第44話 女剣客一行、ダンジョン探索再開
「皆さん、お久しぶりです!」
次の日、下北沢ダンジョンに到着すると同時にシオンは新しく買った配信用ドローンを起動させ、ドローンに向けて手を振っていた。
——シオちゃーん待ってたで!
——お久しぶりやでシオちゃん、元気にしとったか!
——あれ? 女剣客さんは?
「こちらにいますよー、相変わらずカメラに映るのは嫌みたいです」
そう言ってシオンはドローンを私の方へと向ける。
——うおおおお! 女剣客さんも久しぶりー!
——相変わらずふつくしい……
——女剣客さん見れたから今日の運勢は最高だろ!
アイリスからいい加減コメントに慣れろと言われているので、スマホで配信を見ているけど、自分で自分の姿を見るのは慣れないと言うか恥ずかしい。
あと、相変わらず画面には大量のコメントが右から左へと流れ込んでいた。
何で、シオンとアイリスはこれを確認することができるのだろうか。
「1週間ぶりになりますが、今日は下北沢ダンジョンを探索していきたいと思います!」
——おおおおっ! 待ってたぜ! 女剣客さんの勇姿を早くみせてくれ!
——夏休みだし、やることないからずっと見てられるぜ!
——久々の再会やし、おっちゃんからのお小遣いあげちゃうで![/10000]
「あ、スパチャありがとうございます! それでは出発していきますねー!」
——うぃーっす!2人とも気をつけて!
——女剣客さんの好きなハンバーグ作って待ってるからね!
「あれ、オルハさんってハンバーグ好きって言ってました?」
後ろを歩いているシオンがそう話しかけてきたので、足を止めて彼女の方へと振り向く。
「……嫌いではないけど、そこまで好きってわけでもないかも」
「ちなみにオルハさんの好きな食べ物ってなんです?」
「……きなこ餅かな」
それだけ告げるとダンジョンの奥へと進んでいった。
——女剣客さんの好物しっぶいな!
——今から、きなこ餅買い占めてくるから女剣客さんの住所送っといて!
——いや、それをやるのは俺の役目だ!
「うわっ……本当に接続数減ったけど、もしかして本当に買いに行ったの!?」
後ろでシオンの叫び声が聞こえたけど、何かあったのだろうか?
「13階ニ到着シマシタ」
入り口にあるポータルを使い、13階へやってきた。
まだまだ夏真っ只中のため、外は立っているだけで汗が吹き出してくるぐらい暑かったが、ダンジョンの中は季節が反転したのかというぐらいひんやりとしていた。
「結構冷えますね……長袖のパーカー着てるのに寒気がしてくる」
後ろを振り向くとシオンが少し震えていた。
それを見て、着ていたジャケットを脱いでシオンの肩にかけていった。
「お、オルハさん……大丈夫なんですか?」
「……うん、動けば体が温まると思うし」
「それもそうですけど……その格好はちょっと」
「……うん?」
——ノースリーブシャツにジーパンってなんてえっろ!!!
——ちょ!? 女剣客さん、でっっっ!!!
——おいおい、朝からいいもの拝ませてくれるなあ!
——シオちゃん、ちょっと感触確かめてきて!
——頼むからどうつべくん耐えてくれよ!
「やっぱみんなもそう思うよね……」
スマホを見ていたシオンが大きくため息をついていたが何かあったのだろうか?
13階ではモンスターに遭遇することなく進むことができた。
「この調子でモンスターと遭遇しないでいけたらいいですけどね……」
14階へと続く階段を見つけるとずっと黙っていたシオンが語りかけてきた。
『シオちゃん、その願いは叶いそうにないかも……』
すぐさま、インカムからアイリスの声が聞こえてきた。
「……この先にモンスターがいるんですか?」
『いるよ、しかも色々と面倒なのが……オルハちゃん覚えてる?』
「……覚えてない」
『まあ、前に来た時は意識朦朧としてたしね……』
アイリスは「うんうん」と口にしながら一人で納得していた。
『どうやら14階はトロルの巣窟なんだよ』
「……あっ」
『どうやら思い出したみたいだね』
モンスターの名前を聞いた途端、前に来た時の記憶が蘇ってきた。
……正直いえば思い出したくない記憶だ。
「どういうことですか?」
シオンは興味津々といった表情で私をみていた。
「……臭い」
「え!? そ、そうですか!?」
私の声に反応して、シオンは自身の体中の匂いを嗅ぎ始めていた。
「……ごめん、シオンがじゃなくてトロルが臭い」
シオンは大きく目を見開きながら私を見ていた。
『思っている以上の数十倍だから……下手したら今着てる服、着れなくなるかも。 前に来た時に着ていた服は捨てたからね、匂いが取れなくて』
インカム越しにアイリスが補足するとシオンの顔が徐々に青ざめていった。
「……できることなら、早く14階を踏破しよう、たしか15階にはいないし、そこにポータルがあるから」
「は、はい……!」
そして2人で覚悟を決めて14階へと進んでいく。
「うぐっ……」
14階にたどり着いた直後、シオンは手で鼻と口を抑えていた。
もちろん私もだ。
「何この匂い……想像以上なんだけど!」
——どうしたんだシオちゃん?
——そういや14階って、トロルの巣窟になってる場所じゃなかったか?
——あー、他の人の配信で見たけどものすごく臭いんじゃなかったか?
——臭いってどんだけだよ!?
——ジェルタイプの洗剤を10個使っても匂いが取れないって言ってたな
——想像しただけで、食欲無くなっちまったじゃねーか!
「トロルの匂いって有名なんですね……」
シオンはもう片方の手でスマホを持ちながら画面を見ていた。
『まあね、人間もそうだと思うけど、エルフとか他の種族たちも接触を嫌がるからね……』
アイリスがインカムで話している最中にも、目の前で自分たちを覆い被せるぐらいの巨躯が姿を見せる。
ゴツゴツとした、大きな顔についたギョロついた目がこちらを捕捉していた。
——うへえ、すげえ顔!!!
——何かこっちまで臭い匂いがしてきたんだが!?
——トロルじゃなくてお前の体臭なんじゃねーの?
のっそりとした動きをしながらも、持っていた木製の棍棒を振り落としてきた。
「……来るっ! シオン下がって!」
悪臭に耐えながらも私は生まれ変わった月華を振り上げていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
今年も宜しくお願いいたします!
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