第2話 元貴族の少年、平原をゆく



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 翌朝、まだ陽も昇らないうちにクリスは屋敷を出た。


 家の誰にも会いたくなかったからだ。


「・・・行こう」

 誰に向けてでもなく、クリスは声に出して言った。


 ここからだ。


 ここから、今度は本当の・・・、

 自分の居場所を手に入れるんだ・・・!


(でないと僕は・・・)

 何者にもなれない・・・。



 腰のベルトには護身用のショートソード。


 厚手の服の下には首から下げた母マリアの形見であるペンダント。


 外套がいとうをはおり、愛用の木剣を取り付けたバッグを背負い、

 屋敷から領都へと続く並木道を歩く。


 当然、領主の屋敷から領都へは距離がない。


 長いのはその先、周辺の街へと続く街道である。


 自分を追放した父ゴネルの膝元に長くとどまるのは危険・・・。

 クリスは、そう考えるようになった。


 領都を朝のうちに素通りして、街道から別の街へ向かうつもりである。


 だが、街道と言っても安全が保障されているわけではない。


 見晴らしの悪い林道など、夜における魔物や盗賊との遭遇率は決して低くない。


 だからクリスが選んだのは、見晴らしの良い平原の街道、

 それも馬車の往来が頻繁な昼間の移動であった。


 左右に広がる草原の先にはうっすらと森と、

 さらに片側は山が見える。

 山の見えないもう片側の先は海だろうか・・・。


(この道は確か先月の・・・)

 すれ違う馬車を見つめながら、

 クリスは洗礼での事を思い出していた・・・。



「クリス、あなたのスキルは『研磨けんま』です」


 あの日、大聖堂の司教は少し困ったような顔でそう言った。


 聞けばいままでに前例のないスキルらしく、

 助言のしようがないらしい。


 それでも司教は『研磨けんま』という言葉そのものの意味を教えてくれた。


【研磨・・・対象の表面を研ぎ磨くこと、もしくは少々削ること。

 研鑽けんさんを重ね、自身の才能や能力を磨くこと。

   パリス教聖典 共用語大辞泉の巻より】


 それを聞いた時、クリスは喜んだ。

 自分を磨く・・・、父からのをやり遂げ、

 認めてもらうためにはピッタリのスキルだと思ったからだ。


 だが、傍で聞いていた父ゴネルは失望しきった顔で言った。

「野菜の皮をむいたり、犬ころが自分の尾を追い掛け回すような無能スキルか・・・」



 ーーー街道を歩きながら、

 クリスはあの時の父の言葉の意味を考えていた。


 野菜の皮むき・・・、

 対象を磨いたり表面を削るというスキルは、

 確かにそんな使い道を連想させる。

 そして・・・


「自分のしっぽを追いかける犬・・・」

 クリスはつぶやいた。


 おそらく、才能を磨くという部分を父はそう罵ったのだろう。


 才能を磨くスキル・・・。


 だが、才能というのはすなわちスキルの事。

 才能スキルをその才能スキルでどうやって磨こうというのか。


 剣でその剣自身が斬れようか。

 つまり、このスキルは使い物にならない。


 そう父は判断したのだ。


(だけど・・・)

 いままでのクリスなら、父の意見を鵜呑みにしただろう。


 だが、今は違う。


 スキルにしても、

 それが才能の全てとは思わない。


(『才能を磨く』、

『対象を少しだけ削る』、

 それがどちらも『研磨』の意味なら・・・)


 このスキルは父が思うよりもずっと奥が深いのではないか。



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(困ったな~・・・。

 街に着く前に日が暮れちゃった・・・)

 街道のど真ん中で、クリスはへたりこんでしまった。


 これまでの屋敷での精神的疲労に加え、

 重い荷物を背負っての旅は思ったよりも負荷が激しかったようだ。


 先月、馬車で洗礼に行った時には半日で街に着いた事で、

 タカをくくってしまっていた・・・。


(仕方ないよね。

 怖いけど・・・)

 クリスは街道での野宿を決めた。


 少しだけ道から外れ、木々が近い河原まで行くと、

 荷物を下ろし枯れ枝を拾い集め始める。



 ーーー火をおこした時には、すっかり暗くなっていた。


(ギリギリだったな・・・)

 干し肉を白湯さゆで流し込みながら、

 クリスは自身の不注意を反省した。


 パチ・・・パチ・・・と、燃える枯れ枝の音が辺りに響くほどの静けさ。


(独り・・・なんだな・・・)

 胸元から取り出した母の形見のペンダントが、

 たき火の明かりで淡く光るのを眺めながら、

 クリスは改めて自覚した。


 と、その時。


 ガサッ!近くの木々から音がした。


(何か・・・いる!)

 素早くクリスは木剣を構える。


 そして、彼の前には現れた。


【つづく】



 __________________________


 ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます!

 そして・・・、


『果たしてクリスの前に現れたのは⁉』


 どうかその正体を下のコメント欄に書いてお贈りくださいませ!

『オオカミ』とか『ゴブリン』とか『全裸おじさん』とか・・・


 あなた方 神の言葉なしには成り立ちません・・・


 この祈りが届きますように・・・!


 ・・・というお願いを先日しておりました。


 お答えくださった神様には本当に感謝しております!


 ただいま次の回で新しいお題を掲載中です。


 改めて、

 あなた方のコメントだけが頼りです!


 どうぞよろしくお願いします・・・!


 ・・・というお願をしていましたが、奇特な神様からコメントを頂きました。

 本当にありがとうございます!


 基本、最新話でコメントによるアイデアをお願いしておりますので、

 どうぞよろしくお願いします!














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