第22話 魔女、ギルドに納品する

 ニーナちゃんを弟子にしてから数日過ぎた。ニーナちゃんに関しては今まで通り教会教室に通いながら、夜には”見る”能力を使い熟す修行をしてもらっている。私の方は私の方で朝には街を出て森に入り、薬草やハーブを採集して常設依頼の出ているものはギルドに提出している。


 他には図書館に行き気になる本をこっそり複製したりもしたかな。あとは大将があの傷だらけのはぐれオークをギルドに出して、その報酬を受け取ったりとかなりお金には余裕ができた。お金の使い道がいまいち無いのだけどね、とりあえずまとめていくらかは宿泊代として大将には渡しておいた、ニーナちゃんの件があるから受け取ろうとしなかったけど、それはそれこれはこれと言って受け取ってもらった。



「ありゃ? お昼なのに今日はギルドに人がいっぱいだね何かあったの?」


「あっ、エリーの姉御おはようございます」


「アデラもおはよう、もうお昼だけどねー」


 壁際にいたボロボロのローブを纏った少年のように見える少女に声を掛けられる。この子はアデラ、孤児の女の子達をまとめている子だ。アデラのグループの女の子たちが、素行の悪い冒険者に絡まれている所をたまたま助けたのが縁で話をするようになった。その冒険者達はどうしたかって? さあ生きてはいるんじゃないかな。最近ギルド周辺じゃ見ないけどね。


「それがですね、魔の森を探索していたシルバーの冒険者が森の奥の方から地鳴りのような魔物の唸り声のようなものを聞いたみたいです、といってもかなり遠くの方みたいですけど」


「ふーん奥の方からね、それとこの冒険者の多さって関係あるの?」


「それに関係するかはまだ分かりませんが、どうやら魔物の大移動の兆候がみられたとかで危険を感じた人たちが戻ってきたみたいですね」


「へーさすが辺境って所かな、ここの冒険者って結構優秀なんだね」


 訝しげに見てくるアデラに付いてくるように言って、今日収集した常設依頼の薬草とハーブを持って素材引き渡し所へいく。身の危険を感じてすぐに退避してくるその勘の良さと実行に移せる行動力は簡単に身につくものじゃないからね、それがとっさに出来るのは優秀な証拠だね。


「こんにちはガラさん、今日もこれお願いしますね」


「エリーとアデラか、いつもの薬草とハーブだな」


「それとこれ解体お願いしますね、素材と魔石はそのまま引き取りで、お肉はくださいな」


 ローブで隠れるように吊るしていたツノウサギ2匹を取り出して渡す。


「血抜きはちゃんとされているようだな、ここまで血抜きもきちんと出来ているなら自分で解体も出来るだろ」


「解体は出来ますよ、面倒くさいだけなのでやらないだけですよ」


「お前なー、駆け出しは何でもやって金を稼ぐもんなんだがな、お前に言っても仕方ないか」


「そうそう、私は良いんですよその代わりアデラに解体の仕方教えてあげて貰えませんか?」


「俺は構わねーが、手間賃を貰うから素材の売却の金はなくなるぞ」


「良いですよ、というわけでアデラは解体の勉強させてもらいなさい、お肉はそのまま持って行っていいからね」


 アデラは急なことで戸惑っているが、私が頷くと頭を下げてくれる。


「ダンこっちへ来てくれ解体依頼だ」


 ガラさんが奥の地下へ通じる扉を開けて声を掛けるとダンと呼ばれた男性が走ってくる。


「ダンこいつを頼むわ、素材と魔石は売却、肉はアデラに渡してやってくれ、それとアデラに解体の指導もしてやってくれ指導料は素材の売却費から相殺だ、でいんだよな」


「ええ良いですよ、ダンさんアデラは初心者ですから優しくお願いしますね」


「エリーちゃんの頼みじゃ断れないな、アデラといったか入ってこい解体の指導をしてやる、肉は持ち帰りだろうから駄目にしないようにしっかり覚えろよ」


「エリーの姉御ありがとうございます、ダンさんよろしくお願いします」


 アデラがダンさんについて行くのを見送って、ガラさんからは査定の終わった薬草とハーブの分のお金を受け取り挨拶をすませてその場を離れる。受付で忙しそうにしているミランダさんとサーラに手を降ってそのままギルドの外へ出る。






side アデラ


「アデラといったか、お前は運がいいな」


「わたしもそう思います」


 本当にそう思う、エリーの姉御に出会ってなければ、今頃はガキ共と一緒にゴミを漁っているか野垂れ死んでいるか、もしくは無茶をして魔物か動物の餌になっていたと思う。たまたまガラの悪い冒険者にガキ共が絡まれていた所をエリーの姉御が助けたとかで、それのお礼を言いに行ったのが良かった。


 それからはたまに外まで連れて行ってくれて薬草の見分け方や、食べられる植物を教えてくれたりと面倒を見てくれたりしている。単なる気まぐれかも知れないけど今回のように解体の指導の依頼までしてくれるのはかなりありがたい。


「エリーちゃんのお願いだからな、しっかり教えてやる。それを無駄にしないようにちゃんと真剣に学べよ」


「はいダンさん、よろしくお願いします」


「とりあえず2匹分あるから一匹は俺が解体する、それを真似るようにもう一匹を解体してみろ」


「はい」


 そう言って小型のナイフを渡してくれた。


「ツノウサギだが、取れる素材はこのツノと毛皮、それと魔石だな、内臓は食えなくはないが余りうまくないから普通は捨てる」


 真剣に話を聞きながらまずはツノを切り落とす。硬いかと思ったけどひっくり返して裏の方からナイフを入れるとザクッという音とともに意外と簡単に切ることが出来た。


「そうだ、そうやって裏から切ると簡単に切れる、次に内蔵なんだがエリーちゃんは血抜きのあとに内蔵は抜いて洗ってくれているから今回はいいが、自分でやる時は血抜きもちゃんとやらないと臭くて食えたものじゃなくなるからな」


「ダンさん、ちなみに血抜きはどうやったら良いんですか?」


「本当は生きたまま首の太い血管と尻尾を切って吊るすのが良いんだがな、後は同じように切ってから川の流れに任せる感じだな、エリーちゃんはどうやってやってるのかはわからんが、首も尻尾も切らずにやってたりと、俺にもよくわからんがな」


 話しながらも素早く毛を剥いでいく。解体は30分ほどで終わったけどかなり疲れた。ナイフを洗って返そうとした所でダンさんが「それは持って帰っていい、今度獲物を自分で捕まえた時に使え、あくまで解体用だからな変な使い方をしたらすぐに駄目になるぞ」と言って鞘と一緒に譲ってくれた。


「ほれ、この二匹はエリーちゃんからだ持って帰れ」


 防腐効果のある葉っぱで包まれた二匹分のツノウサギの肉を受け取ると解体場所から追い出された。


「ダンさんありがとうございました」


 頭を下げてお礼を言う。


「礼はエリーちゃんに言ってあげな、お前は筋が良いから暇な時はたまに顔を出せ、給金を払うから解体を手伝わせてやる」


 言うことだけ言って解体所に続く扉を閉められた。もう一度頭を下げてからツノウサギの肉を持ってギルドを出る。今日はガキどもに腹いっぱい食べさせることが出来そうだな。解体で疲れたけど、ツノウサギの肉と腰に挿している解体ナイフの重みが心地よく感じられた。

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