ハツコイソウ
凪子
第1話
これは、贖罪の物語、僕の罪滅ぼしだ。
「うーん…、はぁ…なるほどねぇ…」
「やっぱり、難しいですよね…」
「いや、もう時間経ってますし大丈夫だとは思うんですよ」
某社の文芸部に持ち込まれ編集者を悩ませている物それは、「名門女学校買春事件」
被害にあった生徒は数知れず、被害届を出しても表沙汰にならなかった事件だが、ある日突然警察署に買春の顧客データと証拠映像や写真が匿名で届けられ一斉逮捕に踏み切ったのだ。
顧客の中には政治家、医者、企業の社長やら役員がいて世間が混乱し、二年近く経った今でも傷跡が残っている。その大事件を元に書いた小説原稿をこの編集者は眉間にしわを寄せてにらめっこしている、それも当然だろう倒産した企業もある位世間を賑わせ混乱させた大事件、その事件をモチーフいや、さも当事者であると言わんばかりの原稿を持ち込んだのだ、悩まないわけがない。
「僕はね、僕は良いと思うんですよこの原稿、なので編集長の反応次第ってとこですね」
「そうですか、それで大丈夫です」
「じゃあ早速編集長に見せてきますよ!あ、後確認なんですけど…」
椅子から立ち上がるがこちらを振り返り申し訳なさそうな苦笑いで話しかけてくる
「この男性Sって主人公…あなたの事じゃないですよね?」
この物語の主人公「男性S」無職でうつ病、そしてギャンブル依存症のまさにダメな男を体現したかのようなどうしようない男
「いや、まさか、ねえ?ありませんよね?」
さて、何と答えようか。何と答えたらこの編集者は愉快な表情を見せてくれるだろうか。ここは
「 」
―三年前―
「…う、うぅぅぅ…」
寂れた公園の錆びついたベンチに腰掛けこの世の終わりといわんばかりにうなだれているスウェット姿のボサボサ頭の男が一人、何故この男
「どうしよう…もう、借金するしか…」
前の職場を退職して三年、親にはこれまでさんざん迷惑をかけてしまって縁を切られている。頼るつてがなく、どうしようもなく行き詰ったダメ男の前に人影が入り込んできた。
「せーんせ、何してるんですか?」
「…ぁ」
サイドに三つ編みが編み込まれたこげ茶のハーフアップの長い髪を揺らした清楚なご令嬢の空気を纏っているかのような女性が柔らかい微笑みを浮かべながら話しかけて来た。
「お、おおくらさん…」
「せんせ、久しぶり」
佐々木修平の前に現れた女性、
「お、おひさしぶりです…あ!いやあの、なぜこんなところに」
「ふふふ、それは内緒です。それよりせんせ困りごとですか?」
困っているのかと言われたらものすごく困っている。今まで生きてきて一番困っているかもしれない
「もしかして、お金パチンコに溶かしちゃいました?」
言い淀んでいると、まるで今まで見ていたかのように言い当てられて更に動揺してしまう、何故知っているのか分からないが彼女に縋りたい誘惑と、元生徒に情けない姿を見せてはいけないという見栄が天秤にかかって目の前が霞んで、揺れ動いて冷や汗が止まらない。
「いくら欲しいですか?」
「…ぇ」
「お金、いくら欲しいですか?」
声にならない情けない声、その声を聞いて満足そうに笑いかけてくるその笑顔が聖母のように見えて彼女の足に縋りついてしまった。
「せんせ?その代わりにお願いがあるんです」
両膝を曲げ地面に膝を付けた彼女の足元に縋りついている男の顔と目線合わせ蕩けてしまいそうな甘い声でささやかな願い事をしてきた。
「私のヒモになってください」
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