戦士な侯爵令嬢~その強さをダンピールの英雄に見初められる~

ことはゆう(元藤咲一弥)

戦士な侯爵令嬢~その強さをダンピールの英雄に見初められる~





 真に才能ある人物はその才能を見せない。

 と人は言います。

 故に私は私の力を隠し続けてきましたが──


「サンドリーヌ・ノヴェール!! お前とは婚約破棄だ!!」


 もういいですよね?





 婚約者だったグザヴィエ・アフレの言葉に、私は息を吐きます。

 彼の後ろでは、ぶりっ子で有名なアストリ・ソレイユ嬢が隠れています。

 周囲の同情を買うべく涙目になっているのが品のない証拠、嫌らしい。


「一応聞きますが、婚約破棄の理由は」

「当然、お前がアストリにした非道だ!」

「非道? 婚約者がいながら浮気相手を作った貴方に言われたくないですね」

「なっ?!」

「ち、ちがいますぅ!! グザヴィエ様は私に優しくしてくれて……」

「猿のように盛っているグザヴィエに、体で貴方が取り入ったのを不潔だと言った事が非道ですかね?」


 ギャラリーがざわめく。


「貴様……決闘だ!! 先ほどまでの言葉訂正させて貰おう!!」

「ならお二人でかかってきてくださいな。私にとって都合がいいので」

「グザヴィエ様、怖いですぅ」

「大丈夫、あんな女に渡しは負けはしない!」


 あーあ、何て三文芝居。

 さて、じゃあ。

 我慢はやめにいたしましょう。



 グザヴィエは剣を、アストリは杖を持っています。

 私は剣を持っていましたが放り投げました。


「何の真似だ?!」

「貴方達二人は拳で十分なんですよ、剣を使う価値も無い」


 私にとっての事実を言い放つと、グザヴィエは顔を真っ赤にしました。


「何処までコケにするつもりだぁあああ!!」


 グザヴィエは私に斬りかかって来ました。

 私はグローブを拳につけ、剣ごと、グザヴィエを殴りました。


 バキ!! ガギーン!!


