となりのあのこはかわいいにゃんこ

ユリノェ

となりのあのこはかわいいにゃんこ

 私、平子寧々ひらこねねはどこにでもいる普通の中学生。彼氏はナシ。いつか素敵な恋愛ができるのかなぁって人並みに考えたりはするけど、今は特にいいかなって。だって私には愛しのミーちゃんがいるから! ミーちゃんはうちの飼い猫。私が小学生の頃、捨てられていたのを見つけて保護した。心を開いてくれるまで時間はかかったんだけど、その分仲良くなれた時の感動はひとしおだった。

 私はこの子に夢中だから、恋愛なんて二の次なんです。


「おはよう寧々! 知ってる? 今日転校生が来るらしいよ」

「えっそうなの? 全然知らなかった~」

 ある朝、いつものように教室に入ったところで友達から知らされた突然のニュース。転校生かぁ。クールでミステリアス、とか? それとも明るいムードメーカータイプ? 私は勝手にイメージを巡らせていた。ちょっとワクワクしちゃう。いったいどんな子が来るんだろう。

「はーい、皆さん席に着いて」

 先生の声がして、私は慌てて席に座った。

「先生~! 転校生が来るってほんとですかー?」

 お調子者の男子の質問につられてみんなも少しざわざわし始める。

「はい、これから自己紹介をしてもらうところですよ。猫田さん、どうぞー」

 先生が話し終えると、クラス中の視線が入口の方へと向く。扉を開けて入ってきたのは──女の子だ。

 ほんとにクールでミステリアスっぽい! スラッとしてて、背は私よりも高そう。落ち着いた雰囲気の子だ。

「……」

「猫田さん?」

 黒板の前まで歩いてきた後、彼女は固まってしまったみたいだった。

「猫田……るみです。よろしく、お願いします」

 彼女──猫田ねこたるみさんは小さな声で最低限の挨拶をして、ぺこりと頭を下げた。先生の後を追いかけるように生徒たちからもぽつりぽつりと拍手が上がる。

「では、猫田さんの席は平子さんの隣ですね」

 そっか、そういえば私の隣って空いてた。転校生の子と隣になれるなんてちょっと楽しみかも!

「私は平子寧々。よろしくね、猫田さん!」

 隣の空席に座ろうとする猫田さんに、私は早速声をかける。猫田さんは何も言わず、こくりと頷いた。表情もあまり変わらない。見た目通りクールなのかな。もっとお話しできたらいいなぁ。


 1限目が終わった後、クラスの子たちが近くに集まってくる。みんなも猫田さんに興味があるようだった。

「猫田さんってどこから引っ越してきたの?」

「前は何部だったの? 部活ってもう決めてる? 良かったらバスケ部入らない?」

「えっずるーい! バレー部も絶賛募集中だから! 猫田さん、どう?」

「あ……」

 次から次へと浴びせられる質問にたじたじといった様子なのか、猫田さんは口ごもってしまい何も言うことができずにいる。困ってる……かな? 助けてあげた方が良さそうかな?

 彼女が俯いてしまいそうになった時、私は椅子から立ち上がった。

「みんな、いっぺんに質問したら猫田さん困っちゃうよー」

「そっか、ごめんね? 部活興味あったらいつでも声かけてね!」

 この場は落ち着いたみたいで良かった。運動部の子たちはグイグイ来る子も多いけど、悪い人じゃないし話せばわかってくれる。猫田さんは大丈夫かな、私余計なことしちゃったかな? 表情からはその気持ちを読み取ることはできなかった。

 そんなこんなで、あっという間に次の授業開始のチャイムが鳴った。


 その後はさっきのように猫田さんに話しかける人も現れなかった。もしかして、私はやっぱり余計なことをしてしまったのかもしれない。猫田さんが友達を作る機会を奪ってしまったのでは……私の中にじわりと後悔の念が広がり始める。


 午前の授業が終わり、お昼休みの時間がやってきた。ここはチャンス、ご飯の後は学校の案内をしてあげよう! そう意気込んだまでは良かったんだけど……

「あれ? 猫田さん……いない」

 隣の席にいたはずなのに、その姿は消えている。まだお昼休みは始まったばかりなのに、いつのまに?

