迷宮深部でサーカスを

たし

プロローグ 嵐の前の静けさ

とある世界の片隅の、小さな村の孤児院にて。

今日も子供達の元気な声が響いてくる。

庭を走り回る元気な子。砂場で何かを作っている内気な子。ケンカをせずに皆思い思いのことをして遊んでいる。

その様子を建物から見ていた神父は、嬉しそうに微笑んでいた。


「おーい、じいさーん!」


遠くの方から大声が聞こえてくる。

この村で神父のことを爺さんと呼ぶのは一人だけだ。


「ルイ坊、なんのようじゃ?」


ルイ坊−ルイはこの村一の問題児だ。

「冒険に行くぞー!」と言っては村を飛び出し、夜になっても帰って来ないことが多く、大人たちからは、「手に負えない」と匙を投げられている。


そんなルイがまだ日の高いうちに村に帰ってきて、その上口うるさいと避けている神父に声を掛けてきたのだ。只事ではない。


「見てくれよ、コイツ!」


声を微かに震わせながら、それでいてどこか興奮した声色で、ルイ坊は手に持った籠を見せてきた。


何があったのだろう。

神父は不思議に思い、その籠を覗き込む。


それは、子供だった。


整った顔。白い髪。


その姿はまるで物語の天使のようでいて–彼らにはとても恐ろしく見えた。


神父は、二度、天を仰ぐ。

そして一縷の望みを込めて、軽く、彼女の目を開いた。


–赤い–


もう、間違えようも、誤魔化しようもない。


彼女は、【忌み子】だ。

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