第14話 契約時についてくる初月無料のオプションとかどうせならギリギリまで使ってやろうと思っていると解約するのを忘れて、いつの間にか自動更新されてしまうの罠すぎる。

「マサト。おまえ、なかなかの策士じゃな! よくやった!」


 げんとの戦いで見事勝利を収めた俺の傍に魔王が寄ってきて、感嘆の声をあげる。


「まあ、これでも魔王様の配下ですから、これくらいは当然ですよ」

「そうかそうか。儂は優秀な配下を持って嬉しいぞ。誉めて遣わす!」


 そういって魔王は満面の笑みを浮かべて、上機嫌に俺の頭をなでなでしてきた。

 なんだか照れ臭いな。


「さて、マサトのことは後ほどゆっくり労うとして……ひとまずマサトの友人を生き返らせるか」

「あ、やっぱり源の奴、死んじゃってますか」

「そりゃそうじゃろ。女神すら焼き尽くせる威力の火球を放っておいて、何を言っておるんじゃ」


 あー、あの威力だと女神でも倒せてしまうんだ。力加減が難しいなこの指輪。


 しかし、ついうっかり友人を燃え散らしてしまったのだが、そこまで精神的に来ないのは、自分が何度も死んだり生き返ったりしてるからか、あるいは源のこともどうせすぐに生き返らせることが出来るとわかっているからか、いずれにしろ今回の一連の出来事のせいで俺の死生観というか、生命倫理的なものは完全に崩壊してしまったらしい。


「ついでにマサトが魔法で同化してしまった足も元通りに直してやるとするかの」


 魔王はそういって、黒焦げになった源に向けて指をはじく。途端に黒い炎が燃え上がり源を包み込んだ。


 はたから見ると、さらに追い打ちをかけて燃やしているようにしか見えないが、きっとあの黒い炎は魔王流の回復魔法か何かなのだろう。確かにイメージ的にも魔王が聖なる光っぽいもので、回復魔法を使うのはなんか違う気もするし。


 数秒ほどで黒い炎は霧散し、そこには戦いが始まる前と同様に無傷の源が立っていた。


「あれ、俺はどうなって……」


 わずかな時間死んでいたからか、記憶に若干の混濁が見られるようだ。

 俺は、自身の敗北を思い出させてやるために(あとついでに燃やしてしまったことを謝るために)困惑してたたずむ源に声をかける。


「源、おまえのことを燃やし尽くすつもりはなかったんだが、あれほどの威力になるとは思わなかった。すまん。……でも勝負は俺の勝ちだ」

「燃やし……ああ、そうか。俺は負けたのか」


 源は先ほどの敗北と死について思い出したように、はっとした表情を浮かべた。


「燃やされたのは別にいい。正直一瞬で意識がとんだから、自分がどうなったのかよくわからんからな。それに俺も散々真人まさとをボコボコにしたし、おあいこだ。しかし……負けてしまったのか」


 源はがっくりと肩を落とす。

 そういえば、源はこの勝負の報酬として、女神とのデート+αを報酬としてもらう予定だったが、残念ながら俺に負けてしまった以上は何も得るものはなくなったわけだ。


 いや、待てよ。


 女神が源に約束した時って、戦ってくれとは言っていたが、別に勝つことを条件にしてなかったような気がするが……。


 俺がやり取りを思い出そうしていると、魔王は源が無事復活したのを見届けて、視線を女神の方へと向ける。


「さて、女神よ」

「ひぃ……!」


 魔王がひと睨みしただけで女神は腰を抜かした。そのまま、ズリズリと後ずさっていく。


「おまえ、勝ったら、儂をどうすると言っておったかの?」

「えーと……、お互いの健闘をたたえ合って、仲直りを――」

「想像を絶するほどの地獄の苦しみを味あわせた上で、魂を粉々に砕くと言ってなかったか?」

「言って……いたかもしれなくもないですね……」

「当然、負けた時は己がそうなる覚悟で口にしていたのであろうな……?」


 魔王がドスの利いた声で、女神を脅すように見下ろす。


「そ、そんなの冗談に決まってるじゃないですか! ちょっと戦いを盛り上げようと、派手なことを言ってみただけですよ! 私が勝っても、まさかそんな残酷なことするわけないじゃないですか」