 剣が俺、グザヴィエは地面をベッド代わりにするように倒れました。

 私は馬乗りになり、無表情で言いました。


「では、お覚悟を」

「ま、待てまい──」


 最後まで言わせること無く、顔が腫れあがる程ボコッボコに殴りました。

 顔だけが取り柄だったのに、見る影もないとはこのことです。

 やったのは私なんですが。



 残るは一人、睨み付けると、ひっっと悲鳴を上げてから呪文を唱え。


火炎よファイヤーボール!!」


 と、火の玉を私に放って来ました。

 私はそれに突撃し、かき消し、首を掴み、柱に縫い付けます。


「お、お願い、やめ……」

「知りません」


 グザヴィエと同じように、顔を殴りました。

 腫れあがる程に殴ると、私は解放し、その場を後にしました。





 そのとき、私の事を感心した表情で見つめる誰かに、このときの私は気づきませんでした。





「これが事の顛末ですお父様」


「何というか、ちょっとやり過ぎだよ。サンドリーヌ」

 お父様は苦笑いを浮かべました。

「元々浮気をしていたので、今までの鬱憤を晴らすつもりで殴りました、二人とも」

「やれやれ」

「やれやれ、じゃないわよサンドリーヌ! 貴方、お嫁に行けなくなったらどうするの!?」

「そのときは、騎士団にでも入って戦いますよ」

「女の子が魔物や獣と戦うなんて……」

「まぁいいじゃ無いかアドリーヌ。娘であるサンドリーヌは覚悟の上でやったのだから」


 そんな事を話していると、チャイムが鳴りました。


「だ、旦那様、お、狼が書状をもってやってきました」

「狼が、書状? まさか……」

 私は気になり玄関に向かうと銀色の狼が書状を首から下げて居ました。

「とっても宜しい?」

 とたずねると、狼は頷き頭を下げました。

 私は紐と一緒に書状を取りました。

「どなたかしら、お父様?」

「サンドリーヌ、見せてくれ」

 慌てて正装をしたお父様が不思議でしたが、書状を見て顔色を変えました。

「サンドリーヌ、モーリアック公爵がお前と婚約したいと」

「モーリアック公爵様が?」

 有名な御方です。

 先の大戦での英雄、しかしダンピール故影の公爵と呼ばれる御方。

「どうしてでしょう?」

「……お前の決闘を見ていたそうだ、それで興味が湧いたらしい」

「まぁ」

 あの決闘をみて興味が湧くだなんて、面白い方、と思いました。


「……で、サンドリーヌ、どうする」

「承りますわ」

「わかった返事の書状を書いてくる」

 そう言ってお父様は急いで書状を書き、狼に渡しました。

 首から紐に書状を通してかけると、狼は満足そうな顔をして屋敷から立ち去りました。





 そして夜──

「夜分遅くに失礼する、ノヴェール侯爵殿」

「よ、ようこそいらっしゃいましたモーリアック公爵様」

 初めて見たそのお姿は美しいの一言でした。

 白金の髪は長く美しく、白き肌は月夜の寵愛を受けているようで、金色の目は黄金に勝る程綺麗でした。

「モーリアック公爵様、ようこそ」

「サンドリーヌ嬢、貴方の決闘とその前の論破を見たとも、素晴らしかった」

「まぁ……」

「こんな聡明でその上強い貴方には彼はふさわしくないだろう、二対一で、しかも剣を使ってあのざまだ。稽古をしてないんじゃないかね?」

「ええ、その通りです。グザヴィエは稽古が嫌いで逃げていると、彼のお父上から良く愚痴られました」

「ところで、婚約破棄の書類はどうなってる?」

「もう提出しました、モーリアック公爵様の書状が来る前に。こんな『暴力娘』とはお断りだと言われたので、お父様が『根性なし』もお断りだと返したそうです」

「やれやれ、アフレ侯爵も人を見る目が無い」

 モーリアック公爵様は呆れた様に仰いました。

「なら、何の問題もない、私と婚約していただきたい」

「モーリアック公爵様、どうして私を?」

「私は伴侶には隣に並んで立ってもらいたいのです、共に歩んで欲しいのです」

「分かりました、モーリアック公爵様」

 モーリアック公爵様は、共に戦場に立ち戦う女性を好みにしていたようです。

 そんな女性、ほとんど居ませんが。


 私がそれに当てはまったのでしょう。


「これから貴方の事を知りたい、教えて欲しい」

「分かりました、モーリアック公爵様」

「私の事はレオンスと呼んでいただきたい」

「分かりました、レオンス。では私の事もサンドリーヌと」

「分かったとも、サンドリーヌ」



 こうして、私はモーリアック公爵……レオンス様と婚約することになりました。


 私とレオンス様の婚約の噂は一気に広まりました。

 まぁ、レオンス様が広げたんですけども。



「サンドリーヌ!!」

 治癒院で治療を受けて、青あざの状態まで戻った、グザヴィエが現れました。

 予想通りです。

「貴様、何のつもりだ?!」

「何のつもりって、貴方と婚約破棄してから、モーリアック公爵様に婚約して欲しいと言われて婚約しただけよ」

「貴様こそ、モーリアック公爵に──」

「私の婚約者に、何のようかね」

 日陰からレオンス様が現れました。

「レオンス、聞いて下さい。この人私と貴方が自分とアストリ嬢と同じような仲だと思ってるんです」

「私が彼女を見初めたのは貴殿が彼女を糾弾し、決闘しているのを見たからだ。断じて貴殿のような性欲目当ての人間ではない」

「清いお付き合いをさせていただいてますわ。ところでアストリ嬢は?」

「お前の所為でアストリとはご破算だ!! アストリの両親から『娘を守れなかった根性なし』と言われたんだぞ?!」

「事実ではなくて?」

 私ははっきりと言います。


「そうそう、婚約中に浮気したのだから、しっかり請求させていただきますね」

「な、何をだ?!」

「慰謝料ですよ、貴方とアストリ嬢に。決闘でたたきのめしたからいいかなと思ったのですが、レオンスに言われて請求することにしました」

「なっ?!」

「しっかりと払ってね、グザヴィエ」

 私はそう言ってレオンスと共にその場を後にしました。


「レオンス、大丈夫ですか? 今は日中ですよ?」

「だから日陰に今まで居たんだ。それに、そこまで日中が苦手な訳では無いよ。少し辛いが」

「あまり無理をしないで」

「有り難う、サンドリーヌ」

 レオンス様はそう言って私の手の甲にキスをしました。



 夕方、町を歩いていると──

「ずるいずるいずるい!!」

「何ですか」

