第23話 魔女、錬金術を語る

 ギルドから出て少し考えながら歩く。魔の森の奥から地鳴りねー、火龍山がまた噴火でもするのかな。前に火龍山が噴火した時は師匠と一緒に素材取り放題の大収穫祭だーとか言って、火龍山の方向から逃げてきた魔物を狩りまくったんだよね。普段は奥地に引きこもっている魔物もいて珍しい素材が取れたのは良いけど解体が大変だった。


「大将ただいまー」


「エリーか今日は早いな、晩飯まではもう少し待ってくれ」


「良いですよ、とりあえず一風呂浴びてきます」


 裏口から外に出て早速お湯はりをしてお風呂に入る。外から帰ってすぐにお風呂に入れるのって贅沢だねー。鼻歌を口ずさみながら体と頭を洗い湯船に浸かる。さっきの魔物の大移動に関しては明日少し魔の森を見てみるのも良いかもしれないね、規模によってはスタンピードがこの街を襲うかもしれないから。前回と前々回は師匠と私で奥地から来た魔物はほぼ倒したから、こっちの方までは余り影響はなかったと思うのだけど、今回はきっと師匠もノータッチだろうからね。問題は私がどう動くかだね、直接なにかするつもりは今のところ無いのだけど、どうしたものかな。



 翌日通常の森を抜けて、魔の森に入った所で久しぶりに杖に腰掛けて空を飛ぶ。心なしか魔物の移動が起きているように見える。火龍山の方に目を向けて見ると確かに不穏な雰囲気を感じる。まだ噴火するかは分からないけどそれも後数日もしたら分かるだろうね。火龍山の位置は師匠の家を頂点として、ダーナの街と火龍山は正三角形の両端の位置関係になっている。前回の時も前々回の時も素材を集めるのに大興奮していて、スタンピードの事とか魔物の大移動とか頭になかったなー。今回師匠は家の近くに来る魔物以外は手を出さないと思うから、火龍山のこちら側から追われてくる魔物はほぼ全部ダーナの街に来るかもしれないね。


 直接何かをするつもりはないけど、回復薬いわゆるポーションを作る依頼はあるかもしれないね。今のギルドでは、私はそこそこ出来る錬金術師として通っている。ついでに言っておくと、今のダーナの街に薬師はいても錬金術師はいないみたいなんだよね。数年前まではいたらしいのだけど老衰でお亡くなりになったと聞いた。どうして錬金術師として知られるようになったかは、色々やらかしたってわけでもなくはない、もう過ぎたことだからいいよね。何をしたのかさっさと吐けって? 特に悪いことをしたわけじゃないんだよ?


 ガラさんが解体中に怪我をしてその近くにたまたま私がいてポーションで治療したとか、重傷を負ってギルドに運ばれてきたゴールド冒険者を手持ちの薬草でちょちょいっと治療したからとか、アデラのグループの子の病気を治したとか、その程度しかしていないんだけどね、気づいたらこうなってました。あれ私なんかやっちゃいました? なんてとぼけたりはしないよ、全て私が悪いんですよ。はい、全て私の自業自得です、といっても使ったポーションは低級だし、ゴールド冒険者に使った薬草もその辺りで取れる普通の薬草だし、病気もちょっと重たい風邪だったし大したことしていないんだよ。


 ただね使ったポーションも薬草も病気の治療も私の血を少し使ったので効果が数倍になっただけなんだよ。そんなわけで、今の私は錬金術師という事になっている。それはそれで魔女だとか魔女の弟子だとか言われるよりは良いから、否定しないで錬金術師として行動している。この街の人達は錬金術師というものがどういうものなのか、あんまりわかってないので、今のところ平穏に過ごせている部分もある。お亡くなりになった錬金術師はそこまで腕は良くなかったのかもしれないね。


 流石にゴールド冒険者パーティーの人たちは錬金術師がどういうものかちゃんと知っているみたいで、治療の対価として詳しいことは聞かない上に周りにも言わないでとお願いはしている。治療が終わった時にギルドにいる人たちの前で、何か困ったことがあれば力になるとも言ってくれた。そのおかげか、ギルドで私が絡まれるなんて事はおきていないのは助かっているとも言えるのだけど、そのせいで私が錬金術師だという噂が一気に広まってしまった原因でもある。今のところギルドマスターや領主にお呼ばれはしていないので、あくまで冒険者間で広まっている噂止まりだとは思っている。



 夜となり部屋にニーナちゃんが訪ねてくる。既にニーナちゃんは”見る”能力をある程度使えるようになっている。あとは練習あるのみなので本格的に錬金術師としての修行を開始する。まずは基礎中の基礎とも言える素材の見分け方を覚える所から始める。師匠が私のために作ってくれた教本を複製してニーナちゃんに渡してあげる。そして採集をしておいた本物の薬草やハーブを教本と照らし合わせて覚えてもらう。


 この覚える作業で役に立つのがニーナちゃんの”見る”能力になる。錬金術師はこの”見る”能力が無いと作れる範囲も低級までだろうね。素材の持つ保有魔力と色でどういう用途に使えるのかが変わってくる。それを一発で見分けられるのがニーナちゃんの持つ能力になる。普通の錬金術師は最低レベル2あれば上級までは行けると思う。上級まで作れる実力があれば自然と植物系以外の素材も勘と経験で見分けられる様になる。そう、ニーナちゃんの持つレベル3というものは、上級を作れる実力の人が長年の経験で見極める物を勘ではなく視覚として見ることが出来るってわけなんだよね。


 レベル2までなら、努力と根性でなんとかなるのだけど、レベル3以降の才能が物を言うという事を、つらつらつらつらとニーナちゃんに話していたのだけど余り実感はわいていないみたい。


「まあ、そういうわけだからまずは初級の素材の見極めから勉強していきましょうか、目標は能力を使わずに正確に見極められるようになることかな」


「能力で見たほうが正確でいいと思うのですけど」


「それはそうだけどね、でもずっと能力に頼っているといつまでも成長できないと思わない?」


「確かにそうかもしれませんね」


「だからまずは能力を使わずに素材の魔力と色を予測して、次に答え合わせとして能力を使ってあっているかを確認する感じでいいよ。それが出来るのも能力を持っている人の特権だからね。能力がない人は自分で確認なんて出来ないから、わかったかな?」


「わかりました師匠、たしかに能力を持っているのは恵まれていますね」


「そういうわけで、一つずつ確認していきましょうか」


 収納ポシェットから複数の薬草とハーブを取り出し一つずつ確認する作業を続ける。ちなみにハーブはブラフだったりする、ハーブはあくまでただの植物なので魔力は保有していない、ハーブと似た形の薬草もあるのでそれを見極めるのも大事だからね。



 ニーナちゃんが中級の植物系素材をほぼ完璧に見極められるまでにかかった期間はたった一ヶ月だった、いやーほんと優秀だよね、私のときなんかはそれこそ三ヶ月近くかかったんだよ。能力があるとはいえこんな短時間で習得できるなんて、それだけ真剣なのとアーシアさんのために努力出来ているってことだろうね。この一ヶ月は結構穏やかに過ぎていったのだけど、ついに火龍山が噴火をしそうな兆候を見せ始めた。私はまだどう行動するのが良いか決めかねているのだけどね。

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