眠りから覚めた姫は現状をなんとかしたい

neut

第1話

 目が覚めたら、お城ごといばらに覆われていました。


「どういうことなの」


 定められた呪いの期限より少しだけ早く目が覚めた私は、ベッドの上でそう呟いた。


 ◇


 姫が15歳になったら100年の眠りにつく。


 それはここネムイネム王国では知らない者がいないくらい有名な予言でした。

 なぜなら姫は誕生のお祝いの席で、ある魔女に呪いをかけられてしまったからです。


「この子は15歳になったら糸車に刺されて死ぬ」


 とても恐ろしい呪いです。

 しかしそこに居合わせた他の魔女が可哀想に思い、呪いを解くことはできずとも、やや条件を緩和する祝福を授けてくれたのです。


「死ぬのではなく、100年の眠りにつくだけです」


 おかげで眠り姫は決定的な死からは、とりあえず逃がれることができたのでした。

 よかったですね。


「全然、よくはない、わよね?」


 あっはい、よくはない……よくないですか?


「だって、ねえ、考えてもみて」


 な、なにをですか?


「ある日いきなり知り合いでもなんでもない100年間眠ってた人が急に起き上がっておはようございます今日から復活ですよろしくお願いしますってなったら、どう?」


 ええと。

 ちょっと、困るかもしれません。


「でしょう?」


 なので、そんなことにならないようにお城ごと眠ってもらいました!

 そしたら姫と一緒にお城の皆さんも目覚めますからひとりぼっちじゃありません、淋しくないですよ! 100年前と何ひとつ変わりません!

 いばらで包んで外部の干渉からもちゃんと守れるようにっていう高度なセキュリティ付きですからね!


「それよ」


 え?


「なんでお城ごと眠らせちゃったの……」



 え。あれ。

 頭を抱えていらっしゃる……?

 喜んでもらえるとばかり思ってたんですが。


「あのね。お城ごと眠っちゃうっていうことは、この国を運営する機能も眠っちゃうってことでしょう?」


 それは、まぁ、たしかにそうですね。


「国が乱れるじゃない。今、国はどうなってるの?」


 ええとですね。

 たまたま城にいなかった貴族たちがなんやかやがんばってくれて、最初は大変だったみたいですけど、今ではなんとか国を治めてくれてるみたいですよ!


「そうね、そうなるわよね。そこでお城がいきなり復活したらどうなるかしら」


 えっ。

 みんな喜びますよね!

 復活ばんざーいって。予言通り100年経ったら目覚めたって、お祝いしてくれますよ!


「そうはならないと思うの」


 えっ。


「民からしたら、呪いとはいえいきなり何の前触れもなく機能を停止したお城って無責任でしょう」


 だって呪いだから、仕方ないですよね……?


「何の予告も準備もなく?」


 うっ。


「あとはよろしくポイーって?」


 ううっ。


「しかも呪いは私にかかってるのに、お城ごとそこにいる全員眠る必要ってなくない?」


 それは、姫が困らないように……。


「それはわかるの。でも、民にとっては大迷惑でしかないわけ」


 はい……。


「それに、いきなり後始末をしなくてはならなくなった他の貴族の皆さんからしたら……」


 したら……?


「今まで自分たちが死力を尽くして立て直してきた国をね? うむ今まで大変ご苦労であった後は我々に任せるがよいって、さっきまで眠り呆けてた王様が我が物顔でしゃしゃり出てきたら、それは面白くないわよね」


 そ、そうなんですか?


「そうなんじゃない? 今まで、このお城に入り込もうとした勢力は一切ないの?」


 ええと、たまにお客さんが来てましたよ。

 10年に一回くらい。

 最近はもっと頻繁になってきた感じはありますけど。


「手ぶらで?」


 いえ、正装だったり闇に紛れてたりしますね。


「正装……」


 ほら、立派な儀式の時みたいにキラキラの甲冑をビシッと着込んで、かっこいい強そうな剣と盾を持った騎士の皆さんとか。一個小隊単位で。表敬訪問、大事ですよね。


「そう、そうよね……。それから? 闇に紛れてって?」


 そっちの皆さんは恥ずかしがり屋さんみたいで、目立たない服装でこっそり訪問してきました的な感じでしたよ。肝試しみたいなノリなんですかね?


「……その人たちは、どうしたの?」


 私が責任を持ってお帰りいただきましたよ!

