彼女の彼女と彼女が彼女!
米太郎
第1話
放課後のチャイムが聞こえてくる下駄箱。
日はまだ傾いたばかりで、空が茜色になるにはまだ早い時間。
帰宅部の帰りは早い。
「京子、一緒に帰ろー!」
「私今日バイトだから、ごめん」
私はいつも通り、京子と帰ろうと誘ってみてるのだが断られてしまった。
おかしいなと思って、理由を聞いてみる。
「何のバイトなの?」
「秘密」
それでも、京子はかたくなにしゃべろうとしなかった。
「押しかけたりしないって。教えてよ、コーヒーショップとか?」
「絶対にダメ!」
……もしかして、いかがわしいお店なのかな?
恥ずかしいメイド喫茶とかなのかな?
秘密にされると気になりますね。
先に帰るふりをして、待ち伏せでもしてみようかな。
私は京子に「じゃあ、またね」と別れた後に、校舎の陰に隠れて京子が出てくるのを待った。
中々出てこない京子。
やっと出てきた京子は、岡田君と一緒だった。
……え、なんで。
バイトって言ったじゃん?
私と一緒に帰らないで、岡田君と帰るの? なんで……?
周りの人達には秘密にしているけど、私と京子は付き合っている。
あまり人前では言えないけど、キスだってした仲なのに。
どうして……。
「じゃあ、行きましょうか」
京子は親し気に岡田君に声をかけていた。
私は男嫌いだけど、男の子の顔の良し悪しはわかる。
岡田君は、ブ男の部類だよ。
なんであんなのと……。
あれに負けたっていうのが許せない。
どういうことなのか、ついて行って確かめることにした。
校門をくぐり、学校の人からは見えないような通学路に入っていく。
私もこっそりとついていく。
誰もいないような道。
だけど、あの二人は手を繋ぐ様子はなかった。
どこまでの仲になってるんだろう。
付き合い始めなのかな?
二人で歩く後ろをついていく。
帰宅部が帰るにしては、結構遅い時間。
かといって、部活に所属している人が帰るにしては早い時間。
つまり下校途中の道には、人がほとんどいないのだ。
こんな時間を狙ってまで二人で帰りたかったのか。
……悔しすぎる。
前を歩く二人。
その後ろをこっそりとついていく。
バレないように。慎重に。
電柱の影なんかに隠れたりして。
近づきすぎたら見つかっちゃうし。
何を話しているのか、気になるな。
どうにか、聞こえないものかな。
そーっと電柱の陰から聞き耳を立ててみる。
「おっすー!
そんな時に後ろから声をかけられた。
振り返ると声の主は、
慌てて優里の口をふさいだ。
「バカっ!」
そのまま、十字路の角を曲がって隠れる。
京子と岡田君は一度後ろを振り返ったけど、こっちには気づいて無さそうだった。
良かった、セーフ。
「何でいきなり声かけるのよ!」
「いや、だって友達に声かけるって普通の事でしょ?」
優里は、きっと鈍感なのよね。
可愛らしい笑顔をして。
まったく……。
「いま、京子を追ってるの。バレないように」
「何で?」
「だって、私と京子……」
そこまで言いかけて止めた。
私と京子の仲がバレるわけにはいかないのだ。
「私が帰ろうって言っても、何故か断ったからさ。それでこっそり付けたら、あの通り」
「なるほど」
十字路の角から、私と優里はこっそりと京子のことを眺める。
「あの二人、付き合ってそうですな」
優里はストレートに言ってくる。
「そう見えるけども、京子笑ってないでしょ!」
私は反論するが、優里はなおもずけずけと突っ込んでくる。
「いや、楽しそうに笑ってるよ? ほら?」
そう言われたので京子を見ると、私に見せたこと無いような顔で笑っていた。
どうしたんだろう、京子……。
私の事よりも、岡田君の方が好きなのかな……。
女の子同士のカップルっていうのは、あまり大っぴらにできない。
付き合った、フラれたっていうのは、学校で恋バナにもできて、みんなで一喜一憂できるんだけど。
そうはいかないのだ。
『同姓が好きだ』なんて友達に知られてしまったら、友達でいられなくなるかもしれない。
そういう思いから言わないでいる。
「けどさ、私も京子と付き合ったことあってさ」
「ええええええ!!」
「あれ? 言ってなかったっけ? 私と京子一緒の中学じゃん。その時に付き合ってたよ?」
「……そうなの?」
初耳だし、なんでそんなことを軽々というの……。
「京子ってさ、切替早いじゃん?」
確かにその節は思い当たる。
一緒に話をしてても、話題に飽きたと思うと急に興味なくなった顔したり。
パタッと話題替えたり。
そもそも趣味もころころ変わるし。
京子のそういうところは、私も知ってる。
「その様子だと上村って、今の京子の彼女だったんだね」
図星を突かれて、言葉が出なかった。
目が宙を舞う。
「はは。わかりやすすぎ。可愛いね」
優里はこちらを向いて、私の目を見ていった。
「傷心してる時ってさ、チャンスなんだよね」
「え?」
「京子に振られちゃったならさ、私と付き合ってみる?」
いきなりのカミングアウトからの、告白。
優里のことは可愛いとは思う。
そういうことを想像をしたことが無いと言えば嘘になる。
そのくらい可愛くて。
けど、絶対そういうの興味ないと思ってた。
サバサバしてるんだもん。
「え、と、えと……」
「はは。やっぱり可愛いね!」
唐突にギュッと抱きしめられた。
通学路から外れた横道。
誰の目にも触れないような場所で。
急に胸がドキドキしてきた。
「
真っすぐに私に向いて。
私の名前を呼び捨て……。
「可愛いよ」
身長は優里の方が高めで。
顎をクイっと上向きに押し上げられた。
綺麗な瞳が私を硬直させる。
正直、タイプかもしれないって思ってしまった。
抵抗する気が起きなかった。
傷心しているからって、言い訳をしてなすがまま、体を全て受け入れそう。
「私は、傷付けないから」
優しい言葉。
そのまま、優里とキスを交わした。
最初のキスのはずなのに。濃厚に感じられて。
暑い外気温の中。
けど、それよりも口の中は熱く感じられて。
こんな住宅街でっていうのと、いきなり迫られてきたことでドキドキは最高潮に達していた。
ちゃんと息ができているのか、わからなくなった。
私と優里は、そのまま求めるように抱きしめ合っていた。
激しさを増していくところで、頭をぽんぽんと撫でられた。
優里の方から、体を放していった。
現実に戻り切れないでいる私。
顔を離した後に見る優里の顔。
キスをする前よりも、とても愛おしい存在に感じられた。
「私と付き合う?」
「……うん」
手を差し出してきた。
私はその手を取って。
握って。
絶対に離したくないと、強く強く握って。
優里のやり方は、半ば強引だった気もする。
けれども、私たちはカップルになった。
私たちがキスをしている間に、京子たちは先に行ってしまって姿が見えなくなっていた。
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