「……ほう。流石は女神様じゃな。なんと慈悲深い」

「そうでしょう、そうでしょう。ですから、今回の件は――」

「でも、儂は残酷な魔王じゃからな。残念ながらおまえに慈悲などくれてはやらん。さて、どのように滅してくれようか」

「ひぃ……!」


 魔王が女神に向けて手をかざすと、女神は恐怖に顔を歪めて、少しでも魔王と距離を取ろうと、後ずさっていく。


「い、命だけは……」

「どのような死に様がいいかくらいは、希望を聞いてやらんでもないぞ?」


 生殺与奪の権利を得た以上、女神を見逃す気はないのだろう。魔王は冷え切った眼で、女神のことを見据えている。

 そんな女神の絶体絶命のところに、あろうことか、源が割って入った。


「待ってください!」

「む、マサトの友であるゲンとやら、何をしておる。女神の前に立たれると、奴を滅することが出来んではないか」

「どうか、女神様を殺さないでください! この通りです!」


 源は、魔王の前で土下座をし、女神の命乞いをした。


「そのようなことをされても、儂は女神を許すつもりはないぞ。戦いに勝った以上、女神の生殺与奪の権利は儂のものじゃ」

「それは……わかっています。ですが、今回の戦いの負けは俺自身の油断によるところが大きい。俺が真人の誘惑に耳を貸さなければ……」

「戦いとはそういう物であろう。戦いの最中に敵の油断を誘うのもまた、立派な戦術に違いあるまい」

「それでも……、どうか、お願いします。俺はどうなっても構いませんから!」


 源が必死になって女神の命乞いをする。何がそこまで源を突き動かすのかは知らないが、何か弱みでも握られているのだろうか。


「……なぜそこまでして、女神なんぞ庇うのじゃ? 一応マサトの友であるゆえ、理由くらいは聞いてやろう」

「それはその……女神様が俺のことを初めてめてくれた女性だったから……」

「褒めた?」

「はい。その、俺の筋肉を褒めてくれた女性は女神様が初めてだったもので、その、……」


 もじもじと言いにくそうに言葉を紡ぐ源を見て、何かを察した魔王は、愕然とした表情を浮かべた。


「……まさか、女神に惚れとるのか?」

「……」


 無言で頷く源。そういえば、玲奈のことを好きになったのも、初めて会ったときに怖がらずに話しかけてくれたからとか、そんなところだろうと思う。源は普段から女子と接点がなさ過ぎる(しかも見た目がごつすぎて基本怖がられる)せいで、少しでもまともに関わりを持てるとすぐに惚れてしまうのかもしれない。


「じゃが、先ほどマサトの妹とのデートをちらつかされた際に、思い切り気持ちが揺れていたではないか? 女神のことなぞ、そこまで好きではないんじゃろ?」

「それは……正直、玲奈ちゃんの方が好きですが、女神様のことも好きなので……いざ殺されそうになっていたら、やっぱり助けたいというか……」

「……なるほど。じゃが、こやつを生かしておいても碌なことにならんからのう。あきらめよ」


 魔王は源にさっさとどかないと女神もろとも燃やしてしまうと脅しをかける。しかし、頑として動こうとしない源。


 仕方がない。ここは俺が、丸く収めるしかないか……。


「魔王様。女神を燃やすのは、ちょっと待ってもらってもいいですか?」

「……またなのか。待つのは構わんが、女神を消すのは決定事項じゃぞ?」

「ええ。それはもう、魔王様の好きにしたらいいと思います。ですが、せっかく生殺与奪の権利を握ったのですから、今すぐ殺さず、できるだけ利用してからにした方がお得じゃないですか?」

「む……なるほど。しかし、こんな駄目な女神、生かしておいても、何かの役に立つとは思えんが」


 魔王がゴミを見る目で女神を見下ろすと、女神は魔王から目を逸らして俯き、ガタガタ震えていた。


「さっきの話では、この世界には何故か、制限結界ってやつが張られていないんですよね? で、それを張るのは天上の者と。であれば、この世界から異世界転生者を出さないためにその制限結界を女神に再び張らせるとか」

