第60話 魔女、砕く
「エリー!」
吹き飛ばされた私にカルロが抱きつき受け止めてくれた。火龍山の時と同じように空気のクッションを作って止まれば良いのにって言われそうだけど、ほら私も一応女の子だしたまには守られたいって思ってもいいと思わない? うん、ごめんなさい冗談です、ただ単に普通に着地できそうだったから、カルロに受け止められたのが想定外でした。
「カルロありがとう、それよりもなんで降りてきたの?」
「勘です、僕たちも加わったほうがいいと感じましたので」
「そっか、勘なら仕方ないね。それとそろそろ下ろしてほしいかな」
「あっ、すみません」
お姫様だっこの状態から下ろしてもらう。セーランが頬を可愛く膨らませながらこちらをじーっと見てくるけどとりあえず気が付かないふりをしておこう。私たちの前ではアーサとリリが黒い煙を警戒するように見ている。さてどうしたものかなと見つめていると、アルダとベルダを包んでいた黒い煙が収束し始めた。収束し始めた煙がどんどん吸い込まれるようにして消え去った。
煙が消え去った場所にはアルダとベルダの姿はなく、代わりに高さが私の三倍ほどあり、頭が二つ、腕が四本、その巨体を支えるためなのかかなり太い二本の足、そして胸元にはヒビだらけになっているが、一回り大きくなったダンジョンコアを持つ骸骨の姿があった。二つの頭蓋骨の眼窩には、感情らしきものは伺えずただ赤い光をともしているだけだった。アルダとベルダの意思のようなものは感じられない、そのせいかダンジョンのモンスターのようにも見える。
四つの腕のうち二つの手にはアルダとベルダの杖が握られている。そして残り二本の手にはどこからか現れた槍が握られていた。骸骨と呼ぶのもなんだし仮称としてアベルダとでも呼びましょうかね。
「さてと、カルロは何か作戦でもある?」
「とりあえずはあのヒビが入っているダンジョンコアを攻撃して壊したら良いと思うのですが、先程の魔術はもう使えないのですか?」
「一応試してはみたのだけどあっさり見破られてしまうみたいだから無理かな。まああそこまで壊れているなら普通に攻撃したら割れるとは思うけどね」
試しに魔法を設置してみたのだけど、あっさり見つかって腕の一振りで魔法が消し飛ばされた。魔法が無理なら魔術を使うか、今言ったように一発殴れば壊せるとは思う。
「とりあえず攻撃してみましょうか」
「ですね、アーサは俺の援護を、リリはエリーの援護をお願いします、セーランは適時援護と何か異変があれば知らせてください」
それぞれが返事をして走り出し、カルロたちは右回り、私とリリは左回りでアベルダの背後を目指す。ある程度近づいた所でアベルダは杖を振るい魔術で攻撃してくる。魔力が少ないためか大した攻撃ではないので避ける、代わりに私も魔術を使って攻撃してみる。
「炎の礫」
炎をまとった礫を飛ばしてみるが、命中した場所には傷ひとつ無いように見えた。私たちとリリ、カルロとサーサで二手に別れたのだけど、二つの顔がそれぞれをフォローしているようで死角というものは無さそうだった。近寄ろうと思えば槍が振るわれ、少し離れれば魔術が飛んでくるという非常に厄介な攻撃をしてくる。カルロもアーサもリリも何度か攻撃を当てているのだけど、骨どころかヒビの入っているダンジョンコアにすら傷ひとつつけることもできていないようだ。
普通の肉体を持った魔物なら、傷つけていけばそのうち失血などで倒せるのだろうけど、血肉がない骨なのでそういう手も使えず、ついでに骨が硬くて砕くことは出来無さそう。一度戻るように指示をしてセーランの場所まで戻る。アベルダはその図体のためか移動速度は遅いようで簡単に離脱できた。セーランがカルロとアーサに駆け寄り回復の祈りを捧げている。どうやらアベルダの魔術攻撃がかすったのか軽い火傷をしていたようだ。
「セーランありがとうございます。それにしても硬いですね、どうにも僕たちの攻撃は効かないようです」
「そうですねダンジョンコア自体も硬くて、私の攻撃でも壊すことはできませんでした」
あそこまで硬いとは思わなかった、多分残り少ない魔力を使って障壁を張っているんだろうね。
「よし、私がダンジョンコアを破壊するから、カルロとアーサであいつの膝裏を攻撃してちょうだい、ほらオーガの時みたいにね」
「エリーには何かあのダンジョンコアを壊す手段があるのですか?」
「まあ見てなさい、とっておきの技だけど今度教えてあげるよ。それとリリは二人の援護をお願いね」
「わかりました」
作戦は決まった。まずはカルロとアーサが走り出し、それを追うようにリリも駆け出す。私は杖をポシェットに収納してアベルダに気が付かれないように歩いていく。アベルダはカルロ達に向かって魔術で火や水の矢を飛ばすが、うまく避けてカルロたちは更に近寄る。ある程度近づいた所で槍の攻撃をしてくるがそれも躱しながらカルロとアーサは足の間を抜けて背後へ回る。
アベルダの頭が左右に動きカルロとアーサを探しているようだけど見つけられず、正面に留まっているリリへと標的を変えて槍で攻撃を仕掛けている。うまく背後に回ったカルロとアーサがタイミングを合わせアベルダの膝裏へ攻撃を仕掛ける。いわゆる膝カックンというやつだね、バランスを崩したアベルダが転倒を防ぐために四本の腕を地面につけて耐えている。
「エリー今です!」
アベルダに気づかれないように気配を消して近寄っていた私のちょうど目の前にダンジョンコアがある。アベルダが私に気がついたようで腕を振り上げ攻撃してくる。私は腕に魔力をまとわせてそれを跳ね上げた。アベルダは腕が跳ね上げられたせいで体制を崩して再び倒れ込んだ。私は再びダンジョンコアに目をやりそっと触れる。ダンジョンコアが一瞬ドクリと震えたような気がした。
『アルダ、ベルダ、あなた達の次の人生に幸多きことを願っているわ』
ダンジョンコアに触れていた手を一度離し、勢いをつけて掌底を叩き込む。魔力をまとった掌底は、障壁を破壊しそのままヒビだらけだったダンジョンコアを砕くことに成功した。ダンジョンコアが砕けたことにより、アベルダは黒い塵のように空中へと消えて行く。アベルダが消え去った後には、砕けたダンジョンコアだけが残っていた。それを拾い上げようとダンジョンコアに触れた時一瞬だけ風が私の頬を撫でた。
『((エリー殿、感謝する))』
頬に触れた風からはそんな声が聞こえた気がした。
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