妖が蠢く現代日本最強の祓魔師はお腹が空いた!妖?呪物?怪物?……よくわからんが全部美味しいぃぃぃぃぃいいいいいい!
リヒト
第1話
雨がさんさんと降りつけ、冷たい風が吹きつけるとある冬の日。
「……さっむ」
制服を着た少女が屋根のついたバス停で一人、バスが来るのを待っていた。
バスが見えるかどうか、少女はバス停から身を乗り出して道路の方へと視線を向ける。
『ミエル?』
その瞬間、彼女の視線すべてを埋め尽くす形で一つの影が降りてくる。
「……」
耐え難いどこか酸っぱい饐えたような臭気を纏う異形の怪物。
粘着くような黒い屁泥を垂らしながら立つ2mほどの人型の存在。
うねり、捻り、捻じられ、どうなっているのかもはやよくわからぬ人のようで人でない体より伸びる四本の首。
「……まだ来ないか」
どこまでも長く伸びる四本の首にその体を這われる制服を着た少女はそれに対して何の反応を取ることもなく少しばかり震える手でスマホをカバンから取り出して電源をつける。
『ミエル?』『ミエル?』『ミエナイ……』『ミエル?』
空気を震わし、汚染するような音を漏らし続ける異形の怪物の声が少女には届いていないのか、一切彼女は反応することなくスマホを操作し続ける。
『ぎぃぃぃぃぃィィィィィィいいいいいいいいいいいいいいいい!』
そんな時だった。
つんざくような金切り声を上げ、一つの巨大な別の異形の怪物が姿を現したのは。
「……」
思わずと言った感じで表情を上げた少女の前を足の無い体を無様に引きずり、手で懸命に地面を漕ぐようにして進む5mはあるであろう巨大な異形の怪物が通る。
「……」
だが、少女はその異形の怪物に何の反応をも示すことなく、再び視線をスマホに落とそうとする……その瞬間。
「逃げるなぁァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
先ほどの世界を汚染するような醜悪な声ではなく、どこまでも澄んでいて心に染みわたっていくような美しい高い女性のような声が響き渡る。
「ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!?」
そして、人間とは思えぬ無茶苦茶な体の動きで建物の壁を疾走する少女と同じ制服を着た一人の少年が異形の怪物へと飛びつき……その体へとかぶりついてそのすべてを吸いつくした。
それだけは決して終わらない。
さっきまで確かにいた巨大な異形の怪物を吸い込んだ少年の首が180度回転し、少女のいるバス停の方へと向く。
「ひぃ!?」
「もういったぁい!!!」
少女の方へと背を向けながらも顔を向けてくる小さな少年は、一瞬にして彼女のすぐ目の前へと迫り……少女の横にいた異形の怪物を押し倒す。
『ギィ!?』『ギーッ!ギーツ!』『ミエナイッ!』『ィィイ!』
少女は何もかもが見えていた。
自分の横にいた異形の怪物も、地面を這いずる巨大な異形の怪物も……それらを前にしても悲鳴を上げなかった彼女は、自分のよく知る少年。
「は、はわわ……」
自分のクラスメートであり、いつもは物静かにクラスの隅で本を読んでいるような少年が人間と思えぬ挙動で世界を駆け巡り、異形の怪物へとかぶりつくというあまりにもショッキングかつ何が起きているのかわからない光景をまざまざと見せつけれた少女は涙を流しながら地面にへたり込むのであった。
■■■■■
「ど、どういう状況なの?」
泣き崩れる一人の少女に、異形の怪物へとかぶりつく一人の少年。
何と形容すればよいかわからぬ光景を前にする時代錯誤にも程がある狩衣を、コスプレに身を包んだ少女は困惑しながら口を開くのであった。
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