第42話 魔女、手に入れる
side ケンヤ
いま私の目の前でカレーを食べている、少女にしか見えない人物を最初に目にしたのは、馬車の中から街を歩いている姿を見かけた時だった。その時はもしやとだけ思っただけだったが、その数日後に図書館から情報が回ってきた事で彼女の名前と転生者だということがわかった。実際は転生者ではなくて転移者だったわけですけどね、密かに情報を集めた限りでは善性の人物だということは想像ができた。逆に今までの経歴などは全く手に入れることができなかった。
調べ始めて暫く経った後に、冒険者のギルドマスターと顔見知りだという情報や、錬金術に精通しているなんて話も回ってきた。一度ギルドに出向いてギルドマスターであるアールヴに話を聞いてみた結果、この街の近くにある魔の森の奥に住む魔女の弟子だという事もわかった。何度か接触しようと思っていたのだけど、スタンピードが起きたりとなかなかタイミングが合わず結局今日という日になってしまった。収穫としては彼女の人となりが知れたことだろうか、後は石鹸の製造方法を知れたことだろう。
それにしてもエリーさんがこの世界に来てから既に300年近く生きているのは驚いたし、元の世界では私の死んだ時代とほぼ同じというのも驚いた。私がこの世界に転生したのはだいたい100年前だ、私が過去に出会った転生者も同じくらいの時期だったはずだ。その事をエリーに話した所「師匠と何気に話していたことなんだけどね」と推測を教えてくれた。それは私が死に、エリーが落ちた時期が、少しだけズレていた事で、こちらの世界に来る時期が大幅にズレたのではないかということだった。
三角フラスコを想像してみてほしい。入り口はほぼおなじになるが底は入り口に比べると大きい、多分そんな感じで落ちる場所が離れたのだろうという話だった。エリーの師匠の魔女も過去に転生者を名乗るものと出会ったことがあるらしいのだけど、不思議なことにどの転生者も元の世界では、同じ時代から来たものだったとのことだ。その事から今後も同じ時代からこの世界に転生もしくは転移してくる人たちはいるのだろう。
「あー食った食った、ケンヤーありがとうね」
「そこまで満足していただけたのなら私も嬉しく思います」
満足気に膨らんだお腹を擦っているエリーを見て嬉しく思う。同郷の人とここまで落ち着いて話す機会は今までなかったし、なぜだかエリーとは気があった。
「それじゃあ、そろそろお暇させてもらうね、醤油にお味噌とみりんにカレー粉本当にありがとうね」
「こちらこそソーマ酒なんて高価なものありがとうございます、石鹸の件で国王との交渉に何本か使わせていただきますが良いでしょうか?」
「好きにしたら良いよ、それはもうケンヤのものだからね」
「ありがとうございます、馬車を用意していますのでそれを使ってください」
「あー馬車は大丈夫かな、転移で帰るからほらアールヴ帰るよ」
アールヴの手を掴むとこちらに手を降って「それじゃあまたね、カレーごちそうさま」と言って魔力が流れたと思ったら二人は一瞬にして消えていた。
「ははは、ためらいもなく転移するとかエリーってほんと何者なのでしょうね」
◆
ケンヤとの出会いから約一月ほど経った。今日はアールヴに呼ばれて冒険者ギルドに来ている。
「ミランダさんギルドマスターいますか? 呼ばれてきたんですけど」
「ええ聞いています、そのまま二階に上がってくださって大丈夫です」
お礼を言ってカウンターの中に入って二階へ上がる。
「アールヴ来たよ」
「エリーさん、少しだけ待ってくださいこれだけ終わらせたいので」
なんか難しい顔をしながら書類を読んでいる。
「いいよいいよ、適当にお茶でも入れて待ってるから」
「申し訳ありません、すぐすませますので」
適当に茶葉を取り出して紅茶を入れる。ポシェットから本を取り出して読んで待つことに。しばらくお茶を飲みながら読書をしていると声をかけられた。
「エリーさんお待たせしました」
「お疲れさま、少し前みたいに大量の書類の山はなくなっちゃったんだね」
「ええ、魔物の素材もさばききれましたからね、書類も一気に減りましたよ」
アールヴも自分で紅茶を入れて、小箱をテーブルに置きながら私の対面に座る。
「それで今日は頼んでいた物が届いたって?」
「こちらになります、中を確認してください」
テーブルの上に置いてある小箱を手にとり開けると中には雫型の宝石らしきものが入っている。これだよこれこれが必要だったんだよね。
「アールヴありがとう、どうしてもこれだけはこの辺りじゃ手にはいらなかったからね」
「そうですね、ここは海から離れていますし、それ自体なかなか手にはいらないものですからね」
「支払いはお金で良い? それともなにか欲しい物でもある?」
「いえこれはそのまま持って行ってください、実はですねこれはエリーさんから受け取ったエリクサーのお陰で手に入ったものですので」
「そうなんだ、じゃあエリクサーもう1本渡しておくよ、これと交換でお願いね」
「あのエリーさん、つかぬことをお伺いしますがいったいエリクサーは何本持っているんですか?」
「んーさあ? 数えてないから分からないけどまだいっぱいあるよ」
アールヴは疲れたように額を抑えて顔を上に向けている。私は取り出したエリクサーをテーブルに置き、代わりに小箱を収納する。
「わかっておられると思いますが、余り人に配らないほうが良いとだけ言っておきます」
「わかってるよ、信用できる人にしか渡さないし見せもしないよ」
「それもどうかと思いますが、まあお手柔らかにお願いしますよ」
「それじゃあ今回はありがとうね」
アールヴと別れ、ギルドの依頼の張られた掲示板を眺めた後、一月ほど前に購入した我が家に戻ることにした。
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