「寧々どしたの、元気ないじゃん」

「あ、うん……」

 友達からの問いかけに、私は力の抜けた返事をする。

「猫田さんに学校案内してあげたいなぁって思ってたんだけど、タイミング逃しちゃって……」

「んー、なんか猫田さんって取っ付きにくいっていうか……話しかけないでオーラ出てない?」

「ええ?」

 そうなんだろうか。確かにさっきは困ってるようには見えたけど……でも、そんなツンツンした感じとは違うと思う。


 ご飯を済ませた私は、飲み物を買おうと校内を歩いていた。しかしそれは半分口実のようなもので、本当は彼女を探したい気持ちがあった。闇雲に探し回っても会えるかはわからないけれど……

 こんな時は気分転換しようかな。この学校の近辺には野良猫が住み着いていて、よく姿を見せてくれる。猫好きにはたまらない。猫ちゃんたちが現れそうなスポットである校舎裏に足を運んでみる。

「ん? あれは……」

 私の視線の先には黒い野良猫、そして絶妙な距離を取りつつ座り込んでそれをじっと見つめる猫田さんの姿があった。猫、好きなのかな?

「その猫ちゃん、クロって呼ばれてるんだよ」

「……!」

 黒猫は不吉だなんて、絶対ウソ。寧ろラッキーを運んでくれたみたい。彼女を見つけることができた私は嬉しくなって、思わず背後から話しかけてしまった。猫田さんはすごい勢いで振り返り、私の姿を見て目を見開く。その顔は真っ赤になっていて、それを見た私も少しびっくりしていた。

「ニャーン」

「あ、行っちゃったね……私が急に来たからびっくりさせちゃったかな」

 猫田さんは無言のまま首を横に振った。大丈夫、ってことなのだろうか。まだその頬は赤い。こんな表情をするんだ。私は少しドキッとした。なんだか素敵な瞬間を目撃しちゃった気がする。クラスにいる時からは想像もつかなかったけれど、もしかしてクールなんじゃなくて、口下手で恥ずかしがり屋さんなだけ……?

「あの、もし良かったらうちの部活に入ってみない?」

 私の問いかけに、猫田さんは俯いていた顔を少し上げてくれた。

「美術部なんだけどゆるくて、週三日の活動だし顧問の先生もあんまり来ないから気楽だよ~みんな好きなことしてるし」

「……うん」

 彼女は返事と共に首を縦に振った。

「えっ、いいの? 無理にとは言ってないけどだいじょぶ?」

 自分で誘っておいて、その反応が意外だったため私は少し動揺してしまった。しかし嬉しさの方が大きい。もう一度頷いてくれたのを見て、私は思わず頬が緩んだ。

「やったー! すっごく嬉しい! じゃあまずは体験入部から! あっ、あとねあとね」

 私にはもう一つ、彼女に伝えてみたかったことがあった。

「猫、好き? 良かったらうちに来ない? うち猫飼ってるんだ」

「え」

 ぽかんとした顔がこちらを見つめている。しまった、いきなり距離を縮めようとしすぎてしまったかもしれない。猫好きと思って、つい嬉しくなって……

「……って、ごめんね突然! 急に言われても困っちゃうよね。私ったらもう……」

「いいの……?」

 ちらりと見上げてくるその瞳はまっすぐで、表情もどこかキラキラしているように思えた。

「行っても、いいの?」

 控えめながら、さっきよりも何トーンか高くなっているような声からは、彼女の温かな感情が伝わってくるようだ。ちょっとした変化が、愛おしく思えた。

「うん! もちろんだよ!」

 私が力強く答えると、猫田さんの口元も少し弧を描いたように見えた。

「やっぱり猫好きだったんだね~」

 彼女はまた、こくんと頷いていた。



 善は急げ。早速、放課後は猫田さんを我が家に招待することにした。

「お、おじゃま、します……」

 様子を窺うようにこっそりした足取りからは、気を張っていることが見て取れる。

「両親は遅くまで仕事なんだー」

「そ、そっか」

 少し緊張が解れたような顔つきだった。私とだって知り合ったばかりなんだし、家に遊びに行くのもやっぱりドキドキしちゃうかな。猫田さん、かなり恥ずかしがり屋さんみたいだし。でも仲良くなれたらいいなぁ。いや、なりたい! 理由はわからないけど、同じ猫好きだからってこと以外にも、そう思える何かがあった。

「適当に座ってて~、お菓子とか持ってくるね」

 自分の部屋に猫田さんを案内し、私はお菓子と飲み物と、それからミーちゃんを探しに行った。

「おまたせー! もっと楽にしてて良いんだよ?」

 部屋に戻ると正座でピシッと姿勢を正して座っている猫田さんがいた。

「あ、うん……」

 猫田さんは少し足を崩して猫背になりながらも、あまりリラックスはできていなさそうだった。そこでミーちゃんの出番だ!

