第145話 魔女、上へ向かう
◆
「ふむ、また招かれざる客がきたようじゃの」
そうつぶやくように独り言を口にした少女は、先程まで寝ていたベッドから立ち上がり歩き出す。室内は薄暗く灯りはロウソクのみのようだ。窓の外は暗く今が日の出る時間ではないことがうかがえる。
少女が部屋の出入口へ向かい歩みを進める。少女が歩くのに合わせるようにロウソクの炎がかすかに揺れる。透けるようなネグリジェ姿の少女の肌は病的なまでに白い。
一瞬ロウソクの炎が大きく揺れ消える。炎が消えたのは一瞬だったが部屋の中をロウソクの炎が再び照らした時には少女の衣服が変わっていた。先程のネグリジェとは対照的に見える真紅のドレスだ。そのドレスを一言で表すのならゴシック・アンド・ロリータ、いわゆるゴスロリというものになる。
少女が扉の前にたどり着く直前に、扉がひとりでに開き少女は歩みを止めること無く廊下へと出た。掃除が行き届いているようで、廊下を等間隔に照らすロウソクの灯りの範囲にはホコリ一つないように見える。
絨毯の上を滑るように足音を立てずに少女は進み、階段を下り地下へと進んでいく。ロウソクの灯りは少女を先回りするように灯され、少女が通り過ぎると消える。なんとも微妙なエコ仕様になっているようだ。
少女は地下へ降り石造りの地下通路を進む。少女のたどり着いた先には開かれたまま閉じることのない扉があり、その先には石で作られた階段が更に地下へと続いている。
少女はそのまま歩みを進め石造りの階段を降りようとしたその時、眩しい光が少女の目の前を通り過ぎて消えた。
「なんじゃ!」
驚いた事でとっさに出た少女の叫びは地下通路で反響しながら消えていった。
◆
「ここはどこだ?」
「やっと起きたのね。すごく寝ていたけど大丈夫なの?」
「むっ、体調は問題ない。問題があるとするならばこのローブだろう」
「どういうことだ?」
私のローブのフードからぴょんと飛び出し地面へとガーリーが着地した。背中を伸ばし後ろ足で首筋を掻く姿はまさしくネコにしか見えない。
「そのローブは快適すぎてついつい眠ってしまう危険なもののようだ」
「あー、まあわからなくはないかな。温度の自動調節機能がついているから、いつでも快適な状態に保ってくれるんだよ」
自分で作ったローブだけどお気に入りの一品である。
「それよりもここはどこだ?」
「さあ?」
「わからんな」
実際にここがどこかと効かれても答えようがない。
「今からそこの石段を登ろうと思ってたのだけど、外まで出れればどこかはわかるかもね」
「寝ている間に何があった?」
「その辺りは上に向かいながら教えるよ」
アダルを先頭に石造りの階段を登る。魔法で作った複数の灯りで周りを照らしているので踏み外すことはないだろう。上を見上げて灯りで上を照らすがかなりの深さのようで先が見えない。
「ガーリー登るの大変でしょうから肩にのってもいいんだよ」
「むっ……」
暫く心の中で葛藤をしていたようだけど、諦めたように私の方へ飛び乗る。飛び乗られたときだけ少し重さを感じたけど、乗せてしまえばローブのお陰で重さを感じない。
「いつも不思議に思っていたが重さを感じないのか?」
アダルがそう聞いてきたので、衝撃吸収や重量軽減などもついていると言いうとなぜか呆れられた。自分でもこれと同じものは二度と作れないと思うほどの出来なので言いたいことはわかる。
石段を上り初めてどれくらい経っただろうか、不意に上の方から人……のようなものの気配を感じた。
「アダル上になにかいる」
「そのようだな」
アダルはいつでも剣を抜けるようにして立ち止まる。私は灯りを一つだけ残して全て消して、残った一つを上へ移動させる。上っていった灯りに一瞬だけ人の姿をした者を照らし通り過ぎた所で唐突に消えた。
「なんじゃ!」
灯りが消えて真っ暗になった所でそんな声が聞こえた。私は魔法で灯りを複数生み出し再び上の方へ移動させる。灯りはある一定の場所まで上がると消えてしまう。アダルと私はその灯りが消える前に一気に階段を駆け上がり、先程一瞬見えた人物の所にたどり着く。どうやらそこがこの石段の終点のようだ。新しく灯りを作ろうとするがどうもマナが集まらないようで魔法で灯りを作れない。
「光よ」
魔法が駄目なら魔術で作れば良いということで、魔術で灯りを作り出す。
「えっと、こんにちは?」
尻餅をついてこちらを見上げているゴスロリっぽい服を着た少女を見てついそう言っていた。
「あ、え、あ……」
少女は呻くようにそう言いながら、少し後ずさり立ち上がる。私もアダルもガーリーは特に何もせずに少女の行動を見つめている。
「お、お主何者じゃ、なぜここで魔術が使えておる! そもそもなぜ動けておる!?」
「ん? どういう事?」
どうやらここまで上ってきた時点で魔法が使えないようだけど、普通に魔術は使うことは出来た。魔法が使えない理由はこの辺りにマナがほとんどないからだと思う。ただ体内の魔力であるオドを使う魔術が使えないというのがよくわからない。
「水よ……。どうやらエリーとは違って俺のほうは魔術が使えないようだな」
「そうなの?」
少女の方を向くとそれが普通だというようにうんうんと頷いている。
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