初夜。李貴妃の番だ。


 「昨日は眠れませんでしたわ。懐妊となる日も近いのかもしれませんわね」


 数日遅れで、後宮入りした張淑妃は喜んで会話に応じる。

 表面上は。


 「それは喜ばしいことですわ。ですが男児を産まなければ意味のないことですね。それと、今夜はよく眠れるでしょうね」

 暗に主上は今宵は私の部屋に来ると言っている。

「そうかしら」

「ええ」

「それに、国母になる方は少し大胆なくらいでないと」


「わたくしは思慮深い方がいいと思いますけれど」


 たがいに侍らせている侍女たちはまだ何か言っているが、

 どちらもそんなことは承知の上。


 どちらが早く男児を産むか。それがすべての世界といってもいい。


 ☆☆☆

 後宮の変革に対する思惑や謀略が渦巻くのは宮廷とて同じこと。


 後宮が女の謀略ばかりなら宮廷が男の戦いの場となる。

 文官武官問わずだ。

「主上、どちらを国母にするおつもりで?」


「どちらでも。男児を産んだ方が国母だ。

 地位を約束しよう。

 産めないものは払下げてもよいぞ」


 官僚など近しいものに褒美として与えるものであったが、

 産めない女には官僚たちも用がないのだ。


「風来坊の妻になっていただくのもいいかもしれんな」


 もともと、王宮といえど、医療機関も成人まで成長する確率も少ないのだ。


 貴妃2人の張り合いも結構だが、現実にはお手付きの女性がいてもおかしくない。

 

 位を得た若い貴妃たちはそのことに気づいていない。

 お互い相手を蹴落とせばいいと思っている。


 蹴落とす相手は子供を産める女性全員だとまだ気づかない。


 ☆☆☆

 側近たちには王は自分の考えを伝えている。


「1年間は2人で様子を見る。孕まぬようなら新たに人を入れる。どうだ?」

 1番の相談役であるものに聞いた。

「よい案かと存じます」

「そうか」

 王が考えるのは国家の安泰。

 1人の女の幸せよりも国家の安泰が必要だった。


 李貴妃と張淑妃の時間が嫌であるわけではない。

 政治で頭が疲れたときに愚痴を聞いてくれたり、


 琴や香を使って疲れをとってくれる。


 ☆☆

 後宮入りから半年ほどで貴妃たちそれぞれ懐妊した。

 2人が張り合って、1度ずつ懐妊した。

 貴妃、淑妃の子ともに男児の可能性が高いらしい。


 浮足立って喜んだが、結果として両方とも死産となった。

 気候も影響しているだろうし、栄養が良くなかった。


 周りは万全の配慮をしていたはずだ。

 それでも育たないことが多くある。

 これが後宮が必要な理由。


 いまの時代には気候、栄養状態、

 健康状態が万全でなければ、子は育たない。

 王の寵愛はどちらも変わらず、あるようであった。


 

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