 今度はアストリ嬢です、こちらも青あざの程度にまで治ってます。

「モーリアック公爵様と婚約なんてずるい!! あの根性なしと交換して⁈」

「それ本気で言ってます?」

 呆れるしかない。

「モーリアック公爵様には、可憐な私のような女性──」

「私は、自分の体を売って、男に取り入るような輩は大嫌いでね」

 最後まで言い切る前にレオンス様が姿を見せました。

 レオンス様は、アストリ嬢を睨み付けます。

 それにひっと悲鳴を上げて腰を抜かす、アストリ嬢。

「レオンス様、行きましょう」

「ああ、ただその前に伝えることがあるのでは」

「あぁ、そうでしたわ。グザヴィエと婚約中に浮気していたから慰謝料はきっちり請求させてもらいますね」

「え?!」

「後、君は他にも浮気相手が居るから皆に伝えたら慰謝料を請求するとのことだ、支払いきれるかどうかが見物だね」

「ちょっと待って!? ねぇ、助けてよ!!」

「何で私が助けなければいけないの? 貴方のお父様とお母様に助けて貰いなさい。最も助けてくれるなら、ね」

 私はそう言ってレオンス様と共に、その場を後にしました。





 夜、レオンス様の屋敷で、狼の姿になったレオンス様のブラッシングをします。

「あの狼が貴方だったなんて、通りでお父様が慌てて正装するわけだわ」

 くすくすと笑いながら言うと、狼の姿のレオンス様も笑っているようでした。

「はい、ブラッシングは終わりました」

 そう言うと、レオンス様は元の姿に戻りました。

「すまない、ブラッシングをして貰って」

「いいえ、私がしたいことでしたから」

 レオンス様は、私の手の甲にキスをして下さいました。

「そう言えば、慰謝料を請求したところはどうなったのでしょう?」

「アフレ侯爵は、慰謝料の額に目を回して息子グザヴィエを追い出して縁切りしたそうだよ」

「あらまぁ」

「ソレイユ伯爵も、同じだね。というかこっちは娘が体を売ってるのにショックを受けて寝込んでいるそうだ。可哀想に」

「可哀想ですわね……」

 両方とも私の事を非難しましたが、こうなってみると哀れでしかありません。


「さて、グザヴィエとアストリに関してだが、盗みを働いて返そうとしたから、二人とも強制収容施設に送られたよ」

「まぁ……」


 予想外というか予想通りと言うか。

 真面目に働いて返すという考えができなかったのでしょうね、貴族の彼らには。


「でも、これで彼らに害されることは無くなった」

「そうですわね」


 私とレオンス様はソファーに腰をかけ、私は葡萄のジュースを、レオンス様は血が入ったグラスを手に取ります。


「レオンス、貴方は私にキスして下さいますけど、口と首筋にはしませんよね」


 レオンス様にたずねると、レオンスはグラスの血を飲み干し、ふぅと息を吐いた。


「キスをして血生臭いと言われたくなくてね、あと、首筋は血を吸いたくなるから」

「……」


 納得できますが、納得できません。

 私はレオンス様の顔を両手で挟んでキスをしました。

 薄紅の唇にキスを。

 血の味はしましたが、気にはなりませんでした。


「その程度の事を気にする女に見えますか?」

「……そうだ、君はそう言う女性だ、参ったよ。君は素敵な女性だ」

 レオンス様は私の手を握り、今度はレオンス様から唇にキスをして下さいました。


「でも首筋だけはしないよ。ダンピールとは言え、吸血鬼の血を引いてるから」

「分かっております」





 そして、半年後私達は結婚しました。

 式は夕方に行われ、見物人達がどっと押し寄せていました。

 その中に、アストリ嬢の母親が居ました。

 銀の短剣を持っており、警備兵に捕まりました。


「お前達の所為でうちの娘は!!」


 と、わめき散らしていたので、そのまま牢屋に入れられることになりました。


 あの娘にして、この母あり、かと思った次第です。


 後でわかった事ですが、アストリ嬢の母親も浮気をしており、ソレイユ伯爵は再度寝込んだそうです。

 それはそうですよね、愛した妻と娘がそんなんじゃ。


 レオンス様は、ソレイユ伯爵に、妻と離縁すれば慰謝料を払わなくても良いし、逆に慰謝料を貰えると情報を与えた結果、ソレイユ伯爵は妻と離縁し慰謝料を請求したそうです。


 母子仲良く強制収容施設で働くことになったそうです。


 それ以外は式は問題なく進行し、大勢の方々に祝福されて式を終えました。





 四年後──


 強制収容施設から出てきてボロボロになったグザヴィエと遭いました。

「さ、サンドリーヌ。ど、どうかおろかだった私を許してくれ……!!」

 懇願するように言われました。

「貴方の事はもうどうでもいいの、私はレオンスの妻だし、子どももいるから」

 そう言って、その場から立ち去りました。

 膝をついて嗚咽をこぼす彼は実に哀れでした。

 が、同情はしません。

 裏切ったのは彼なのですから。


『サンドリーヌ、買い物かね』

「ええ」

『グザヴィエと遭ったようだね』

「ええ、でもどうでもいいことですわ」

『その通りだ』

 棺桶で休んでいるレオンスに私はそう伝えます。

 レオンスは棺桶から出てくるとふぅと息を吐きました。

「ようやくアレットが寝て一息つけたよ」

「あの子は元気ですから」

 私はそう言い子ども部屋に向かう。


 すやすやと寝ている可愛い私達の娘の様子を見ると、私は音を立てずに扉を閉めました。


「よく寝てますわ」

「そうか、では私は仕事に行ってくる」

「私はアレットの様子を見てますわ、まだ子どもですもの」

「そうだな」

「共に戦場に立てる日を楽しみにしています」

「私もだ」

 私とレオンスはそう言って口にキスをします。





 子が成長すれば、私もレオンスの隣に立ち、戦う日が始まります。

 その為に、日々訓練を行っています。

 子育ても訓練も、手を抜かず。

 そんな私をレオンスは評価し、手助けしてくれます。

 だから今、私は幸せです。






 とある国に、夫婦で戦場に立つ戦士二人がいた。

 ダンピールの男の戦士と、人間の女の戦士。

 二人の強さはすさまじく、国を守る上で重要な存在にもなったそうだ。

 その強さは、末永く語られる程に──














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