第13話 お父様の執務室ー話し合いと歴史書ー



私達は昼食後、キールの案内のもとお父様の執務室へと向かった。


「失礼致します。旦那様、奥様とお嬢様をお連れしました。」


「助かったキール。さがってくれ。」


「はい。」


私は、お母様のあとに執務室へと入った。




「旦那様、お話とは?」


「ああ、昼食後にすまない。なかなか時間が取れず…この時間しかなかったのだ。それで…」


「それで?」


「リディア、そなたはイレーヌの下町通いを禁じたそうだな。」


「ええ、次期領主候補たるもの身分で付き合う人たちを決めるべきです。もし、この時期に汚点が着いたら…。」




(まぁ普通はそう思うよね…)




「そなたは、イレーヌの本心を聞いたのか?」とお父様はお母様に問いかけるように話しかけた。


「いえ。」


「イレーヌ、そなたはどう思っているのだ。そなたと、本心で話がしたい。」とお父様は真っ直ぐ私を見つめた。


(お父様…領主のときの口調だ……本心を言っていいのかな…。)




私はぐっと顔をあげ、お母様の瞳を見た。サファイアのように青い瞳が真っ直ぐこちらを見ている。




(できるだけ下町との交流を続けたい…これが私の思いだ。ならば、それを叶えるために交渉を…。)




「お母様は、この国の2代目の王であるマレーヌ様をご存知ですか?」


「ええ、尊王で建国者でもあらせられるお父様のギーラント様の息子であり、お父様の意思を継ぎ知性の王と呼ばれた方です。」




(そう、この話は学園で習うから、学園で学んだ者なら誰でも知っている。)




「そのマレーヌ様がもし…女王だったとしたら…。」


「なっ、何をいいの出すのです。」


「本当かイレーヌ?」


私の言葉に皆ビックリしたよな顔をしている。




(そりゃそう言う顔になるよ…。私だってゲームの時とだいぶ話が違うし…。)


このラブライフの世界では基本的に男の方が優勢だ。


だから、女王の記述がないのも頷ける。


(まぁ、前世の私のお兄ちゃんが作ったからなんとなくわかるけど…。)




「はい、本当です。私は、知り合いから隣国のアユフィーリアでかかれた歴史書を借りました。そして、そこにはこうかかれていたのです。偉大なる父のあとを継ぎ、長きにわたる戦乱を収め、女王として戦後の国を導いたマレーヌはその知性と人脈を使い国を導いた…と。」


「そのような…」


「信じられぬ。」と二人は口を開けたまま真っ青な顔をしている。




(私もこの話を読んだときとてもびっくりした。)


このイダート王国は代々、先代王の息子で長男の男性が歴代の王に君臨してきた。それは、武勇に優れ多くの領主から慕われる存在としてイメージにピッタリだったからである。




でも、この内容が事実であるなら今の王子であり、私に処刑を言い渡すはずのカーラント王子以外にも王となりうる資格があることになってしまう。


お父様は静かに考え込むような仕草をして、「イレーヌ、リディア……その話は本当かどうか私には判断しかねる。しかし、仮にそれが事実だとしても、絶対に口外してはならぬ。」と私達に言った。




(そりゃそうなるよね。…ほいほいと言える内容じゃないし。)


「ええ、わかっております。お父様。」と私とお母様は頷いた。


「それはそうと、イレーヌ…先程のことと下町の何が関係あるのです?」




(すっかり忘れてた。それが本題だった。)


私は、昨日してしまった失敗を思い出す。


(何でも考えてから行動するようにって決めたのに…。)




「あ、あのですね。実は、その本を貸してくれたり、アユーフィリアの言葉を教えてくれたのは下町のものなのです。」


(実際に、古びた歴史書を貸してくれたのはナティーさんだし、文字を教えてくれたのはナラクじいさんだ。)


「そんな…下町のは文字を読めないのものが多いと…。」


「それは昔の話です。今は、下町のものでも学園で学ぶ者もいるので基礎文字は読めます。それに…」




(お母様は私のためを思って下町との交流を禁止にしたのだ。だが、次期領主になると決めた以上、下町のものはただの人ではなく私が守るべき領民だと思う…だから…)




「イレーヌ、本心で話なさい。」


「はい、お父様。下町との交流は何も知らない私に知識を授けてくださいます。私は、そんな下町の者との交流を無駄だとは思えません。」


(ごめんなさい…お母様。やはり私は下町の者との交流を切ることなどできません。)


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