ヒッキーと太陽
亜未田久志
第1話 春風と共に
わたしだって最初から引きこもりだったわけじゃない。
現代のかぐや姫なんて呼ばれて不本意だった。
そう、わたしは悪目立ちし過ぎた。
入学初日、五人の男子から告白された私はそれを全員断ったのだ。
それ以来、いじめが続いて今に至る。
なんともまあ世知辛い。
私はゲームのデイリーをこなしていると扉をノックする音が聞こえる。
また母さんだろうか。
申し訳なく思いながらも戻ってもらおうとしたその時だった。
「セツナ? セツナだよね?」
ハルカの声がした。
胸の鼓動が一段と高く跳ねる。
ああ、やめて、そんな声でわたしを呼ばないで。
「セツナ、ずっと探してたんだよ? 中学卒業と一緒に黙って引っ越しちゃうなんてさ」
だって、こうなるのが分かっていたから、あなたを遠ざけたのに。
「セツナ? いるんだよね? ねぇ、セツナ」
「……って、かへって!」
久しぶりに出した声、掠れる喉。
「セツナ……ちゃんとご飯食べてる?」
「かんけ、かんけいない!」
「今日さ、お弁当作ってきたんだ、食べる?」
そんなの。
食べたいに決まってる。
今すぐハルカの桃色がかった髪に触れたかった。
ハルカの匂いを嗅ぎたかった。
彼女の感触に触れたかった。
そんな自分が、どうしても気持ち悪く思えてしまう。
いくら社会が発達しても、世の中は不平不和を生み出し続ける。
あの五人の男子もそうだ。
わたしがなびかないと分かった途端に、いじめの主犯に変わった。わたしは人が変わるのが怖い。
ハルカに変わってほしくない。
だから、拒絶する。
「たべないって、ばぁ」
「開けるよ」
無論、鍵がかかっている。
外からは開けられないようにした。
もう此処で死ぬつもりだった。
だけど、あっさりと扉は開いた。
「お弁当、置いとくね」
少しだけ開いた隙間から包みが置かれる。
わたしは思わず。
「まって」
と言いかけて。
やめた。
しばらくして。
包みを手に取った。
そこにはサンドイッチがいくつかと野菜ジュースのパック。
わたしはそれをひと齧りすると。
嗚咽を零した。
「うぅうっうっ、会いたいよ、ハルカ」
でも会えない。会っちゃいけない。
だって会ってしまったら。
きっとあなた変わってしまうから。
そんな想いを胸に秘めて、わたしはそっと眠りに就く。
部屋の真ん中、完食したお弁当の包みをそっと抱いて。
夢を見た。
わたしが荒れた野原の道を歩いている夢だ。
わたしは旅人で。一人だった。
だけど、そっと後ろから暖かな陽が射した。
その感触と共に荒れた道に一凛の花が咲く。
そうか春が来たんだ。
起きた私の目からは一筋の涙が伝っていた。
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