いいかげん異世界転生するの、やめてもらってもいいですか? ……とばっちりで異世界転生に失敗した俺は、魔王の部下に成り下がり異世界転生を撲滅します。(仮)

さかまち

第1章

第1話 魔王様はとうとう我慢の限界を迎え、ぶちギレて女神様を殺しに行くようです/俺は完全にとばっちりです

「……異世界からの転生者がうざいんじゃが」


 異世界エルダーアースの最果てにある魔王城の天守で、当代の魔王マキナ・クロステッドは不機嫌そうにぼやく。

 人族の美女顔負けの端正な顔立ちが台無しになるくらいの不満顔のあるじをみて、相当鬱憤うっぷんが溜まっているであろうことを察した側近のイグニスは、あえてあるじのぼやきを聞こえないふりをしてやり過ごそうとした。


「このまえわしを殺しに来た、何て言ったか……儂の魔法を全て跳ね返しおったやつ……ウルポコ? いや、ウンポーコだったか」

「……ウル・ポルコです。人界における勇者なる存在で転生者の」


 スルーしてやり過ごそうとしていたのだが、生真面目な参謀としての気質が顔をのぞかせ、ついつい主の間違いを正すために口を出してしまった。言ってから、胸の内で溜息をつくイグニス。ついつい反応してしまったが、そのせいでこのあと、面倒なことを押し付けられたりしなければいいが。


「そうそう。そいつ。……最近は女神も単純に魔力強くするとかじゃなくて、スキルとかいうよくわからん能力を転生者に与えておるみたいで、なかなか奴らが補足が出来ん。補足さえできれば、転生してきた瞬間にりに行くんじゃがのう」

「スキルを得た転生者は、はじめのうちは魔力は並み程度ですからね。正直、転生してきたばかりの頃は、一般の人族と見分けがつきません」

「うむ。どうやら問題意識は共有できておるようじゃな。では、我が右腕にして魔王軍の参謀総長であるイグニスよ。そなた、何とかせよ」

「いや、いきなり何とかといわれましても……」


 エルダーアースにおいて、最強の存在である魔王ですら補足できない転生者をどうしろと。イグニスは、いつもどおりの無茶ぶりに辟易へきえきし、特に考えもせず、適当なことを口にした。


「見つけるのが無理なら、いっそのこと、この世界に転生者を送り込んでくる迷惑な女神を消してしまえばいいんじゃないですかね?」

「なるほど。その発想はなかった。さすが我が参謀」

「え……? あ、いや、今のは冗談――」

「じゃあ今から、女神ってくるわ。ついでに異世界転生者を大量に出荷してくるクソ迷惑な原産国の方もことごとめっしてくるから留守は頼むぞ」

「え、魔王様、ちょっと待って……」


 魔王マキナ・クロステッドは転移魔法を発動すると、イグニスの制止を無視して、いずこかへ消えてしまった。


○○〇

【現代日本】


 高校生活最初の一学期が終わり、夏休み初日。俺は浮かれて特に用事もないくせに、極まったテンションのまま家を飛び出した。さーて、夏休み初日は何をして遊ぶかぶへゴッ――。


 家を出た瞬間、やけにスピードを出していた初心者マークの軽自動車にかれた俺は、勢い余って数メートル吹き飛ばされ、花壇のかどに後頭部を強打し、同時に首の骨が折れた。


 即死だった。


○○〇

【女神様の住まう天界】


「いやいやいや、俺の最期の描写、さすがに雑すぎませんか? え、そんなあっけなく死んだんですか、俺?」


 夏休み初日に命を落としたらしいということを、目の前にいる圧倒的美人な女神様に聞かされた俺、只野真人ただの まさとは、思わず聞き返してしまう。


「そうですよ。せっかくの夏休みを後40日も残して、免許取りたてのパリピ大学生が運転していたスピード違反のレンタカーに轢かれて、運悪く即死してしまったのが、あなたです」

「文字に起こすと情報量だけはやけに多いですけど、その中に俺が悪かった要素って一つもないですよね?」

「そうですね。端的に言って不幸な事故死です」

「……そっか」


 俺、死んじまったのか。

 なんだか実感がわかないけど、気が付いたらこんな場所にいて、言われてみれば、朝起きてからの記憶が全くない。もしかしたら車に轢かれたショックか、あるいは花壇のかどに頭をかち割られた衝撃で、記憶がとんでしまったのかもしれない。