「それじゃ、ご対面~!」

 私の後ろをついてきていたミーちゃんを抱き上げて、猫田さんの前にそっと座らせる。

「わぁ……!」

 猫田さんはすごく嬉しそうに、目を輝かせている。かわいい──

「……!?」

 びくりと体が震えるのが手に伝わってきて、私は我に返る。思わず猫田さんの頭を撫でてしまっていたことに気づく。

「あっ……ごめん!」

 私はいったい何をしているのだろう、こんなこと、今まで経験が無い。どう言い訳しよう……勝手に体が動いていたんだ、なんてまともに聞いてもらえるわけないよね……

「か、かわいかったから、つい……」

 これも我ながらどうかと思うけど! 正直に白状すると、それしか浮かばなくて……

「……!」

 あ、あの時と同じだ。お昼休み、学校の裏庭でクロを見てた時。──そうだ、あの時も私は猫田さんのことを『かわいい』って思ったんだ。今、目の前にあるどぎまぎした表情も、揺れ動く綺麗な瞳も、赤く染まった頬も、全部たまらないと思ってしまった。

「ご、ごめんなさい……いやだよね、勝手に触ったりして」

 罪悪感に苛まれた私には沈黙がつらくて、謝罪の言葉を重ねる。

「いやじゃ、ないよ」

「え?」

「はずかしいけど、ちょっと、嬉しかった……」

 静かに聞こえてきた予想外の答えに、私は気が動転しそうだった。猫田さんが自分の感情をハッキリ喋ってくれたのは初めてなんじゃないかな? 怒らせたり傷つけたりすることは無かったようでひとまずホッとしたけれど、これはこれでどうしよう!?

「も、もっと撫でてもいい……?」

 猫田さんはただ頷いた。私は何を口走っているのか、そして彼女も何故こんな妙なお願いを受け入れてくれるのか。

 ひと撫で。もうひと撫で。そうするたびに、彼女は目を細めて心地良さそうな顔をした。癖があってふわふわした髪。かわいい、ほんとに猫みたい。なんて思ってしまうのは失礼だろうか……だけど、とびきりかわいいんだもの。

「るみちゃんって、呼んでもいい?」

「うん…………えっ?」

「あ、えっと、また急に距離詰めすぎだよね!? ごめん!」

 どうしよう、自分が自分じゃないみたいに勝手に突き進んでしまう。嫌われちゃったらどうしよう。

「いい、呼んで……あんまり慣れてないけど」

「ほ、ほんと? じゃあ、るみちゃん!」

 私は再び安堵する。名前を呼ばれ、はにかんだような微笑み。それを目にして胸の奥が熱くなるのを感じた。

「ちょっとくすぐったいけど……平子さんになら、呼ばれてもいいかも」

「私のことも名前で呼んでいいよ」

「え」

「あっ、良かったらだけど! 無理しないでね」

 私は慌ててそう付け加える。プレッシャーを与えてしまっただろうか。彼女は口ごもっている。

「ね……寧々ちゃん」

「ありがとう、るみちゃん!」

 思わず頬が緩む。喜びの感情が溢れ出す。誰かと仲良くなれて、こんなに嬉しいなんて。なかなか心を開いてくれなかった猫ちゃんがやっと懐いてくれたみたいな……なんて言ったらさすがに失礼かもしれない。けれど彼女を見ていると放っておけなくて、つい優しくしたくなってしまう。触れたくなってしまう。反応を見たくなってしまう。今まで他人に対して抱いたことのない、不思議な感情だった。

