第42話 女死霊使い、この先の行く末

  「何よこの大きな水晶玉、もしかして私の未来を占ってくれるのかしら?」


 この白い部屋に来てから1週間は過ぎただろうか。

 最初は息苦しいと思っていたこの場所が最近では居心地よく感じていた。

 住めば都というのはこういうことを言うのだろうか。


 「未来など知ってどうするんだ?」


 いつものように木製のテーブルを挟んだ向かい側には眉目秀麗の男エルフが座り、大きくため息をついていた。


 「そうね、いい結果なら信じて、悪い結果なら聞かなかったことにするわ」


 昔は朝のニュース番組の占いコーナーを見ていたが、いい時だけ信じていた。

 その時だけ、ラッキーカラーやラッキーアイテムを持っていた。


 「何も考えずに両手で覆うように触れろ」


 男エルフはしかめっ面のまま、目の前にある大きな水晶玉を指さしていた。


 「……横柄なイケメンが許されるのは漫画やアニメの話だけね」


 相手に聞こえるようにわざと大きなため息をついてから、水晶玉の方へと身を寄せる。

 水晶玉には私の顔が映っているのだが、湾曲な形のせいか、横に伸びた顔が映る。


 「……横に伸びてても驚くぐらい老けたのがわかるわね、あ、でも顔色は良くなった気がする」


 マジマジと水晶玉に映る自分の顔を見ていると、男エルフは鋭い目つきで「早くしろ」と言わんばかりに睨んできた。


 「わかったわよ、せっかちな男は嫌われるわよ……」


 皮肉で返しながら言われた通り両手で水晶玉を覆っていく。

 完全に両手が触れると、水晶玉が光を放ち始めた。

 あまりの眩しさに目をつぶってしまう。


 「……なるほど、道理で死霊を扱うことができたわけだ」


 放たれた光も臆せず男エルフは水晶玉をじっと見ていた。



 「で、何のためにこんなことをしたのかしら?」


 水晶玉が発していた強い光はやっと収まったのと同時にやっと目を開けることができた。

 そんな目の前で、男エルフはタブレット端末を見ていた。


 「……おまえが人間かどうか、確かめるためにだ」

 「どうみても人間じゃない? もしかして麗しのエルフ様には私がオークにでも映ってたのかしら?」


 皮肉たっぷりの返しに目の前のエルフは黙ったままこちらを睨みつけていた。


 「最近では魔力をもつ人間が出てきてはいるが、微々たるものだ……」

 

 そう言って男エルフは無造作に持っていたタブレット端末をテーブルの上に放り投げる。

 その画面には私の顔写真と円や棒の形のグラフが表示されていた。


 「おまえはそんな者たちよりも遥かに高い魔力を持っているんだよ、だから死霊を扱うことができたのかもしれんが……」


 男エルフは意味がわからないと言わんばかりに唸り声をあげていた。


 「一応聞くが、あの女魔族と血の契約を結んだか?」

 「……血の契約って?」

 「魔族と主従関係を結ぶことだ、それによって人間は高い能力を得ることができるが、人間としての意思は一切なくなる」

 「何もしていないと思うけど、ちなみにそれって儀式とかあったりする?」

 「魔族と交わればいいだけだ」

 「……交わり?」

 「魔族と情交を交わすと言えばわかるだろう?」


 恥ずかしがる様子もなく男エルフは淡々と言葉を発していた。

 

 「……真剣になって聞いた私がバカだったわ」


 興味本心に聞くんじゃなかったと後悔してしまう。


 「それでどうなんだ?」

 「何が?」

 「あの女魔族とまじ——」

 「——あるわけないでしょ!」


 大学の費用を稼ぐために体を使った仕事をしたことは何度もあるが、さすがに女性が相手の仕事に関わったことはない。

 人生経験として一度ぐらいならいいかもしれないけど。


 「そうか」


 男エルフはこちらに詫びる様子など微塵もなく淡々とした口調で答えた。


 「にしてもこれほどの魔力を持つ人間をこのまま処分するのはもったいないな……」


 こちらに話しかけるわけでもなく、1人でぶつぶつと呟く男エルフ。


 「死霊使いとしての魔力をどうにかして別の方向に向けさすことは可能ではあるが……」

 「さっきから何を1人でぶつぶつと言ってるのよ……」

 

 私の言葉に男エルフは思考を遮られたのが不服だったのか、不機嫌な顔でこちらを睨んでいた。


 「……槐堂円珠、おまえはまだ生にしがみつきたいか?」

 「どういうこと?」

 「生き続けたいかと聞いている」


 生き続けたいか……

 どっちでもよかった。

 大学ではどんなに頑張っても自分の能力を認めてくれなかったし、愛する人ができても結局はあのような結果。


 正直、ここで終わるならそれでもいいかなと思った。

 それにあの下北沢ダンジョンでは多くの探索者を屍に変えてきた。

 基本的にはデッドベイブがやっていたので、直接ではないが……操っていたのだ

から、同罪だろう。


 ——できることなら、もう一度オルハさんと一緒とコーヒーでも飲みながら話してみたかったかな。

 叶うことなら……


 「……そうね、生きたいわね。 もう一度話をしてみたい人も見つけたし」


 気がつけば、自然と自分の思いを口にしていた。


 「……わかった。 だが、そのためには少し辛い思いをしてもらうぞ」


 そう言って、男エルフは私の目の前に置いたタブレット端末を再度手に取り、指を画面の上でスライドしたりタップしていく。


 「アイリスか? 至急こちらに書物を持ってきてもらいたい」

 『別にいいけど、何の書物?』

 「聖魔法に関する書物だ」

 『何に使うの? 読書好きなバル兄が読むにしてはちょっと面白みがないというか……』


 タブレットに向けて話をしていた男はすぐに私の顔をじっと見ていた。

 

 「これからこの女、槐堂円珠に聖魔法を使えるようになってもらう。 途中で死んだら処分の手間が省けるからちょうどいいだろう」


 その直後、タブレットのスピーカーから割れるような叫び声が聞こえてきた。


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