2章 幕間

 闇の中で光るものがある。

 刃物のように細く、鋭い。触れるものを、いや触れずとも見ただけで斬られてしまう、そんな気配を漂わせていた。

 それが暗闇にひとつふたつと浮かんでいる。白い縁取りに丸く澄んだ黒い点。人の瞳である。


「ここも終わりだな」


 一組の目が揺れ動く。周囲の目も追従する。


「これからどうするの?」


 幼さの残る少女の声が反響する。

 ……そうだな。

 問われた側はすぐには答えない。浅い呼吸を繰り返し、瞳は闇に消える。

 その時だった。獣の咆哮のような音が響き、壁が震える。同時に明かりが灯り、眩い閃光が駆け抜ける。

 床に壁にと置かれた投光器が一斉に光を放っていた。中央に置かれた発電機はガソリンを喰らい、唸りを上げる。闇に紛れていたものがその姿をさらけ出していた。


 数十人の男女が立ち並ぶ。目を閉じていたのは男性で、その身体に絡みつく少女の姿があった。

 そして、その下には数多の人間が層を作っていた。どれも赤い化粧が施されて、酸素を吸えるものは残っていない。

 死体の山に立つ男性は少女の頭に手を乗せる。そして引き剥がすように押しのけ、もう片方の手に持っている銀の長剣を足元に刺す。

 肉を千切る音が鳴り響く。幸いなのが既に息絶えていることだろう。絶命の悲鳴が再度上がることはなかった。

  

「北のスワンプウィードか、南のフロントタワーか…」


 指折り数えるが、すぐに止まる。彼らの目的地が多くないことを示していた。

 ……さて。

 男性は無意味に彷徨う手を下ろして考える。

 燃料はある程度確保できた。しかしいつも不足しがちになるのは食糧だ。

 並んでいる顔を見る。どれも飢えて目がくぼんだもの達だ。率いる者としては何としても食わせていかなければならない。

 どこのコロニーも余裕がないことはわかっている。優先順位をつけるならばまず身内から、よそ者に分け与えるにしてもそれからだ。

 男性は頭の中にあるデータを片っ端からひっくり返す。次がハズレなら餓死者が出る。その事実は何時だって足を竦ませる。

 ……ん。

 ひとつ。ひとつだけ候補が上がる。

 少しだけ遠いが食糧は切り詰めればどうにかなるはずだった。

 ならば進もう。それ以外の道は崩れているのだから。

 男性は顔をあげて着いてくる者たちを一望する。


「次はタールフルスだ。準備を急げ」


 それが吉と出るか凶と出るか。答えは降りしきる雪の先にあった。

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