第81話 魔女、接吻を眺める
応接室に案内された私とティッシモの目の前には、ドリルちゃんことアデリシア・ダーナが座っている。アデリシアの後ろにはここまで案内してくれ双子の片割れがが紅茶を入れて私達に出してくれている。
「お久しぶりになりますわね、ダーナのギルドでは失礼をいたしました」
そう言ってアデリシアとシャーリが頭を下げてくる。二人共なんか緊張しているように見える。
「とっくに過ぎたことだし気にしなくていいよ。その謝意だけ受け取っておくよ」
「ありがとうございます」
紅茶を一口飲んで、一緒に用意されているクッキーを一枚手にとり食べてみる。うん美味しい、紅茶をもう一口飲んで口の中に残っているクッキーを流し込む。
「それで今回来たのは、ケンヤから預かってもらってる物を受け取りに来たんだよ」
「ええ、お預かりしております。シャーリ」
「既にご用意させていただいております。お持ちいたしましょうか?」
「帰る時に受け取るよ」
「承知いたしました」
シャーリは一礼してアデリシアの後ろに戻る。
「それで、ケンヤから私のことって聞いているのかな」
「はい、一通りは伺っています。大祖父様と同郷だということと、魔の森の魔女殿の弟子である事くらいですが」
「まあ、そんな感じだね。ついでだしこっちの紹介もしておこうかな、えーっとなんて説明したら良い?」
「はぁ、エリーさん。こほん、私はティッシモ・ユグドラと言います、以後お見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いします」
「さってと、それじゃあそろそろ本題を聞きましょうか、私に何か相談があるんでしょ?」
「えっと、それは……」
「アンリだったかな、彼女がここにいないことと関係があるんだよね?」
アデリシアとシャーリが一瞬顔を見合わせてから、こちらへと顔を戻す。
「エリーさま、アンリの所まで案内させていただきます、アンリを見てくださいませ」
そう言ってアデリシアは立ち上がり頭を下げてきた。
「まあ、私が見てどうにかなるのなら」
私とティッシモも立ち上がり、アデリシアとシャーリの後をついていく。人気のない屋敷、今現在この屋敷にはほとんど人がいないのかも知れない。
しばらく歩いて屋敷の奥の部屋に案内された。部屋に向かっている途中で何となくなにがあるのかはわかってしまった。隣を歩いているティッシモも気がついたようで顔をしかめている。
部屋に入りベッドの前まで移動する。そこには生きているのか死んでいるのかわからない表情の女性がひとり寝かされている。
「呪いだね」
「呪いですね」
私とティッシモが同時に言葉を発する。双子の片割れアンリという名前の女性は呪いによってこうなっているのがわかった。
「エリーさま、アンリを助けていただけないでしょうか」
「お願いします、どうか姉を、報酬ならなんでもお支払いします」
「いや、まあ報酬とかいらないけどどうしたものかな」
私はポシェットから一本のポーションを取り出す。この世界の呪いは神官や聖職者では対処が難しかったりする。神様に祈ってどうにかなるものではないってことだね。
なんと言ったら良いのかな、ニーナちゃんの母親のアーシアさんの呪いのときもそうだったけど、神様に祈っても治療はできない。神官の奇跡っていうのはどうしても肉体に起きた異常を治すのに特化している。
そして肝心の呪いというのは肉体に何かをするのではなく、人が持つ魔力に干渉することで異常をきたすといったところだ。そういった魔力をどうこうするのにはポーションが有効というわけだね。
アーシアさんの時もニーナちゃんが作ったポーションを使った。あれは呪い返しが付いてたけどこれにはそんな効果は無い。
取り敢えずこのポーションを飲ませれば呪いは解けるのだけど、この状態だと飲ませるのがねー。よし、シャーリに頑張ってもらおう。
「これを飲ませれば良いんだけど……」
「お願いします、それを姉に──」
「まあ落ち着いて、これを飲ませれば良いんだけどね、口を無理やり開けて突っ込んでも、今の状態だと多分嚥下出来ないと思うんだ」
「それではどうすれば」
アデリシアが難しそうな顔をしている、いやそれほど悲観するもんでもないんだけどさ。
「というわけでシャーリ、これをどうぞ」
シャーリさんにポーションを渡してあげる。シャーリは受け取ったはいいがどうしたら良いのかアデリシアと視線を交わして困った顔をしている。
「まあ、あれですよ、それをシャーリが口に含んで、口移しでね。そういうことだから頑張って」
ニコリと微笑んであげると、より困惑を深めた表情になった。
「あっ、ティッシモは外ね」
「えぇー、私だけ仲間はずれですか?」
「そりゃあもう、男は見ちゃ駄目だよ、今から大輪の百合の花が咲き乱れるんだから」
「あ、あの、できれば皆様全員出ていてほしいのですが」
「な、何を言いますのシャーリ、私は主人として見守る義務が」
「ほら、私は経過を観察しないとね。ほらティッシモはさっさと出ていく」
ティッシもの背中を押して部屋の外へ放り出した、ついでに防音と侵入出来ないように結界を張っておく。これでよし。ベッドのそばに戻ると、ポーションとアンリを交互に見て一度目を閉じると、覚悟を決めたのかあげた顔の表情は真剣そのものだった。
シャーリはふぅと一度息を吐きポーションの蓋を外すと一気に口へと流し込みその勢いのままアンリの唇に自らの唇を重ねた。舌を使い口をこじ開けそのままポーションをアンリの口内へ流し込むのが見て取れた。
「あわ、あわわわわ」
アデリシアが顔を隠すように両手のひらを顔に当てているが、指の隙間からガン見してるのがバレバレだったりする。
しばらく見ていると、アンリが喉を鳴らしてポーションを飲み込むのがわかった。それが確認できたのかシャーリはアンリから離れ、無表情でアンリを見ている。
そこからは早かった、死人のような真っ青だった肌の色が嘘のように温かみを取り戻し、止まっているように思えるほど小さかった呼吸は正常になっている。
それと同時に、アンリの口から黒い煙のようなものが出て来る。私はポシェットからフラスコを取り出し魔法でその煙をすべてフラスコの中に取り込み蓋を閉める。
「そちらは?」
黒い煙が出始めると同時に、アデリシアを守るように移動していたシャーリが問いかけてくる。
「これが呪いの正体って所だね」
「そちらがそうなのですか。それをどうするおつもりですか?」
「調べて発生源を探るつもりだよ」
フラスコを軽く振ってみると、先程まで黒い煙だったそれは黒い水に変化していて、私が揺らす度にゆらゆらと揺れている。
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