「ニャー」

「ミーちゃんも、るみちゃんと仲良くなりたいみたいだよ」

「ほんと?」

「うん、撫でてあげて」

 身を寄せてきたミーちゃんにそっと触れながら、るみちゃんは幸せそうな顔をしていた。

「かわいいね、ミーちゃん」

「えへへ、そうでしょ~」

 これはまさに、かわいいとかわいいのコラボ……! ずっと眺めていたい。

 ミーちゃんが初対面の人に懐くのも珍しいことだったし、やっぱりるみちゃんは特別なのかもしれないと感じていた。友達になれて、ほんとに嬉しいな。



 私とるみちゃんは、もちろん学校でも話すようになった。それをきっかけに他のクラスメイト達とも少しずつ打ち解け始めている。そして体験入部の後、部活にも入ってくれた。るみちゃんは私よりもずっと絵が上手で、猫の絵をたくさん描いている。いつもそれを楽しみにしている私のために、このあいだはミーちゃんのことも描いてくれた。

 私は毎日、学校に行くことが楽しくなっていた。



 あれから、るみちゃんはよく私の家に遊びに来る。

 今日もいつものように二人でミーちゃんをかわいがったり、色々お話したり、一緒に宿題したりして過ごしていた。それがすっかり日常になりつつある。

「ミーちゃんモフモフだね~……」

 撫でるとふわふわで気持ちいい。苦手な数学の宿題を頑張って片づけた疲れに染み渡るよう……

「ミーちゃん吸わせて~…………ん?」

 顔を埋めたら、いつもの猫吸いの感触と何か違う。ゆっくりと顔を上げてみるが、なんだか頭がぼーっとする。

 うそ、寝落ちしちゃってた! いや、待ってそれよりも私……いま抱きしめてるの、顔を埋めてたの、ミーちゃんじゃ、ない……?

「…………」

「わーーーーっ!?」

 素っ頓狂な私の声に相当驚いたのか、腕の中から抜け出した彼女は飛び跳ねるように後ずさった。

「ご、ごごごごめんなさい! え、うそ、ほんとにごめん!」

 十四年間の人生で沈黙がこれほど気まずかったことは無い。

「いつもミーちゃんにしてたから、クセで……」

 いっそ怒ってほしい……私はなんてことをしちゃったんだろう。友達を、吸ってしまうなど……!

「あの、るみちゃん……?」

「…………」

「だ、大丈夫?」

「……へ、へいき」

 彼女は放心状態みたいだったが、やっと言葉が聞けたことにひとまず胸を撫で下ろす。

「謝らないで、いいよ」

「うぅ……でもごめん」

「びっくりしただけ……嫌じゃないから」

 るみちゃんは珍しく自分からゆっくりと近づいてくる。そして私の顔を覗き込んだ。

「もっと、吸う……?」

「……えっ!?」

 その一言は私にとってあまりに衝撃的だった。るみちゃんが私に抱き着いてきている!? そんなことがあるだろうか。あの恥ずかしがりの子が?

「……飽きた?」

 私がもたもたしていると、るみちゃんは不安げに眉を下げて問う。そんな、子猫のような目で……!

「あ、飽きるものですかー! いいの? ほんとに?」

「ん……」

「そ、それでは遠慮なく」

 抱きしめ返して、首元に顔を埋めさせてもらう。ふわふわの猫っ毛がくすぐったくて心地良い。当然、本物の猫ちゃんとは違うんだけど、良い香りがする……。腕をまわすことで感じられる体の細さにも、愛おしい気持ちが込み上げてくる。

「ふー……」

 このひとときを堪能していると、私の背中に触れていた手の力が強まった。私ばかりが楽しんでしまっていたらどうしようって心配もあったけど、るみちゃんも嬉しく思ってくれてるのかな。

「癒されるぅ……」

「寧々ちゃん、撫でて」

「ん?」

 本当は聞こえていたけれど、思わず聞き返してしまう。すると照れくさそうに、だけど甘えるみたいにるみちゃんは上目遣いで見つめてきた。

「今度は、撫でて」

 ちょっと待って、こんなにかわいいこと、あります?

