第14話 お母さんは強いのよ

『ねえ、長老。アビーは昨日も来なかったのに今日も来ないの?』

『ウンディーネ様。無理を言わないで下さい。こうも雨に降られてはアビーには、無理です。では』

『で? 長老はどこへ行くの?』

『わ、ワシはちょっと……』

『あ! いた、長老。早く行くよ』

『もう、何してるの?』

『アビーの所に行くんでしょ!』

『バ、バカ……』

 長老は恐る恐るウンディーネの方を振り向くとウンディーネの頬がピクピクしている。

『ウ、ウンディーネ様……』

『何、長老。アビーの所に行くんでしょ! さっさと行けばいいじゃない!』

『い、いや。今日はちょっと……』

『何? 私に気を使っているつもり?』

『いえ、そういう訳では……』

『もう、ディーネ。長老を虐めないの』

『フィーネ……聞いてたの?』

『うふふ。そうね、私もアビーに会いたいけど、我慢しているのよ』

『……』

『あ、そうだ。長老、アビーに異空間収納を教えたのよね』

『あ、はい。教えたら出来ました。それが?』

『そう。なら、時空間属性にも適応しているってことよね?』

『あ、そうなりますね』

『なら、今日は『転移』を教えてあげなさい。転移を憶えれば、例え雨が降っていたとしてもここには難なく来られるでしょ。ね、そうしなさい!』

『そうよ! 長老、フィーネの言う通りよ! 絶対に教えるのよ!』

『わ、分かりましたのじゃ』

『『よろしくね!』』




「また、雨だ。もう、お母さん。どうにかして!」

「ふふふ、アビー。いくらお母さんでも無理よ」

「でも、お父さんはお母さんに『分かった。やめるから!』っていつも言ってるじゃない。お母さんはやめさせることが出来るんでしょ?」

 アビーの発言にジュディは『聞かれたのか~』と一瞬、天を仰ぐが気を取り直してアビーに優しく言い含める。

「アビー、よく聞いて。私の言うことを聞いてくれるのはお父さんだけなの。アビーの為にも晴れにしてあげたいけどお母さんには無理かな」

「そうだぞ、アビー」

 マークがずぶ濡れのまま、家の中に入ってくる。

「おかえり、畑の様子はどうだった?」

「小枝が詰まって水が溜まっていた所があったけど、どうにか水抜きは出来たよ」

「そう。じゃあ、畑の方は大丈夫そうね。でも、こんなに雨が続くなんて珍しいわね」

「ああ、ホントに。ここは山の斜面だから、水は勝手に流れていくけど、麓はちょっと心配かな」

「そうね。川とか心配よね」

「そうだな」

 マークが上着を脱ぐとジュディに背中を拭いてもらっていると、ジュディが漏らす。

「ねえ、マーク。気のせいかもしれないけど、この傷跡……少し小さくなってない?」

「はぁ? 何年も前の古傷だぞ。そんなわけないだろ。気のせいだよ。気のせい」

「そう……かなあ」

 アビーはジュディに気付かれたと思い、じっとりと冷や汗が背中を伝うのに気付く。

 マークの古傷を治したいと思い、寝ているときにマークの背中を少しずつ癒していたのだ。もちろん、このことをジュディやマークに言う訳にもいかず、アビーだけの秘密だった。


 ジュディにバレないように冷や汗を拭っていると、急に目の前に長老が現れる。

「ちょ……」

 アビーは『長老』と言いかけた口を無理矢理自分の手で押さえると、ジュディに断り自室に入る。

 部屋に入り誰も近くにいないことを確認すると目の前で浮かんでいる長老に挨拶する。

「おはよう長老、もう驚かさないでよ。もう少しで大きな声が出るところだったよ」

『これはすまない』

「もう、いいけど。今度からは注意してね。驚かすのはナシだよ」

『ああ、分かった。すまなかった』

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