ハイスペックだが恋愛ポンコツな幼なじみにムチャブリされて一週間で世界が変わる

最時

第1話  月曜日 けなし合い五十歩百歩

「お疲れ様です」


「お疲れ様」


 一緒に電車に乗った陸上部の先輩と別れてホームに降りると、夏の湿った暖かい空気がまとわりつく。

 まだ梅雨明け前だが今日も最高気温は30度超え。

 部活で塩っぽい肌に再び水分がしみ出してきた。

 夏は始まったばかりだというのに早く涼しくならないかなと、可能なら二、三ヶ月戻ってくれてもいいのだけど。


 改札はいつも通り帰宅する人達で賑わっている。

 暑くなって疲れている感じの人も居るけど、朝よりも空気が軽い感じがする。


 改札を出たとこに大きな竹笹が飾られていた。

 そういえば今週金曜日は七夕だ。

 短冊が用意されていて、誰でも自由に書けるようだ。

 流石に書こうという気にはならないな。



 休み明け月曜を乗り切って、俺も自然と少し足早に自宅は向かう。


 賑やかな駅前を歩いていると後ろから名前を呼ばれる。


「レン待ってー」


 大声で周囲の人達に注目されているのが振り向かなくてもわかる。

 俺は振り向かずにそのままのペースで歩く。

 少しペースが上がったかも知れない。


「レン、待ってよ」


 声は一瞬で隣からになって、顔をのぞき込んできた。


「この人ごみの中でダッシュするなよ」


「だって、待ってくれないから」


「この人ごみの中、大声で名前呼ばれたら無視するしかないだろ」


「何で無視するのよ。

 カワイイコが呼んでいるんだから、そっちから手を振って駆け寄ってくるのがテンプレ」


「少女マンガの恋人同士のな」


「えっ、わっ、私達そういう関係じゃないから」


「・・・」


 なに動揺しているんだ。

 俺のことが好きなのか。


「家が近くで、長い付き合いってだけだからっ」


「腐れ縁だってやつだな」


「・・・ 相変わらず言ってくれるわね。

 私と家が近いなんてうらやましがられるでしょ」


「誰がうらやむんだ」


「後輩に人気あるじゃない」


「確かに。

 だけど自分で言うか」


 部の後輩には確かに人気があると思う。

 速いし。

 見た目も悪くない。


「後輩達はホントの性格を知らないからな」


「ホントの性格って何」


「雑なところだよ」


「失礼。

 私のどこが雑なわけ。

 文武両道パーフェクトレディのカンナちゃんに良くそんなことが言えるわね」


「そういうとこだよ。

 性格。

 謙虚さが足りない」


「自信があるって言ってくれない。

 女はお淑やかになんて昭和以前の話なんだから。

 レンがそんな考えなんて私ショック」


「思ってないだろ。

 そういうことをしれっと言うところだよ。

 街中で叫んだり、ダッシュしたり、そういうところをみんな知らないからな。

 そんなお前を見たら後輩達がショックだよ」


「そんなことないと思う」


「あるんだよ」


「もう。

 レンはそういう後ろ向きな性格が良くないのよね」


「いきなり話題を逸らしてきたな」


「レンも見た目は悪くないんだから。

 性格なおせばモテるのに」


「なおすって言い方が心外だな。

 悪いみたいだ」


「みたいだじゃないから。

 悪いから」


「言ってくれるな」


「まさか自覚ないの」


「・・・ 全くないわけでもないが」


「もしかして俺ってクールだからなんて思っているわけじゃないよね」


「・・・ そんなことは」


「はあ~。

 これだからレンは。

 レンのはクールじゃなくて暗いだけだから。

 怖いし、最悪話しているだけでテンション下げるから」


「そこまでじゃないと思う」


「よく否定できるね。

 レンと普通に話してられるの私ぐらいだからね」


「・・・」



 自宅でいつもの日課を過ごして布団に入る。

 今日のあいつとのやりとりを思い出した。


 言ってくれる。

 むかつくけど、でも、確かに、かなり誇張されていると思うけど全くのでたらめではないと思う。

 正直、話をするのは苦手だ。

 話題とか、関係とか、いろいろ考えてしまう。

 だけどあいつとはそんなこと何も考えなくて良いから

 だけど、逆に気を遣ってもらっているのか。

 むかつく気はするけど、あいつと話しをするのは悪くないかな。

 まあ、どうでも良いけど。

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