 あ、応対したのはいばらたちですけど。

 私、どうにも知らない人と対面で喋ったりお願いしたりするの苦手で……。


「うん、そう、知ってた」


 あ、ご存知でいらっしゃいましたか。

 なんだか恥ずかしいです!


「うーん、すごい力を持っているのは間違いないのに、なんでこんなにぽんこつなのかしら」


 ええと、私、昔から思ったことを人に伝えるのが苦手で……。私と話してると皆さんなんかイライラしちゃうみたいで、申し訳なくて。

 でも、だから、森の奥でなるべく誰にも会わないように生活してたんです。安心してください!


「そう、そうなの」


 な、なんかまた変なこと、言ってしまいましたか……?


「どうして?」


 いえあの、ちょっと難しいお顔になられたので、ご機嫌を損ねてしまったかなって……


「いいえ。あなたに伝えたいことがあったらちゃんと言葉にして言うわ。態度や顔色を読もうとしなくていいから」


 あっはい。


「じゃあ、外の世界は私たちがいなくても平穏無事問題なく順調に日々を送れているのね」


 はい!

 おそらく。

 多分。


「問題はお城が100年の眠りから覚めた時にどうなるかよね」


 な、なんかすみません……。


「やってしまったことは仕方がないわ。未来にしか進めないんだから建設的に考えましょう。過ぎたことをつべこべ言っても変わらないんだから」


 変わらない、ことが多いですね……。


「それで? 私が眠りから覚めるきっかけって何なのかしら」


 ええと、ドコカーノ国のアル=トコローニ王子っていう人が助けに来てくれる予定ですね。


「助けに?」


 はい。

 白馬に乗っていばらを切り払い城への道を邪魔する竜を退治して、見事姫の元にたどり着くことになっています!


「で?」


 で?


「たどり着いたら自動的に私は目が覚める設定なのかしら」


 あー、そういう。

 いえ、ちゃんとイベントがあります!

 アル王子は眠る姫の姿をひとめ見ただけで恋に落ちてキスするんですよ。そのキスで、姫は目覚めるんです!


「えっなにそれ怖い」


 えっ。

 こ、怖い?


「えっ、だって怖くない? 助けてなんてひと言も言ってないのにいきなり他国のお城に乗り込んで来るとか」


 眠りの呪いにかかった姫の噂は広く諸外国にまで広まってますからね、ロマンですね!


「他にも国はたくさんあるのに、なんでドコカーノ国だけがそんなことしでかしたのかしら。ミギ=ドナリノ国とか、ナカヨロシ国は静観してるのに」


 あー、そういえば……。

 なんで他の国は助けてくれないんですかね?


「内政干渉だからでしょう? いきなり他国に王族が無断で乗り込んできたら国際問題まっしぐらだし」


 えっそうなんですか?


「招待されたとかお願いされたならともかく、いきなり国境を超えてくるのなら何がしかの敵対行為と取られてもおかしくないもの」


 そ、そういうものなんですね……。


「それによ? もし要請があってそういう行動に出たんだとしたら政治的な背景があるでしょうしね。邪魔な王族をどさくさに紛れて片付けたいとか」


 なにそれ怖い。


「だって100年間誰も中に入れなかった場所だもの。たどり着いたら誰も生き残ってませんでしたって言われたら、それを信じるしかないでしょう?」


 たしかに、それは、そうです。


「それにね。完全な善意で助けに来てくれたと仮定して」


 仮定して?


「今まで見たことも会ったこともない相手に、本人の承諾もなくいきなりキスするってちょっとないと思うの」


 な、ないですか。


「ないわね。キスしないと目が覚めないっていう呪いならともかく、たしかそんな設定なかったはずよね?」


 はぁ、まぁ、ないですね。


「完全初対面よね?」


 完全初対面です。


「いくらイケメンだったとしてもないわね」


 最近の子は、そういうのに憧れとかないんですね……。


「私100年前の子だから最近じゃないと思うの」


 いやそこじゃなくてですね。

 って、あれ?

 そういえば姫、100年の前に目が覚めちゃってるような気が……するんですけど……?


「え、それ今なの」


 いえあの、ごく自然にお目覚めになられたのにびっくりしてそれどころじゃなかったっていうかなんていうか。


「あのね、私も呪いが発動するまでの15年間、大人しく時間が過ぎるのを待ってたわけじゃないのよ」


 というと……?