「も、もういくらでも撫でちゃう!」

 私はにやけてしまうのを抑えきれないのも構わず、彼女の頭を両手で優しく包み込んだ。そしてその心地良い感触を存分に堪能する。

 これって普通なのだろうか。友達同士のスキンシップの域を越えてる? ふとそんなこともよぎったけれど、もし世間がなんとなくで決めるような「普通」じゃなかったとしてどうなるというんだろう。だって、何も悪いことはしていないんだし。私たちはお互いの求めることをしているだけ。好きな子を愛でているだけ。

「……寧々ちゃん、どうかした?」

「えっ?」

「なんか、考え込んでたみたい」

 るみちゃんは鋭いところがある。私の気持ちを敏感に察知して、気遣ってくれているようだ。はぐらかしても、かえって心配させちゃうかな。

「んーとね……私たちって、友達だよね」

 るみちゃんは真面目な顔をして頷く。

「友達って、こういうことするものなのかなって、少し考えちゃったの」

「……」

 表情が寂しげになっていく。ああ、やっぱりこんなこと正直になんて言わなきゃ良かっただろうか。

「……寧々ちゃんは、嫌?」

「えっ、そんなことないよ! ないない!」

「私、ちゃんと友達いたことなくて、だからよくわからない。普通の友達って、どういうものなのか……でも、仲良くなりたいって思ったのは寧々ちゃんが初めてだった」

 一つ一つ丁寧に紡がれる言葉からは、彼女の真摯な気持ちが伝わってきた。

「こんな私のこと、心から気にかけてくれた子、今までいなかったから……」

「こんなって、るみちゃんは優しいし真面目で勉強もできるし絵も上手だしそれにすっごくかわいいし! 良いところいっぱいあるよ!」

「……そう、かな」

 私が勢いよく主張すると、圧倒されたみたいに俯いてしまったけれどちょっと嬉しそうで、また頬が赤らんでいる。クールでミステリアスだとか、私も初めは抱いてしまっていた勝手なイメージ、みんなそのフィルター越しのまま彼女を見ているのだと思う。本当の彼女はただ恥ずかしがり屋で、感情を表現するのがちょっと苦手なだけで、素顔はこんなにも愛らしいのに。

「あぁ~、かわいいなぁ……」

 胸を高鳴らせながら、私は再びるみちゃんを抱きしめて頭を何度も撫でる。

「……ちょっとはずかしい」

「だってかわいいからぁ」

 みんなは知らないんだろうなぁ、るみちゃんはこんなにかわいいのに。このかわいさを知ってもらいたい気持ちもあるけど、でも私だけに甘えてくれるんだって思ったら、それもまたにやけちゃいそう。これって独占欲、ですか?

「ニャー」

「ミーちゃんも撫でてほしい?」

 私がミーちゃんを抱っこすると、るみちゃんがそわしわした様子でこちらに視線を向ける。

「わ、私も一緒に撫でていい?」

「もちろん! 抱っこもしてみる?」

「いいの?」

「うん、るみちゃんにかなり懐いてくれてるし」

 るみちゃんは瞳をキラキラさせて、膝の上に乗ったミーちゃんと向き合っていた。

「ミーちゃん、やっぱりるみちゃんのこと好きみたい。すごく嬉しそう」

「私も、嬉しい……」

 これって、なんて素敵な光景だろう。ミーちゃんをモフモフしているるみちゃん、眼福です。かわいいとかわいいが合わさって、最高じゃないわけがない!


「ミーちゃん寝ちゃったね。るみちゃんの膝が気持ちよかったんだ」

 るみちゃんはにこりと微笑んだ。こういう何気ない笑顔もたまらなく魅力的だと思う。

「寧々ちゃん、ありがとう。私と仲良くなってくれて」

「そんなの、こちらこそだよ」

 改めてそう聞けると、やっぱり嬉しくなる。るみちゃんが転校してきたあの日、声をかけて良かった。お話できて良かった。私の誘いにも応えてもらえて良かった。

「あのね」

 るみちゃんが口元に手を添えて、内緒話するみたいに囁く。私は反射的に顔を近づける。

 耳元にわずかな吐息と、短い音が流れ込む。

「寧々ちゃん」

 私の名前と、それから、

「──すき」

 たった二文字の一言は、私を舞い上がらせた。

「そんなの私もだよー! 先に言われちゃった!」

 照れ屋な子からストレートな愛情表現を向けられて、私はつい浮かれてしまう。するとるみちゃんがはにかみながらも、人差し指を口に当てる仕草を見せる。思わず大きな声を出してしまったことにハッとしたが、ミーちