第79話 魔女、予感を得る

 とことこと徒歩で王都へ向かっています。なぜ徒歩なのか、それはなんとなくですね。いやいやホントだって、別に怒られたからって何も言わずに出てきたわけじゃないよ。ちゃんと別れの挨拶もしたし、海底のダンジョンのことも感謝されたからね。


 まあ、本当の所はそうした方がいいという魔女の予感ってやつかな。といっても私の予感はあまりあてにはならないのだけどね。いやあてにならないというのは正確じゃないかも知れない。


 私の場合は予感に従って動いた結果、なにがしかを回避していた可能性もなくはないといった所だ。そもそも私が予感を感じたのは100年ぶりくらいなんだよね。前の時は魔の森で普段と違う道を選んだほうが良いって突然ピキーンって感じで頭に浮かんできた。


 それに従った結果は、泥沼に嵌って蛭にたかられて大変な目にあったわけだけど、その泥沼と蛭の対処で結局その晩は師匠の家に帰れなかったんだよ。だけどその御蔭で会いたくなかった人に会わずに済んだといった感じだった。


 そんな感じなので、私の予感の場合はどっちを選んでもひどい目にあってる気しかしないのは正直解せないんだけどね。今回もピキーンと来てどっちにしたら良いかなと迷ったけど、結果としては徒歩をえらんだわけだよ。


 そして港街グラードから一日歩いたのだけど今のところ何かがあったということはなかった。途中で普通のクマが出てきて熊肉になったりしたくらいかな? 王都から港街までの街道はかなり整備されていて、定期的に巡回もしているようで魔物のたぐいや山賊なんかは見かけなかった。


 この調子で何もなければ3日後くらいには王都に戻れるかな。そろそろ日も暮れてきた所だけどちょうど野営地を発見したのでここで今晩は過ごそうと思う。今歩いている街道には所々こういった野営地がある。


 私のように徒歩で王都へ向かう人や、街道を巡回している雇われ冒険者なんかが利用したりする場所だね。石組みされた焚き火の跡などがあって、近くに川が流れている、そして見通しが良い場所が多いかな。


 早速魔法で火をおこして、テーブルと椅子をポシェットから取り出してグラードで買った魚介たっぷりスープとパンを取り出して食事を済ませる。あとは眠くなるまで焚き火の灯りを利用して読書タイム。


 さっさと空を飛んでいければ良いのだけど、そう考えるたびにピキーンと予感が反応するんだよね。無視しても良いのだけど、結局なにかのイベントを見逃しちゃうかもしれないと思うと、もったいない精神が出てきてしまうわけです。



 朝ごはんを食べ終えて、さてと行くかといったタイミングで、空から変態が降ってきた。咄嗟に「親方空から変態が!」といった私は悪くない。


 マントをたなびかせ、ふんどし一丁の変態。金色の髪は肩の辺りで切りそろえられていて、結構ムキムキな引き締まった筋肉を持つ変態。まごうこと無き変態が目の前にいる。


「かははは、おめえは確か魔の森の魔女どのの弟子だったか」


「そうですよ変態」


「まて、前にも言ったが吾のどこが変態だというのだ」


 何故か急にポージングを始める変態を冷めた目で見つめる。


「存在そのものが?」


「おめえさんは容赦がないな。このマントも褌も魔導具なのだがな」


 ポージングをやめて真顔でそんな事をのたまっている。


「もしかしてそれを着ているから服を着れないの? それなら変態って言ったことは謝るけど」


「ん? それは趣味だが」


「まごうこと無きただの変態だろうがーーー」


 とりあえずボディーに一発入れておく。「ぐぶるわ」とか言いながら吹っ飛んでいったのを確認して王都へ向かって歩くことにした。が、速攻で復活して回り込まれた。


「ナイスパンチだ。ではなくてだ少し話がある」


「変態と話をする趣味はないですよ」


「すぐ済む話だ、新たな魔女よ」


 パチンと変態が指を鳴らすとどこからともなくテーブルと椅子が現れた。それと日除けのパラソルが立てられており、ティーセットがテーブルの上に用意されていた。


「まあ座れ」


 私はため息をついてから着席する。テーブルの上にあったティーセットがひとりでに動き出し、私と変態の目の前に紅茶が置かれる。


「おめえさんに一つ聞きたいことがあってな。おめえさんダンジョンを破壊しなかったか?」


「したけど、あっちの方の街近くの海底にあったやつだね。ちなみにダンジョンマスターとかいなかったどころか魔物の一匹もいなかったよ」


「そうか破壊したのか……。それは感謝せねばならんな」


「ふーん? なんで? 逆に嫌味の一つでも言われると思ったけど」


「ふむ、吾がダンジョンの元を作ったのは以前話したはずだな」


「師匠の所で聞いたね」


「そのダンジョンなのだがな、今のおめえさんにならわかるだろうが、吾は壊すことが出来ない身の上だからだな」


「そういう事ね」


 私の師匠が導きの魔女であるのと同じで、目の前の変態は創生の魔女という存在なんだよね。この変態の場合は魔導具を作ることはできるのだけど、逆のことである破壊をするということが出来ない。


 ただし未完成品の場合は壊すことはできるし、魔導具以外も壊すことはできる。そういった存在になったために自分でダンジョンコアを壊すことが出来なくなったといった所だね。


「つまりはあなたは私にダンジョンコアの破壊を依頼したいってところかな」


「察しがよくて助かる、と言っても一切活用されていないものだけで良いがな。後は終わりを望むものに救いを与えてやってほしい」


「資源として利用されているのはそのままで良いって事?」


「そういう事だ、頼めるか?」


「まあ報酬がもらえて、私が暇なときでいいならその依頼受けてもいいよ」


「引き受けてくれるか、ならば報酬はこの吾愛用のふんどしを──」


「いらんわ、脱ごうとするな、燃やすよ」


 おもむろに立ち上がって褌を脱ごうとする変態を、ポシェットから取り出した杖で殴り飛ばした。

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