「魔法について勉強して、日々鍛錬して耐性をつけて、少しでも呪いが軽減できるように努力したもの」


 なんということでしょう!

 すごいです!

 ちゃんと成果が出ている……!


「それで結局、私は何年眠ってたのかしら?」


 ええと、今年でちょうど90年目ですね。


「90年……。じゃあ私、たったの10年しか抗えなかったのね」


 じゅ、10年でもすごいですよ!


「ありがとう。でも、どうしようかしらね。お城ごとっていうのは完全に想定外だったわ……」


 す、すみません、私が余計なことしたせいで……。こんなことになるなんて、ちっとも思ってなくて。


「仕方ないわ、善かれと思ってしてくれたんでしょう。でもまぁ、聞く権利くらいはあるわよね。そもそもなんで私にあんな呪いをかけたのかしら、張本人の魔女さん?」


 それは、あのう……。

 私、こんなだから。さっきも言ったように、誰にもご迷惑にならないように、普段、森の奥に住んでて。

 でも、王様にご息女が誕生されたって聞いて、珠のようにかわいいって小鳥さんたちに教えてもらって、よかったなぁって思ってて。

 あっ、小鳥さんに覗き見してもらっちゃってすみせん、不敬罪!


「それはいいから、大丈夫だから。続けて?」


 は、はい。

 そしたら、お祝いに招待してもらえるって聞いてすごく嬉しくて舞いあがっちゃって……普段そういうのスルーされることが多いから、つい張り切って出かけたんです。


「嬉しかったのね」


 はい、それはもう、とてつもなく。

 でも、お城について、すごくがんばってご挨拶しようと思ったら「お前の席ないから」って言われて……それで……。


「つい、呪っちゃったの?」


 そうなんです……。


「ねぇ、あなた、隠してることない?」


 えっ。

 隠してること……?


「いきなり呪ってやろう、ってなったの?」


 あ、いや、それは、なんていうか。


「あのね、違ったらごめんなさいね。私、あなたがそういうことする人に見えないの。何か理由があるの?」


 そ、そういうこと、する人かもしれないじゃないですか。悲しくて、つい呪っちゃうタイプの。


「……私ね。眠ってる間、ちゃんと意識があったの。動けなかっただけで。これも鍛錬の成果だと思うのだけれど」


 え?

 90年の間?


「そう」


 すごくないですか?

 しかも……かなり……お暇だったのでは……?


「正直かなりどころかとてつもなく暇だったわね。だから眠ってる時間が大半だったけど、周りで何が起こってたか全然知らないわけじゃないのよ?」


 えっ。


「私たちが眠ってる間、ずっとお城の掃除をしてくれてたわね」


 あの、あれは、その、ホコリが、ほっとくと溜まってしまうので……!


「天気がいい日に空気の入れ替えしてくれたり」


 空気ちゃんと入れ替えた方が気持ちいいですよね?


「いばらに引っかかった動物を介抱してあげたり」


 いばらに悪気はないんですけど、怪我しちゃう子がたまにいるので……。


「みんなの寝顔を確認して、様子を見てくれたり」


 わ、私の魔法は完璧ですが、一応、確認をと思いまして。


「一日の終わりに私の枕元でそれを報告してくれてたわね、毎日」


 ひょえ……!

 それもご存知だった!


「……そして最後にごめんなさいって、泣いてたでしょう」


 そ、それは……。


「怒ってないわ、顔を上げて」


 む、無理です……!

 呪いをかけた張本人が、どれだけそんなことしたって、なんの償いにもならないです、ひどいことしたのはわかってます、姫は私に怒っていいし、怒るべきなんです……!


「ねぇ、怒らないから、逃げようとしないで。でも、どうしてあなたがあんな……死んでしまうような呪いをかけたのか知りたいの」


 何を言っても、言い訳です。

 姫も言ってたじゃないですか、過ぎたことは変わらないって。


「変わらないわ。でも、知らないことがあるなら知りたいの。事実だけを。だってあなた、絶対利用されてるわよ」


 えっ。


「本当に気づいてないの? でもまずその無防備に開いた口を閉じた方がいいわね」


 えっ、えっ?


「私の誕生パーティには、あなたも含めて13人くらいの魔女がいたのよね?」


 は、はい。

 13人くらいいました。


「その中で、あなたの呪いを完全に打ち消すことができる魔女はいなかった、という理解でいい?」


 はい。

 私の呪いを解除できるくらい強い魔女には会ったこと、ありません。


「だとしたら、あなたは王国で最強の魔女ということよね」


 いや、その、それほどでも。


「謙遜してる場合じゃないから。だからつまり、あなたを排除できれば、代わりに最強を名乗れる魔女がいたってことでしょう?」


 はい、まぁ、そうなりますね。


「みんなが注目するおめでたい席で、あなたが悪い魔女だって決定づけられてほしかった人がいるとしたら?」


 えっ。

 そんなことして、何がいいんですか?


「さぁ、私にはわからないけど、魔女には魔女の何ががあるんじゃないかしら。名声とか?」


 名声……?


「あなた、そういうのに疎そうっていうかそもそも興味無さそうだものね……」


 なんか……すみません。


「褒めてるのよ?」


 そうなんですか?


「話を戻すわね。呪いを授けようとしたのはあなたの独断なの? それとも……唆した他の誰かがいたの?」


 ……。


「目を逸らさないで」


 うう。


「ちゃんと正面から、私の顔を見て言ってみて」


 その、見過ぎですし近いです……!


「そんなに後ずさっても、後ろはもう壁よ」


 あの、あの!

 ちちちち近いです!

 主にお顔が!


「あなたの方が背が高いから安全だと思ってる? 背伸びするわよ」


 言います……言うからその、もう少し下がっていただけると心の底から私が安心するので可及的速やかに離れていただけませんでしょうか!


「……もう少しがんばってくれてもよかったのに」


 はぁ、はぁ、なんですか?


「なんでもないわ。それで?」


 はい、あの、なんていうかその、こういう言い方だとアレな感じでなんとも遺憾と言いますかその。


「結論から言ってくださる?」


 言いますから下がって……!

 ほ、他の方から、魔女という存在が軽んじられると良くないから少し脅してわからせてあげなさいって言われて!


「言われて?」


 インパクトが強い方がいいから死ぬって脅せって……でもそんなのよくないって言ったんです。死ぬだなんて、あんなに可愛い赤ちゃんにそんなひどいことできないって。

 でも、今後魔女全体の存在が軽んじられたらお前のせいだって言われて……呪いはすぐに解けばいいって、だから……だから本当はすごく嫌だったけど、呪いをかけたんです。


「そうだったの……」


 でも、私が呪いを解く前に、違う呪いがかけられてしまって、解けなくなってしまったんです……。


「15歳で死ぬ代わりに、100年間の眠りにつくっていう……祝福ではないの?」


 いえ、呪いです。


「それはあなたの力でも解けないくらい強いの?」


 いえ、解けないことはないです。


「じゃあ何故、解かなかったの?」


 その呪いを解くと、呪いをかけられた人が……あなたが、死にます。そんなものは祝福ではなく、呪いです。


「なるほど、そうすればあなたが解呪できないから」


 はい……。


「随分いい性格してるのね、その方。もしかして、私が淋しくないようにお城ごと眠らせるのを勧めてきたのも同じ人?」


 えっ。

 なんでそんなことわかるんですか、すごいです!


「うん、そうね、あなたならね、善意だと思うわよね」


 ……違うんですか?


「おそらく、外にいた貴族の誰かと手を組んで、国を乗っ取ろうとしたんじゃないかしら」


 そんなこと……楽しいんですか?


「本来は楽しいとは言えないと思うけど、人によっては楽しいのかしらね。でもこれで大体わかったわ」


 わかったんですか?


「ええ。相手はあと10年時間があると思ってるはずだから、今のうちになんとかしてしまいましょう」


 なんとか?

 なんとかって、なんですか?


「まず、今現在国民が幸せかどうか調べなくちゃ。あなた、知ってる?」


 いえ、すみません、私もずっとここにいたので詳しくは……。


「そうよね。あなた、引きこもりだったわね」


 お役に立てずに申し訳ないです。


「大丈夫、これから役に立ってもらうから」


 えっ。

 でも、私、その、外で動き回るとか無理なんですけれども。


「私に呪いをかけてしまったこと、悪いと思ってくれてるのよね?」


 それは、思ってます!

 反省してます!


「じゃあ、協力してくれるわよね?」


 うう……がんばります……。


「そう来なくちゃ。それでね、王国民が幸せなら、私たちはこのままお城の中に引きこもって大人しく余生を過ごすことにしましょう。あ、王子様とかはいらないから」


 いらない……。

 でも、引きこもって暮らせるのは、いいですね!


「そうね。でももし、王国民が幸せに暮らせてないなら……自分たちの利益のためだけに国政に携わるような俗物は、お仕置きしなくちゃね?」


 お仕置き……。


「もちろん、手伝ってくれるわよね」


 えっ。


「私の力だけでは大したことなんてできないもの。その点、あなたは当代随一の魔女なんでしょう?」


 いやー、そんなふうに言われると気恥ずかしいというか、照れるというか。


「ついでにあなたの名誉も回復できると思うわ」


 そこは、そんなに気にしてないですけど……?


「いいの。私が気にするから」


 えっ。


「……大事な人が悪し様に言われてるなんて、我慢できないもの」


 え、あの、大事な人って、もしかしなくても私、ですか……?

 でも、なんで?

 いつの間にそんなことに。


「90年もの間毎日甲斐甲斐しくお世話してくれて、一日のあったことを報告してくれて、枕元でメソメソしたと思ったらかわいいって言ってくれて、寝てる私に狼藉も働かずに誠実に大事にされたら、絆されても仕方ないと思うのよね」


 ちょっ、それも聞かれてた……!

 羞恥プレイなんですけれども!?

 いやちょっと待って……!


「魔女って長生きだから年齢的な釣り合いはちょっと引っかかるけど、将来は弟子入りして魔女になってもいいし。私、素質あると思うのよね」


 いやいや、いやそんなこと、姫にされられません!


「だってあなた、引きこもりのくせに淋しがりじゃない」


 うっ。


「みんな先に逝っちゃうんです、なんて涙目で呟かれたらね、じゃあそばにいてあげてもいいかななんて思っちゃうこともあるわよね」


 ああああああ。

 そんなことまで、私、人様の枕元で言っちゃってましたか!?


「それにいい人すぎるから。いい人すぎて周りの悪意に気づかなくていいように利用される未来しか見えないから、私がついてなくちゃって思わざるを得ないっていうか」


 そんなに私いい人じゃ、ないですよ!?


「はいはい、そうね」


 流された……!


「で、どうするの?」


 え?


「手伝ってくれるの、くれないの」


 んんん。

 元はと言えば、私が不甲斐ないのが原因ですから……お役に立てるかどうかはわかりませんが、精一杯やらせていただきます……!


「そう、よかったわ。じゃあ早速外の様子を探りに行きましょう」


 えっ、もうですか、姫、もうちょっとゆっくりしませんか、その、心の準備が……!


「時間は限られてるのよ、ぐずぐずしてられないわ。さぁ、ちゃんと背筋を伸ばして、しゃきっとして頂戴。あなたせっかく綺麗なんだから、堂々としたらいいのに」


 き、きききき綺麗!?


「そうよ。私の隣にいてくれるなら、胸を張って」


 隣に……いても、いいんですか?


「頼りにしてるわ。とりあえず街に出て現地調査ね。民草の幸せは上に立つ者の責任、まずそこからチェックしていきましょう」


 はい……!

 お供します!

 あ、待ってください、姫!


「あなたの名前を教えてくれるかしら。私の名前はね……」





 ◇◇◇






 昔むかし、あるところに、ネムイネム王国という国があった。

 よく栄え、民は幸せに暮らしていた。

 ところがある日突然、お城がいばらに包まれて、王様たちは閉じ込められて誰も中に入ることも出ることも叶わなくなってしまった。

 王様の代わりに国を治めることになった貴族たちは贅沢の限りを尽くし、民は重税に苦しんだ。このままでは国が滅びてしまう。

 そんな時、どこからともなく救国の乙女が現れて悪い貴族たちを成敗し、お城をいばらから解放した。

 中に閉じ込められていた王様たちは100年の眠りから解放され、以前と同じく善政を敷いたので、王国はまた豊かで幸せな国に戻った。

 国を救った乙女はそのままどこへともなく行方をくらましたと伝えられている。

 乙女のそばにはいつも背の高い従者が片時も離れることなく寄り添っていたと、伝承には残っている。

 その従者が伝説の魔女だとする説もあるが、信憑性は低いとの見方が歴史研究家の間では支持されている。




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