第6話 生えてくるんだよ
「じゃあ、もうお昼になったから帰るね」
『『『ばいば~い!』』』
『なんじゃ、もう帰るのか?』
「うん。長老、また明日ね」
『何、アビーはもう帰っちゃうの。もう少し遊んでってもいいじゃない。そんなに急ぐことじゃないんでしょ?』
「でも、いつもお家でお昼を食べる約束だもん! ごめんね、ウンディーネ」
『私はいいんだけど、シルフィードが悲しむわよ』
『あんな奴、いくらでも我慢させとけ。のう、アビー』
「もう、ノム爺。ダメなんだよ。仲良くしないと」
『そうそう、もっと言ってやれ』
「サラまで……ねえ、もっと仲良くなれないの?」
『『『無理!』』』
池の畔でアビーが長老に精霊魔法を習いだした頃から、どこからともなく四大元素の精霊が何かに引かれるように徐々に集まり、終いには大精霊と言われる『
「もう、皆が仲良くしないなら、僕はここに来ないからね」
『アビー、それは少し非道くない? 何で、こんな連中の為に私まで遠ざけるの?』
『そうじゃ、ワシはお前に会いたくてこんなところに来ていると言うのに。こんな年寄りを邪険にするのか?』
『アビー、そんなに怒るなよ。俺とお前の仲だろ?』
アビーはそれぞれの言い訳を聞くだけ聞くと『ハァ~』と深く大きくため息を吐く。
「僕はここに長老から精霊魔法を教えてもらうために来てるの。遊びに来ている訳じゃないんだよ。もう!」
『『『ごめん』』』
頬を膨らまして怒るアビーに対し、素直に謝る大精霊達だが、大精霊達にはアビーの怒っている顔も姿も愛らしく映る。
『思いもよらず怒らせてしまったけど、怒る姿も愛らしいわね』
『うんうん、ディーネよ。ワシもそれには賛同する。ホントに可愛らしいの』
『でもよ、まだアビーの頬は膨れているぞ。謝りはしたが、まだアビーはプンプンだぞ』
そんなアビーの膨れた頬をツンツンと突く感触にアビーはちょっとだけイラッとする。
「もう、誰? ポポなの?」
『濡れ衣よ!』
「え~ポポ以外にこんなことをするなんて、誰?」
『私よ。アビー、少し遅くなっちゃったかしら?』
アビーはイタズラ好きのポポだと思い確認するが、『したのは私』と告白して来たのは『
「シルフィ、来たの?」
『な~に、来ちゃダメ?』
「ううん、そんな訳じゃないけどさ。皆が悪口を言うから……」
『あら、どんな悪口を言い合っていたのかしら?』
シルフィードが他の大精霊を一瞥すると、見られた側の大精霊達はビクッとする。
『アビー、この子達には私から十分に言っとくから。ごめんね』
「シルフィ、ほどほどにね」
『あら、アビーは優しいのね。でも、そんなアビーが好きよ』
「やめてよ、シルフィ」
シルフィードに抱き着かれたアビーはシルフィードを自分から離すと、じゃあねとだけ言って、家に向かって走り出す。
『あ~あ、行っちゃった。さて、どんな悪口を言っていたのかしら? ねえ、ディーネ、ノーム、サラ』
『『『……』』』
『ねえ、長老……』
『見るな! 見ない方がいい。さっさと家に帰るんじゃ!』
『でも……』
『見たい気持ちは分かるが、見ない方がいいとだけ言っておくぞ』
『『『分かった……』』』
「ただいま! お母さん」
「お帰り、アビー。どこまで行ってたの?」
「えっとね、池の畔まで行って来たの」
「池? 山の中の池って……ここから十キロメートル近くあるじゃない。なんで、そんな遠くまで?」
「そう? そんなに遠くないよ。走ったらすぐだったしさ」
「アビー、元気なのは分かるけど、余り心配させないでよ」
「うん、分かった」
「分かったのなら、お昼にしましょう」
「は~い」
お昼を済ませ家の庭でのんびりしているとジュディから声を掛けられる。
「アビー、ちょっと来て」
「な~に、お母さん」
ジュディに呼ばれたアディが家に入ると、ジュディに服を渡される。
「何?」
「あのね、明日はこの村の子供達が集まるの。アディは今年五歳になったでしょ」
「うん」
「村ではね、五歳になった子供達を集めてね。村の皆に紹介するの。それでね、アビーもそれに出るのよ。これは、その為に用意した服なの。ほら、着てみて!」
「え~」
「もう、え~じゃないでしょ。いいじゃないの。こんなに可愛いスカートなのに」
「……」
アビーはジュディが広げるスカートを一瞥するが、とても履く気にはなれない。
「ねえ、なんでズボンじゃダメなの?」
「なんでって、アビーは女の子でしょ? なら、スカートの方が可愛いじゃないの」
「え? 僕は男の子だよ。だから、ズボンだよ」
「何言ってるの? アビーは女の子でしょ」
「男の子だって!」
「違うの! 女の子でしょ。だって、アビーには着いてないじゃない」
「着いてないんじゃなくて、まだ生えてないだけなんだよ」
「アビー、誰がそんなことを言ったの?」
「誰って……」
「ただいま……どうした?」
「「お父さん!」」
「え? 何?」
ジュディがアビーは女の子だと言えば、アビーは男の子だと言い張る。そして、ジュディがアビーには着いていないから、女の子でしょと諭せば、まだ生えていないだけだとアビーは言い張る。
じゃあ、誰がそんなことを言ったのかと聞いた時にマークが帰って来たと言う訳で、事情を聞いたマークは思わず吹き出す。
「笑い事じゃないのよ、マーク!」
まだ、お腹を抱えたままのマークはなんとか落ち着きを取り戻すとジュディにごめんと謝る。
「謝るってことは何か思い当たることがあるのね?」
「ああ、アビーが俺の……アレを欲しがるもんだから、男の子ならその内、生えてくるからって慰めたんだ。まさか、まだ本気にしていたとはね。いや~困った困った。アイタ!」
「笑い事じゃないでしょ! もう、どうするのよ!」
ジュディに小突かれた頭を摩りながら、マークは考える。
「ホント、どうしよう」
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