第41話 魔女、抱きしめる
懐かしい話に花を咲かせお互いの身の上話で親睦を深めた。ケンヤは転生時に神に出会って能力をもらったみたい。貴族の家に生まれ成人と同時に無能の烙印を押されて家を追い出されて旅に出た。その辺りはケンヤがわざとそういう流れにしたと言っている、せっかく神から能力をもらった上で剣と魔法の異世界に転生したわけだし、家を守るだけのために一生をすごすのは嫌だったと言っている。
異世界転生物の主人公のように色々な国を旅して、後にこの国を訪れ、そこである事件に巻き込まれて、結果的に貴族に叙任されこの国に身を落ち着けて今に至るとか。火龍と戦っている時のご老人の姿は外向けの姿との事で今の若い姿が本来の姿みたい。神の試練を超えた事で神の眷属となり不老を手に入れた後に若返りの効果のあるポーションを飲んだようだ。ちなみに3人のメイドさんはケンヤのお嫁さんと同時にケンヤの眷属となって同じく不老になっているみたい。
もう一人最初の奥さんがいたのだけど、その人は結局人としての生を全うして旅立っていった。そしてその人との子どもが今のダーナ名を引き継いで領主をしているわけだね。奥さんの事については根掘り葉掘り聞くのも無粋なので「そうなんだ」程度に流しておいた。なんていうか、私も人のこと言えないけど不老って意外とその辺にいるもんなんだねって言ったら「そんなこと無いですからね」とアールヴに全力で否定された。不死ではないので飽きるまでこの人生を楽しみますよとケンヤは笑っていた。そんな話を続けていたら気づけば結構時間が立っていたようで、そろそろ私の用事を済まさせてもらおうと思う。
「ケンヤとアールヴに少し見てほしいものがあるんだけど良いかな?」
「何でしょうか?」
「私もかまいませんよ」
収納ポシェットから解析した結晶の情報を移した魔石を取り出してテーブルに置く。
「これなんだけどね、アールヴに見せたあの結晶を解析して、ここに情報を入れているのよ。二人なら私の気が付かなかったことにも何か気づくかなと思ってね」
魔石に魔力を流してホログラムを浮かび上がらせる。
「えっ、なんですかこれ、すごいですね」
ホログラムを見てケンヤは驚いていたけど、映像が進むにつれて顔が険しくなっていく。一通りホログラムの再生が終わった後に、もう一度最初から見せてくださいというリクエストに答えて再び再生させる。
「ストップ! えっと少し戻せますか? そう、そこですそこで一度止めてください」
ケンヤの指示に従い映像を止めた場所には暗い赤のローブを着てフードを目深に被った人物が映し出されている。
「この人がどうしたの?」
「いえ、ここをよく見てください、この男の手の甲にある紋章は50年ほど前に滅んだ国の国章を模したものになっています」
「へー、ちなみに国が滅んだ理由は?」
「魔物によるスタンピードを聞いていますが、あまり詳しくは、アールヴさんはどうですか?」
「私も詳しくは調べていませんので何が原因かまでは。崩壊後すぐにいくつもの小家家群が生まれましたし、今でもその国の後継を巡ってが争い合っていますね」
「つまりは、今回の事を起こした奴らはその小国家のどれかってことになるのかな」
「そうなのでしょうね」
「はぁ、国が絡むなら私にはお手上げかな、この魔石はあげるから二人で好きにしていいよ、その代わりなにかわかったら教えてほしいかな。あの獣人の少女の無念くらいは晴らしてあげたいからね」
「わかりました、これはお預かりしてこちらでも調べてみます、アールヴさんには──」
「アールヴ用にもう一個作るよ」
新たに魔石を取り出してチョチョイと中身をコピーして二人に渡す。
「エリーさんありがとうございます」
それぞれが魔石を収納したのを見てから手をパンと叩く。
「とりあえず私の用事は済んだかな、それでケンヤはどうして私を呼んだのかそろそろ教えてもらえないかな?」
「あー、それはもう大体済んでますよ。尋常じゃない力を持った転生者が自分の街に来たら気になるので話してみたかった。あとはその人が私の敵なのかどうかあたりを知りたかったんですよ」
「それで結果は?」
「私では相手にならないという事はわかりましたし、エリーの性格からして敵対しなければ問題無さそうだという感じですかね。あとは気が合いそうだということと、同じ不老持ちというのもいいですね」
色々と考えていたのだけど、大した理由じゃなかったわ。まあ自分のテリトリーに爆発物の様な人が来たら気になるよね。
「そういうわけなので、よければ今後とも懇意にしていただければ嬉しいですね」
「むしろ私のほうがケンヤとは今後とも仲良くしていきたいと思ってるよ」
「醤油とお味噌のためですよね」
「わかっちゃった?」
「ええ、同じ立場なら私もそう思いますから」
お互い「あはははは」と笑いながら握手する。元の世界でも全然違う人生を生き、似て非なる経緯でこの世界に降りたち、この世界でも全く異なる生を歩んできたのだけどなんだか気が合うっていうのは不思議だね。それ相応の年数を生きているわけで、わざわざ敵を作る必要はないという共通認識もあるのだろうけどね。
「さてとそれじゃあ今日はそろそろお暇しましょうか」
「晩ごはんも食べて行って下さいよ、とっておきを用意しているんですよ、なんなら泊まっていきませんか」
「申し訳ありませんがギルドの仕事がまだ残っていまして、それに思っていた以上長居をしてしまったようですので失礼しようかと」
「それじゃあ私も一緒に帰ろうかな、ちなみに晩ごはんってなんだったの?」
「カレーです」
「……」
「カレーライスですよ」
「な、なんだってー」
「ナンではなくてちゃんとライスですから」
「ごめん、言ってみたかっただけなんだよ」
「ええ、承知していますとも」
このなんとも言えないやり取りは同郷だから通じるものを感じて嬉しいね。
「よしアールヴ帰るのは晩ごはんをごちそうになってからにしましょうか」
「エリーさん急にどうしたんですか、そのカレーというのがそんなに食べたいんですか?」
「うふふふふ、あたり前じゃないのカレーよカレー、食べないなんてありえないでしょう!」
「アールヴもぜひ食べて行ってください、晩ごはんを食べている間にエリーさんへの報酬は用意させておきます、追加でカレー粉もね」
「ケンヤ、あなたは私にとっての神だよ!」
「え、エリーさん、くる、苦し、骨、ほねがー」
ついつい力いっぱい抱きしめてしまったのは許してほしい。ちゃんと魔術で治療したから大丈夫ですよ。
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