第3話「声が出ない」【閲覧注意】

「お邪魔しまーす!」


私は勢いよくドアを開けると、そのままずかずかと上がり込む。


「客が家主より先に上がるとは」


私は今、コウの家にお邪魔している。理由はもうちょっとコウと一緒に居たいのと、ベッドの下にエロ本が無いか確かめるためだ。


「外で見るより広いよね」


「異空間だからな」


コウの適当な返事は置いておく。すぐさま部屋に向かおうとしたが、コウに呼び止められた。


「先部屋入ってて。お茶で良いよね?」


「あ、うん」


…なんか、やましいものは無い気がする。ちょっとだけがっかりだ。


でも、コウの部屋にはパソコンがあることを思い出した。よし、履歴見ちゃおう!


私はワクワクしながらコウの部屋に向かった。


「パスワードは確か…よし、開いた!」


パスワードはコウの誕生日である0520。スマホも同じだった筈だ。


「ふむふむ…」


ゴーグルの検索履歴には、動画配信サイトや、ゲーム攻略サイト、ツイーター等が残っていた。今の所やましいものはない…もしかして、そういうのを調べる時はゲストモード使ってる?それともスマホ派?


とりあえず得られるものが無かったのでパソコンの電源を落として立ち上がる。お手洗いでも借りようかなと思ってドアの方を向くと…


「…ゲームやるんじゃなかったの?」


背後にコウが立っていた。


「っえ!後ろ居たの!?」


「居たよ」


「あ、先にトイレ…」


「電源落とさなくても良かったじゃんね」


こっわぁ…なんで気配が無いの!?暗殺者でも目指すの!?と突っ込みたくなるレベル。


私はドキドキした心臓を抑え、お手洗いに向かった。


この後ベッドの下も覗いたが、昆虫図鑑がひらっきぱなしで置いてあっただけで、特に収穫は無かった。まぁやましいものがあったとしてもちょっと複雑だけどね。


「このゲーム面白そう」


「一つのキーボードで二人プレイ出来るやつだ。やる?」


「うん」


結局その日はコウの家でゲームをして帰った。


…帰り道、ふとコンビニでも寄って行こうかなと考えた。ゴムでも買ってもう一回コウの家に押し掛けるのもありかな。とふらふらしながら考えていると、ふと背後から気配がした。既に暗い時間だ。ちょっと怖いなーと思いつつも気にしないように歩いていた。


腰からぐちゃっとした気持ちの悪い音がしたと共にそこから激痛が走る。


「あ"あッ…!?」


潰れた声を出して、うつ伏せに倒れこむと、もう一度激痛が走る。


声にならない悲鳴をあげて、私は震えていた。恐らく、二回刺されたのだろう。


霞む意識の中、どこか見覚えのあるような女が突っ立っているのが見えた。右手にはナイフを持っている。女は私を仰向けにすると、馬乗りになって私を殴った。


「死ね!死ねよ!お前のせいで!私は…!」


あぁ、思い出した。コウの悪い噂を流した女だ。


鈍い痛みの中、意識がさらに霞んでいく。


「やめて」の声が出ない。女は私を殴り続けている。


「っっ!ぁ…!」


そろそろ、死ぬ。本能がそう告げている。


私は最後の力で糞女を前に投げ飛ばし、この場から急いで逃げようと立ち上がる…筈が、立ち上がれなかった。


「立て…な…っ!!」


口から血を吐く。逆流。動くことが出来ない。死ぬ。パニックになっていた。女が立ち上がる。


ナイフが危険だ。力を振り絞り、落ちていたナイフを近くの茂みに投げる。私が刺された段階で大声を出せば、誰かかしらが見に来ただろう。しかし、今は声を出せない。苦しい。痛い。それだけが私の頭の中を回っている。


「死ねよ…死ねよ!」


女が向かってくる。血を吐きながら必死に逃げようとするも、動けない。


ここで死ぬのは嫌、走馬灯はまだ見てないから。きっと大丈夫。


誰かが助けてくれる。そう自分に言い聞かせる。


足音がもう一つ聞こえる。誰だろうか。


意識が無くなる寸前、見えたのはコウの姿だった。


「エマ…!」


「っ…!」


私は何かを言おうとした。しかし、その前に意識が途切れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小5の幼馴染に告られたので振ったけど諦めてくれなかった話 四谷 @pinta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