第33話 女剣客、デッドベイブを撃破する

 「……そこ!」


 エンジュさんの指示に従うモンスター、デッドベイブの両腕から生えた刃を月華の刀身で受け止めるとすぐに突き出すと同時に刀を振り上げて片腕を両断する。

 

 ——受けてから斬るまでの動きが一瞬だったぞ!

 ——いっけええ、女剣客!

 ——そのままモンスターをぶった斬っちまえ!

 

 「そうはさせない……ッ!」


 エンジュさんはバッグから黒い石を取り出し、デッドベイブに向けて翳す。

 目を覆うような光を放ちながら、モンスターに取り込んでいくと、先ほど両断した腕が再び生え始めた。

 その腕で私の首元を狙い、大きく薙ぎ払ってきた。


 急な攻撃に刀身で受け止めることはできたが、反動で後ろに吹き飛ばされてしまう


「う、うわわわ!!!」


 その際、後ろにいたシオンとぶつかりそうになってしまうが、何とかギリギリのところで踏みとどまる。


「……シオン、大丈夫!?」

「大丈夫です!」


 振り向くとシオンは笑顔で答えていた。


「それにしても、何度も復活させてくるのが厄介ですね」

「……そうね、こういうモンスターの対策をアイリスに聞きたいけど、さっきから返事がないわね」

「ですね、さっきから私も呼びかけているんですが……」

 

 いつもなら何かと言ってくるアイリスだが、いつからか声だけではなく反応すら無くなっていた。

 一体どうしたんだろうか……。


 ——ってかあのモンスターを復活させてる女は何者なんだ?

 ——あ、そういや動画漁ってる時にみたことあるぞあの女

 ——俺もあるかもしれない、たしかモンスターにやられた探索者の死骸を撮影してたやつじゃね?

 ——そうそう! 覗いてみたけどコメント送るリスナーがその様子を見て大騒ぎしてたな

 ——なにそれキモい


「オルハさん……!」

「……どうしたの?」

「ふと思ったんですけど、あの女の人の動きを止めればあのモンスターも復活しなくなるんじゃ」

「……どうするの?」

「さっきローズバインドなら動きを止めれると思います!」

 

 ウェアウルフの動きを止めた魔法ならモンスターを復活させようとするエンジュさんを止めることはできるかもしれない。

 先ほど見た限りでは、あの魔法は纏わりつくだけではなく、蔓にある棘で突き刺していくものだ。

 人間よりも頑丈と言われているモンスターならまだしも人間の場合、致命傷になりかねない。

 

 「……シオン」

 「は、はい!」

 「あの魔法はあのモンスターにお願い」

 「で、でも!」

 「……彼女、エンジュさんはこんなことをする人じゃない、必ず理由があるはず」


 デッドベイブは互いの刃同士で研ぎながらゆっくりとこちらへと近づいてきた。

 私はそれぞれの手に月華と焔纏刀を持ち、モンスター、デッドベイブの元へと駆ける。


 

 「……時間は稼ぐから、お願い!」


 大声でシオンに声をかけると、彼女は戸惑いの表情を見せるがすぐに床に杖を突きつけるとゆっくりと目を閉じていった。

 

 「ウギャアアアアアアア!!!」


 私が近づくとデッドベイブは両腕の刃を交互に振りまわしてきた。

 2本の刀身で受け流しながしていく。

 相手が人間であれば疲れが生じてくるのだが、疲れも痛みもしらないゾンビだからか攻撃が止まることはなかった。


 「……もう少しッ!」


 ずっと攻撃を刀身で受け止めているがさすがに限界がきて、腕に痛みを感じていた。

 このまま続くと防御する力が入らなくなってしまう。


 「構築完了! オルハさんおまたせしました!」


 切に願っていると、後ろからシオンのハキハキとした声が聞こえてきた。

 若干ではあるが、構築が早くなっているようにも思えた。

 シオンは持っている杖を上に掲げながら、「ローズバインド」と魔法名を叫び出した。


 そのタイミングに合わせて私はデッドベイブの体を2本の刀身を使って押し出してから後ろに跳ねる


 「ウギョガアガガガガガ!!!!!」


 よろめくデッドベイブだったが、床から生えてきた薔薇の蔓がモンスターの身体中に巻きつかれ、動きを止める。


 「グギャアアアアアア!!!」


 ——お、さっきのウェアウルフでも使った魔法だな!

 ——うお、縛りつけるだけかと思ったら棘がささってるのか

 ——綺麗な薔薇には棘があるのさ

 ——やべえ、そのセリフをシオちゃんに言ってもらいたい

 ——シオちゃんよりも女剣客の方じゃないか?


