第13話 お婿さんをもらうのもアリよ

 お昼になり家に帰るとジュディがお昼の用意をしていた。

「ただいま~お母さん、お昼は何?」

「おかえり、アビー。お昼はもうちょっと待っててね。先に手を洗ってらっしゃい」

「うん、分かった!」

 ジュディの言う通りに手を洗い、食器を用意しテーブルでジュディを待つ。


「あら、準備してくれたのね。ありがとう」

「だって、早く食べたいもん!」

「そうなのね。じゃあ、一緒に食べましょうか」

「うん」

 ジュディを手伝い、お昼の用意をすませると一緒に昼食を済ませる。


「じゃあ、行って来ます!」

「アビー、どこに行くの?」

「どこって、メアリー達と遊ぼうと思って」

「そうなの。でも、今日はやめときなさい」

「なんで?」

「なんでって、お空は見てないの? もうすぐに振ってきそうよ。ほら!」

 ジュディがそう言って、空を指差すとどんよりとした黒雲が低い位置で漂っていた。

「あ~もう、タイミング悪すぎ!」

「そういうことだから、お家にいなさい」

「は~い」


 そんなアビーとジュディのやり取りがあってから、一時間もしない内に外からはシトシトと小雨が降る気配がしてくる。やがて、シトシトという音がザーザーと激しい音に代わる。

「あ~お父さん大丈夫?」

「大丈夫よ。だって、お父さんだもの」

「変なの~」

「そうね。でも、お父さんなら、平気よ」

「平気じゃないよ~」

 そう言って玄関から入って来たのは、ずぶ濡れのマークだった。

「うわぁ~随分、濡れちゃったわね」

「そりゃ、これだけ降ったらそうなるって。なあ、着替え頼む」

「あ、そうね。ちょっと待ってて。風邪ひく前に着替えてね」

「分かってる。頼むね。クシュン……あ~くそ」

 濡れて体が冷えたのか、体を震わせているマークを見て、アビーは思わず魔法を使ってマークを温めようとして、手が止まる。

 魔法を使ってはダメだと長老に言われたばかりだということを思い出す。

「どうした、アビー?」

「お父さん、寒い?」

「そうだな。ちょっと寒いが大丈夫だ。そうだな、これで背中を拭いてくれ」

「うん、分かった」

 アビーはマークにタオルを渡され、上着を脱いだマークの背中を一生懸命に拭く。

 マークの背中を拭きながら、アビーはマークの背中に酷い傷跡があるのに気付く。

「ねえ、お父さん。背中にある傷跡は何? どうしたの?」

「……これか。これはここの村に来る前の傷だ。もう痛くはないよ。だから大丈夫だ」

「な~に、どうしたの?」

「お母さん、お父さんの傷……」

「ああ、それね。もう治っているから心配ないのよ」

「でも、痛そうだよ」

「そうね。でも、アビーの産まれる前の傷だし。ほら、血も出てないでしょ。もう大丈夫だから、心配しないの」

「……」

「そうだぞ、アビー。ほら、お父さんは全然平気だぞ。全然、大丈夫だ」

「ホントに? ホントに痛くないの?」

「ああ、本当だ。だから、心配するな」


 歩だった頃、病院で『大丈夫』と言いながら、戻って来なかった同室の子がいたのを思い出し、何故か大丈夫と連呼するマークと重なるのを感じているアビーに心配するなと言うのも無理な話だ。


 だから、アビーはマークが大丈夫と言う度に泣きそうになってしまう。

「大丈夫って、大丈夫じゃないんだよ。だから……だから、大丈夫って言わないで……」

 アビーはマークの背中に抱き着きながら、前世の思い出でぐちゃぐちゃになった感情のままなので、アビーも自分で何を言っているのか言いたいのか分からなくなっている。


「アビー、大丈夫だから、もう痛くないんだから。ね?」

「でも、大丈夫って言って帰って来なかったもん! だから、大丈夫って言うのはダメなんだよ。本当に治ってるのなら、死なないって言って!」

「「……」」

 アビーの悲痛な叫びにマークとジュディは顔を見合わせて頷く。

「アビー、だ……死なないから。ほら、お父さんは元気だから。でも、アビーが抱き着いていて着替えることが出来ないから、今は風邪をひきそうになっているかな。へっくしゅん!」

「あ! ごめんなさい……」

 抱き着いていたマークの背中から離れると、アビーはいつの間にか泣いて、ぐしゃぐしゃになった顔を袖で拭う。


 マークはジュディから受け取った着替えに袖を通すとアビーの目線になり、話す。

「お父さんはアビーがお嫁にいって、子供を産むまでは死ぬことはないから」

「じゃあ、お父さんはずっと死なないね」

「ん? アビー、それはどういうことなの?」

「お母さん、僕はお嫁にはいかないよ?」

「「え?」」


 アビーのいきなりの『お嫁にいかない』という発言にマークもジュディも驚く。そして、同時に口を開く。

「「どうして!」」

「どうしてって言われてもなんとなくかな」

「そう。絶対に行きたくないってわけじゃないのね」

「そうか。だけど、俺は少しホッとしたかな」

「もう、マークったら。あ~あ、父親はどうして、お嫁に出すのがイヤなのかな。ねえ、アビー」

「お父さんは僕にお嫁に行って欲しくないの?」

「う~ん、行って欲しい気もするし、ずっとお父さんの側にいて欲しいって気もする。どっちもってのは出来ないのかな~」

「あるわよ! お婿さんをもらうってのはどう?」

「それだ! アビー、絶対にそうしなさい!」

「え~」

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