第82話 魔女、呪いを解く

 しばらくしてアンリは意識を取り戻した。


「あれ? ここは」


「アンリ、良かった」


 アデリシアがアンリに抱きついたことで、アンリは目を白黒させて驚いている。無表情だったシャーリの表情も心なしか微笑んでいるように見える。アデリシアが離れ、アンリは起き上がろうとするが体に力が入らないようで起き上がれないでいた。


「しばらくは呪いの影響で動けないと思うよ」


「へ? アデリシアさま? 呪い?」


 混乱気味のアンリにシャーリが今までの経緯を説明しはじめる。一通り説明が終わると、アンリはベッドに寝転んだままお礼を言ってくれた。その後アンリはそのまま置いていき、私たちは最初の部屋に移動する。


 その間にぱぱっと呪いの解析を済ませる。この呪いの感じはアーシアさんの受けていた呪いとはまた別なかんじだね。


 シャーリが入れ直してくれた紅茶を飲みながら解析できた結果を話すことにする。テーブルの上にしっかり蓋を締めたフラスコを置く。


「この呪いはチェインカースと言われるものだね」


「チェインカースですか、それはどういったものなのですか」


「簡単に言うと伝播する呪いだね」


「それは私たちは大丈夫なのでしょうか」


「見た所あなた達には呪いは感染うつっていないわね。条件がいまいちはっきりしないのだけど、呪いを受けている者を治療しようとするとかかるって感じかな」


「シャーリは大丈夫なのですか?」


 アデリシアが背後に控えているシャーリを見て聞いてくる。


「シャーリはほらポーション口に含んでいたでしょ、だから大丈夫だよ。一応それも想定して口移しでやってもらったわけだし」


「あっ、趣味ではなかったのですね」


「あん、なんか言った?」


「いえ、なにもー」


 横に座っているティッシモを睨みつけておく。趣味なわけ無いでしょうに、そりゃあさちょーっとは女の子同士のキスシーンを見てドキムネムネはしたけど、そっちの趣味はないよ。


「そうなりますと、アンリを一度見ていただいた神官などはどうなのでしょうか」


「ありゃ、そっちは少し確認したほうが良いかもね。なにかあるようなら私が出向くよ」


「シャーリ急ぎお願いします。それから離れで避難しています皆を戻して下さい」


「かしこまりました」


 シャーリが急ぎ足で部屋を出ていく。今この屋敷の敷地内にある離れには普段からこの屋敷を管理している使用人が退避していたようで、その人達に戻って来てもらうようだ。人の気配が全くしなかったのはそういうことだったんだね。


 しばらくすると使用人の代表と思われる執事とメイドがやってきて、アデリシアと会話をして出ていく。その会話の中にはアンリのお世話も含まれているようだった。


「ただいま戻りました」


 アデリシアと他愛もない話をしている所へシャーリが戻ってきた。


「おかえりなさいシャーリ、それでどうでしたか?」


「エリー様のおっしゃる通り神官もアンリほどではないですが昏睡状態になっているようです」


「そっか、それじゃ案内してもらえるかな」


「よろしいのですか?」


「いいよ、これもアフターケアのうちって事で」


「ありがとうございます、シャーリ案内をお願いします」


「かしこまりました。それではエリー様ご案内いたします」


 ティッシモと一緒にシャーリに付いていき、屋敷を出た所に待機していた馬車に乗り込むと馬車は進み始める。チェインカースは他の人に伝播はするけど、伝染された方は伝染した方ほどの呪いを受けることはない。


 そして伝染したほうは他の人に伝染ることにより呪いが弱まる。はっきり言ってチェインカースって嫌がらせのたぐいなんだよね。治療を試みた人に伝染るわかで、その治療に関わった人が増えれば増えるほど被害は広がるけど、その分呪いが薄まることになり、ある一定まで薄まると呪いは消えてしまう。


 薄まった呪いは人が元々持つ抵抗力で解除するまでもなく消えてしまう。なんていうかチェインカースってウィルスみたいな感じの呪いなんだよ。


 アンリの死人のような姿を見てわかるように、あの呪い自体はかなり強力なものだったけど、それでも薄まってたほうなわけだね。といったことをシャーリに説明していると目的地に着いたようだ。


 馬車から降りると、六神教の教会が目に入ってきた。この王都には六神教の教会が二つある。貴族街に一つ、各種ギルドがあるエリアに一つ建てられている。ここは貴族街に作られているほうの教会だ。


「お待ちしておりました、こちらへお願い致します」


 教会の中に入ると女性の神官が待っていたようで、シャーリの姿を見て私たちを治療所へ案内してくれた。そこには20人ほどがベッドに寝かされているのが見えた。


「これはもしかして」


「ええ、治療に出ていた神官と同じような症状でここに運び込まれてきた方々です。ここ貴族街だけではなく、下のギルド区の方の教会にも同じ症状の方が集められております」


 女性神官がそう説明してくれた。アンリが受けた呪いってもしかすると無差別にばらまかれているのかも知れない。


「えっと、あなたはなんと呼べばいいかな」


「これは失礼いたしました、わたくしは三級神官のシーリス・ラースラと申します」


「私はエリー、よろしくね。それでシーリスこれ以上被害者を増やさないために、同じ症状の人には治療をしないようにしてほしいのだけどできる?」


「治療をしないというのはどういったことでしょうか」


「簡単に言うと、治療をしようとした人にこの呪いは感染ってしまうからなんだよ」


「そうなのですか、言われてみますと思い当たるふしがあります」


「そういうわけだから、ギルド区の教会にも伝えてもらっていいかな」


「わかりました、少しお待ち下さい」


 シーリスが部屋にいた見習い神官に話をしてギルド区へ向かわせたようだ。


「ティッシモ、あなたはこの呪いのことをアルバスさんに伝えてきてもらえないかな? アルバスさんならこの状況を伝えれば動いてもらえると思うから」


「わかりました、そちらは任せて下さい」


「馬車でお送りします」


 シャーリとティッシモが急ぎ足で部屋を出ていくのを見送って、とりあえず私はここの人たちを治療するためにポーションを取り出す。この後もこの呪いのせいで忙しくなりそうだし、ちゃっちゃと治療をしてしまいましょうかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る