第26話 魔女、お茶する
静まり返るギルド内に少し戸惑ったように頭を上げるお姫様。仕方ないのでパチパチパチパチと私が手を叩くと周りの人達も少しずつ反応を返し始める。広がる拍手の中で所々から声が上がり始める「俺はやるぜ」やら「ここは俺たちの街だ守るのは当然だぜ」という感じの声がそこかしこから聞こえる。領主のお姫様に頭を下げられて奮起しないようじゃ冒険者がすたるって感じだね。お姫様が下がり再びギルドマスターが前に出て場を落ち着かせる。
「アデリシア様にはこのままギルドに残って我々の支援をしてもらう事になっている。報酬のことも含めて一度外の連中にも伝えてほしい。ソロのものは酒場の方に集まって臨時でパーティーを組んでもらいたいと思っているので移動してくれ」
ギルドマスターはそう言った後こちらを見て再び目を彷徨わせた後声をかけてくる。
「あー、そこの黒いローブの「(エリーちゃんですよ)」エリー、ちゃん、少し話があるのだが部屋まで来てもらえないだろうか」
途中でサーラさんから私の名前を耳打ちされたギルドマスターからお呼びがかかった。
「おいエリーお前何やらかした」
「何もしてないですよ」
「さっきからの反応を見るにそうは思えないんだがな」
「あはは、ちょっとした知り合いだっただけですよ、それじゃあ行ってきますね。ついでなのでアデラのことを見ておいてください」
「おう分かった、一度外に出ておくわ」
さっさと階段を上がり部屋にいったギルドマスターを追いかけるようにカウンターの中に入り込むと、ミランダさんとサーラが案内してくれた。
「ねえエリー何やらかしたの?」
「サーラさんも大将と同じこと言うんですね、大丈夫ですよまだ何もやってませんから」
「はぁ、あなた最初はそうでもなかったけど、その後の行動が予想外なのよね」
ミランダさんにもため息をつかれた。言うほどおかしな事はしていないつもりなんだけどね。ミランダさんがコンコンと扉を叩くと中から入るように声がかけられる。中に入るとギルドマスターとお姫様に2人の護衛の騎士がいるようだ、ギルドマスターに良いの? と目配せするとうなずかれたのでそのまま部屋に入り空いている席に勝手に座る。護衛騎士の二人が私の行動に何か言おうとするけどお姫様が手を上げて留める。
「サーララは全員分の飲み物を頼む、ミランダは下の手伝いに回ってほしい」
ギルドマスターの言葉に返事をして二人は部屋から出ていく。沈黙に包まれた部屋の中で待つこと数分、サーラさんがお茶を持ってきて置いていく。人数分といっても護衛の二人は立ったままなのでギルドマスターとお姫様と私の分だけ置くと一礼して部屋から出ていった。沈黙の流れる中カップを手にとりお茶を一口飲む。うん美味しいね、お姫様がいるから奮発したのかな。目線を向けると諦めたような表情を浮かべてギルドマスターもお茶を一口飲む。
「なぜここにいる?」
「おじいちゃんもうボケたの? おじいちゃんが部屋によんだからでしょ」
「誰がおじちゃんですか、そうではなくてどうして今この街にいるかを聞いているのです」
言っても良いのか、お姫様に一瞬だけ目線を向けて向きなおると少し考え込んだ後にギルドマスターのアールヴはお姫様に話しかける。
「アデリシア様、ここでの話はご内密に願いたいのですが」
「それはわたくしが聞いては不都合があるということでしょうか?」
「そうともいえますし、難しいところです。正直に言いますと知らないほうがいいという物がこの世にはあるということです」
少し考える仕草をして私を見る。
「エリーさんとおっしゃられましたわね、この話はわたくしがお聞きしてもよろしいと思われますか?」
あはは、面白い子だね、アールヴに判断できない事を見た目だけなら年下に見える私に聞いてくるなんてさ。まあ、私にとっては聞かれても困ることはないからどっちでも良いのだけどね。あーでもさっきから睨んできてる護衛の二人には聞かれないほうが良いかな、どこまで話が広がるかわからないからね。
「そうですね、そちらの護衛のお二人は聞かないほうが良いかも知れませんね」
「貴様!」
「おやめなさいシャーリ、アンリあなたもですよ」
片方の護衛が剣を抜こうとするがお姫様に止められる。もう一人の護衛は大して動きを見せていないけど袖口が不自然に揺れたことから暗器でも出そうとしていたのかな。その様子をお茶を飲みながらのほほんと眺める。それがまた気に障ったのか、こちらに殺気を向けてくる護衛二人。それを見てお姫様は立ち上がる。
「アールヴ様、エリー様、わたくし達は少し席を外しますわ」
「姫様!」
「申し訳ないアデリシア様」
「いいえ、ですが後ほど話せることだけはお聞かせいただきますわね、シャーリ、アンリ行きますわよ」
そう言ってお姫様は護衛の二人を引き連れて部屋から出ていった。
side アデリシア
「何なんですかあの女は、姫様に出ていけなんて失礼にも程がありますよ!」
シャーリが怒りをあらわに叫んでいますけど、別にわたくしに出ていけとは全く言ってないように思えたのですけど。わたくしの護衛であるシャーリとアンリには出て行ってほしいというように思えたのだけど違うのでしょうか? 部屋から出て近くに控えていたギルド職員の女性に休める部屋に案内してもらい、紅茶を頼んだ所でアンリがいないことに気が付きました。
「シャーリ、アンリはどちらに?」
シャーリはバツが悪そうな表情を浮かべて天井に目線を送る。いつの間にかどこからか天井裏に上がったみたいですね。
「護衛をほっぽって何をしているのでしょうね、怪我だけはしないようにお願いしますよ」
「アンリのことですから何か情報を持ち帰ってきてくれると思います」
「余りお行儀の良いこととは思えませんけど」
ノックもなしに扉が開いたと思えばそこには少し薄汚れたアンリが立っています。その手には外で受け取ったと思われる紅茶のポットとカップがトレイに乗せられていますね。アンリはそのまま部屋に入ってきて、代わりにシャーリが扉を閉めている。
「無理でした」
アンリはそれだけ言うと、トレイに乗っていた手拭きで手を拭いた後に紅茶を入れ始める。部屋には紅茶のいい香りが漂ってくる。良い茶葉を使っているのでしょうね、これなら味も期待できそうですわね。
「アンリが無理ってどういう事よ、天井裏まで警戒されてたってこと?」
「分からない、どこから聞こうとしても中の様子が全く分からなかった」
渡された紅茶の香りを楽しんだ後に一口、これはローズティーかしら飲んだことのないフレーバーですけど美味しいですわね。後ほどギルドマスターにどこのものかお聞きしてみましょうかしら。
「ほらアンリもシャーリもお座りになって紅茶を飲んで落ち着きなさい」
「「失礼します」」
添えられているクッキーも紅茶にあっていて美味しいですね。
「それにしてもエリーとは何者なのでしょうね、ギルドマスターもそうですが、エリーからは勝てるイメージが全くわかなかったのですが」
「本当ですか姫様」
「ええ」
「そんな、あのような少女が姫様でもどうにもならない相手なんて」
アンリとシャーリはかなり動揺しているようですね、本当にあのエリーという方はどういった方なのでしょうか。先代様と似たような感覚を覚えましたが見た目はわたくしより年下の少女にしか見えないですのにね。
「(もしかしますと今回の戦いは、思っているよりも被害が少なくなるかも知れませんわね)」
わたくしの呟きは、紅茶とともに誰に聞かれることもなく口の中に消えていきました。
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