 蔓が巻き付くと同時に鋭利な棘がデッドベイブの体に突き刺さり、身体中から大量の液体が流れ始めていた。

 

 「……これでッ!」


 デッドベイブの元へ駆け抜ける刹那、勢いよく刀を横に振り抜く。

 そしてすぐにモンスターの横を抜けると同時に今度は縦に。

 2本の刀で縦、横、斜め、縦横無尽に切り刻んでいき、最後は月華で相手の心臓の部分を勢いよく突き刺す。

 

 「グギャアアア!?」

 

 バラの蔦で全身身動き取れず、棘を突き刺されて苦しみ悶えるデッドベイブ。

 周囲にはモンスターの肉片や液体が飛び散っていた。

 こうなれば……!

 

 「大丈夫よ、さあこれを——」


 フロアの奥でエンジュさんが黒い石を取り出して掲げようとしていた。


 「……それを待ってた」

 

 デッドベイブに突き刺した月華を引き抜くと彼女に向けて空圧を飛ばし彼女の手から黒い石を吹き飛ばし、空中を待っている黒い石へ勢いよく焔纏刀を突き刺す。


 「や、やめて!!!! それは最後のパラケストーン——」


 エンジュさんが叫喚するなか焔纏刀の柄を力強く握り、刀身に炎を纏わせる。

 炎に包まれた黒い石はボロボロと音を立てて崩れていった。


 「う、うそ……!」


 崩れていく石を見て、糸の切れた人形のように崩れるエンジュさん。

 その時に持っていたスマホが真っ黒のカバーに包まれた手から落ちていった。

 

 ——終わったな

 ——そんじゃ失礼させてもらうで

 ——つまんねー最後だったな

 ——チャンネル登録解除させてもらいますねー


 画面には彼女のチャンネルのリスナーだろうか。

 エンジュさんが負けたことにがっかりしたなどのコメントが流れ始めていた。


 「うわっ……登録ユーザー数がみるみる減っていってる!?」


 私の後ろからシオンが顔を出してスマホの画面を見ていた。

 画面には登録ユーザーの数が一気に減っていき、あっという間に1桁になっていた。


 「……ゼロになった」


 画面に表示されている、登録ユーザー数が0と表示され、先ほどまで流れていたコメントは一切でてこなくなった。


 「……エンジュさん」


 崩れる彼女に近づき声をかける。


 「ははは……私はもう終わりだわ」


 力なく呟きながら宙を仰ぐエンジュさん。


 「……終わり?」


 私が彼女に返すが、反応はまったくなかった。

 

 「あれ、何で!?」


 シオンは困惑した顔でスマホを見ていた。


 「……どうしたの?」

 「ネットに繋がらなくなっちゃたんです、さっきまで平気だったのに……」

 

 シオンはずっと私たちを映し出している小型ドローンの方へを行こうとしていた

 だが、その直後遠くで風を切る音が聞こえてきた。

 

 「……何の音?」


 気づいたのは私だけで、シオンには聞こえていないようで、小型ドローンを覗き込むように見ていた。

 

 風を斬る音が徐々にはっきりと聞こえてきていた。

 そして……

 

 「……シオン、伏せて!!」

 「ふぇ!?」

 

 シオンに向けて叫ぶと同時に彼女を覆い被さるように飛び込むと、丸いものが私たちのすぐ上をヒュンヒュンと音を立てて飛んでいた。

 その直後、衝撃音が響き渡り、私たちの目の前でボロボロと崩れ落ちていった。

 

 「小型ドローンが! 買ったばっかなのに!」

 「……まだ体起こしちゃダメ」

 

 ボロボロになっていく小型ドローンに手を伸ばそうとするシオンの顔を抑えつけながら様子を伺う。


 「な、なんですかアレ!?」

 「……わからない」

 

 私とシオンの真上を飛んでいたものは、意思を持っているのようにフロアの奥へと向かっていった。

 

 「あらぁ、避けられちゃったみたいね」


 空中を舞っていたものが戻っていった先で、女性の声が聞こえてきた。

 トントンとこちらに近づく足音も一緒に……。


 「強いと噂になっている女剣客も私のコレクションに入れられたら一石二鳥だったのに」


 そう言って声の主が姿を現す。

 エンジュさんと似たようなドレスを纏い、顔立ち整った女性だった。

 誰もが見ても美しいと言える美貌の持ち主。


 背中から伸びる禍々しい羽根と女の背丈を超える巨大な鎌がなければ……。


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