「俺は、これからどうなるんですか?」

「そうですね。かわいそうなので、異世界に転生して、次の人生を歩むのはどうですか?」

「え……? それっていわゆる異世界転生……ってこと?」

「そうですよ。私はこう見えても三つも世界を管理している凄腕女神様なので、不幸な少年を一人、別世界にねじ込むくらいわけありません。どうせなら、サービスで特別な力もつけてあげますよ?」

「マジですか⁉ それってチート能力のことですよね? もしかして夢にまで見た異世界で無双してハーレムを作るとか、他にもいろいろと……?」

「まあ、私が与えた力を使えば、その程度の夢は夢じゃなくなりますね」

「ぜひお願いします!!」


 正直、まだ死んだなんて実感はないけど、目の前の女神を名乗っている美人さんが本物の女神様で、俺にチート能力をくれて異世界転生をさせてくれるなら、願ってもないことだった。何なら残りの夏休み全てを棒に振ってもお釣りがくるくらいの状況だ。……家族や数少ない友達と会えなくなるのはちょっと寂しいけど。


「では、どんな能力が欲しいですか。あなたの前に異世界転生させてあげた子には、あらゆる攻撃を跳ね返すことが出来る最強のスキルをあげましたが、最近もっといいスキルを思いついたのでそちらでも――」

「――そんなイカレタちからを小僧に与えて、わしの世界に放り込まれるのは、はなはだ迷惑なんじゃが」


 唐突に背後から、声が聞こえた。やけに老獪な口調だったが、声音こわね自体は若い女性のモノのようだった。

 俺が振り返るとそこには、黒々とした、悪魔のような羽を生やし、漆黒の長髪をかろやかになびかせた絶世の美女が立っていた。ただし、端正な顔立ちは不機嫌そうにゆがめられ、誰が見ても明らかなほどに虫の居所が悪そうな雰囲気が漂っていた。


「あ、あなたは下界の魔王……なぜ、我が聖域にいるのです⁉」


 女神様は、明らかにうろたえた様子で、乱入者に向かって叫んだ。


「おまえ、儂の支配する世界に異世界からの転生者を何度も何度も何度も何度も送り込んで来とるじゃろ? それがいいかげんうざいから、参謀の発案で、元凶である女神おまえを殺しに来たんじゃ」

「な、そんな軽々と女神である私を殺すなどと……不敬ふけいですよ。それに、次元が違うこの空間にいったい、どうやって……」

「儂は七つの世界を支配している魔王じゃぞ。儂に不可能などない」

「そ、そんなバカな話……でも、しょせん下界の存在であるあなたごときでは、天上の存在である私にはどうやっても勝てませんよ。それでも、愚かにも私に歯向かい戦おうというのでしたら全力で叩き潰しますが。……ああ、でもまあ、もし、このままおとなしく自分の世界に帰るというのなら、私としても寛大なところを見せて見逃してあげても――」

「――話が長い。うざい。消えろ」


 魔王と自らを僭称せんしょうしていた美女が、イラつきながら女神様の言葉を途中で遮り、指を鳴らした。

 すると女神様の足元から突然、闇よりも深い漆黒の炎が燃え上がり、またたく間に女神様を飲み込む。


「うぎゃあああああああああああ」


 女神様は女神様にあるまじき汚い絶叫を上げて、黒炎こくえんの中に消えていった。


 ……。

 …………。


 …………え、女神様、目の前で燃やされちゃったんだけど。


 あれ、俺のチート能力と異世界転生はどうなんの……?



==================

第1話を読んでいただき、ありがとうございます♪

いきなり女神様が燃え散ってしまいました……( ゚Д゚)

果たして異世界転生し損ねた真人はどうなってしまうのやら?


お察しの通り、本作はコメディ小説となります。(シリアス展開はたまにしかないと思われます)


軽い気持ちで息抜きがてら、楽しんでいただけると嬉しいです(*^▽^*)


面白いと思っていただけたら♡応援&☆レビューいただけると、作者のテンションが上がって執筆意欲に猛烈なバフがかかります!


ぜひ、次のお話も楽しみにしていただけると嬉しいです♪

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