私と彼女の約束ごと

昴間 昂

プロローグ

 窓の外を見ると満開の桜が咲いている。


 今日は高校2年生になって初めて学校に来る。つまり、クラス替えがある日だ。

 私にとってクラス替えなんてものはあってもなくても変わらない。一緒になりたい友達なんて一人もいない。だから——早く帰りたい。ベットに寝転がりたい。今日一日が早く終わってほしいと思う。


 クラスメイトは桜の花のように、クラスのそれぞれで集まっている。


 私は地面にぽつんと落ちた花びらのように、一人、孤独に席に座っている。


 別に悲しくなんてない。いつものことだ。人付き合いなんて面倒くさいことしなくたっていい。1人でいるほうが気楽でいい…はずだ。そう思っているはずだ。なのに、こんなにも胸の奥がざわざわするのはどうしてだろう。


 「ねえねえ、東雲さん」


 「…ひゃい!」

 突然名前を呼ばれてびっくりする。声が裏返り、変な声を出してしまう。


 「私、姫坂っていうのだけれど、よかったら友達にならない?このクラスに知り合いが1人もいなくて…」


 姫坂柊莉って名前は隣の席の人だったはずだ。さっき、座席表で名前を見た気がする。

 初めては言い過ぎだけど、久しぶりに友達って言葉を聞いて、それになれると聞いて、胸の奥があったかくなる。


 「…いいよ」

 

 つい返事をしてしまう。友達なんていらないと思っていたはずなのに。一人でいいと考えていたはずなのに。


 「じゃあ、“約束”ね、東雲詩織さん、これからよろしく!」

 

 約束という言葉に疑問を持つ。でもそんなことはどうでもよくて、久しぶりに友達という関係ができたことにうれしくなっている自分がいることに気づく。しかも約束ってなんか固く結ばれてそうで、とぎれなさそうで、心地よく感じる。彼女の友達でいいてもいいと。しかも、これから先もずっと。


 私はどうやら一人は寂しかったらしい。


 でもこの時まで考えてもみなかった。この“約束”が邪魔になることを…。

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