第三章

第1話

 一体なんでこんなことになっているんだ?


「それで?アロス殿下。この状況下での停戦となるといくら天下のレアンドリュー帝国様が相手だとしても我々有利な平和条約での締結を求めざるを得ません。賠償金はもちろんのこと。既に我が国が占領している領土の割譲も要求したいところ」


 再びやってきたレアンドリュー帝国の帝都。

 帝都に覇を構える豪華絢爛な帝城へとやってきた僕はそこでレアンドリュー帝国の第三皇子、アロス・レアンドリューの対面に座り、会談へと挑んでいた。


「ぐ、ぬ……我らが大陸の絶対にして唯一の現人神たる皇帝が治める領土を他国へと割譲するなど……」


「これでも自分はまだ譲歩している方なのですよ?未だ情勢は我が国優勢。このまま戦争を続けていても構わないのです。それに現在レアンドリュー帝国にはその現人神とやらである皇帝は不在であろう?」


「ぐ、ぬ」


 アロス第三皇子がしかめっ面を浮かべ、唸る最中。

 僕は出された上質な紅茶を口に含みながら優雅に席へと腰を下ろし、目の前に座っているアロス第三皇子殿下の返答を待つ。


「それで?どうなさるのですか?今や世界に誇っていた六大将軍も残すは四人の四天王へと成り下がり、現人神不在の中、我らとの戦乱を続けるというのであればそれで構いませんが?」


「ぐ、ぬぅ……あ、はぁー」


 これ以上ないまでに顔をゆがめ、唸っていたアロス第三皇子殿下も全てを諦めたのか、深々とため息を吐いて体から力を抜く。


「貴国の条件を受諾する。ただし、割譲する領土は貴国が占領した範囲までだ」


「それではその通りに」


「あぁ……」


 無念。

 そんな様相を全面に押し出すアロス第三皇子殿下の前で余裕綽々と言った態度で座る僕。


「それではこれからもまた、両国間で素晴らしい関係を保てることを心から祈っております」


 そんな僕は内心、アロス第三皇子殿下以上に荒れ狂い、苦難を滲ませながら心からの祈りの言葉を口にする。

 

 アルタイル王国の度重なる挑発にレアンドリュー帝国が乗っかり、侵攻を開始したことから始まった二度目のアルタイル王国とレアンドリュー帝国間での戦争。

 一度目の開戦よりも遥かに圧倒的な力でアルタイル王国がレアンドリュー帝国に上回った本戦争の条約はアルタイル王国に対してレアンドリュー帝国が大きく譲歩する形で締結されるのだった……本当にどうしてこうなった?

 僕はただ、平和な生活を望むだけだというのに。

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