「それが出来れば話が早いが……女神よ。おまえは制限結界を張る権能をもっておるか?」

「……け、権能はありますが、ここは私の治める世界ではありません。なので、私一人の力ではこの世界に制限結界を張るのは、無理です」

「ならば、儂が力を貸したらどうじゃ?」

「それなら、可能かも……それでも、それなりに準備がいります」

「なるほど。……まあ、多少は利用価値があったみたいじゃな」

「他にも、異世界転生をさせているのがこの女神なら、いろいろと異世界転生に関する情報も持っているはず。それも聞き出してしまえば、異世界転生者を撲滅するのに役立つのではないですか」

「なるほど。それは、その通りじゃな。流石マサトじゃ」


 魔王は頷くと女神に対して、問いかける。


「儂は異世界転生などと言う悪しき現象をなくすために動いておる。制限結界の話もそうじゃが、おまえが儂に協力するというのならば、儂はおまえを滅するのをひとまず待ってやってもよい。どうじゃ?」

「……わかりました。私のことを殺さないのなら、協力してもいいです。でも、あなたの配下には加わりませんからね」

「そんなの、こっちから願い下げじゃ。一応同盟関係ということにしておいてやる。もっとも、対等な同盟ではないがの」


 ひとまず、魔王はすぐに女神を始末するのだけはやめてくれたようだ。そしてこれからは、女神陣営とも協力して、異世界転生者を生み出さないために行動していくことになるらしい。


「真人すまん、助かった。おかげで女神様は殺されずに済んだ」

「たいしたことはしてないさ。それにこっちにとっても利益のある話だしさ。それより良かったな。これで人生初デートができるじゃないか」

「え……? いや、俺は真人に負けたからデートは……」

「よく思い出せ源。女神様と最初に約束したとき、確かデートするから戦ってくれって、頼まれていただろ。つまりそれは、戦いさえすれば、勝敗は関係なくデートしてくれるってことじゃないのか?」

「そ、そういえば、最初に話を聞いた時は、勝ったらデートとは言われてない……!」


 源は急いで女神の元へと駆け寄ると、俺が指摘した事項をそのまま女神に伝えたようだった。おそらく女神も焦っていてそこまでの言葉尻に気が回らなかったのだろうが、口にしてしまった以上、今更、勝ってないからと突っぱねるわけにはいかないだろう。案の定女神はあたふたしながら、源とのデートの約束をなんとか無かったことにしようと、必死に源を言いくるめようとしていた。


「さて、マサトよ。そろそろおまえの世界に戻るとするか」

「そうですね。なんか動いたらお腹が空いてきました。早く戻って続きの寿司を食べましょう」

「それがよい。ついでに、あの寿司屋の支払いは女神にさせるのはどうじゃ。それなら、いくら食べてもよかろう」

「それでしたら、勝利祝いに高い皿の寿司もたくさん食べましょう」

「む……儂は初心者だが、高い皿を注文してもよいのか?」

「えーと、初心者でも、めでたい日は特別に頼んでいいんですよ」


 流れるように追加で嘘のルールをでっちあげる。ようやく、女神との一件が丸く収まったので、今日はこれ以上余計な波風を立てたくない。この寿司屋での俺ルールは最後まで魔王には、ばらさずに押し通そう。


 一方女神の方は、最終的に命を張ってまで魔王の前に立ちふさがり命乞いをしてくれた源に対して、さすがにぞんざいに扱うことが出来ず、しぶしぶデートすることを了承したらしい。


 そんな女神に対して、追い打ちをかけるように魔王は寿司屋の支払いを全て女神に押し付けることを宣言した。


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第14話を読んでいただきありがとうございます♪

(更新遅すぎて申し訳ないですm(_ _)m)


女神陣営との戦いも無事終わり、

第1章の本編は完結です。

幕間的なおまけ話(1話で燃えた後、寿司を食べにくるまでの女神の話とか)を数話入れた後、第2章に入ります。


第2章では、ついに真人も異世界デビューをすることになりそうです。


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。

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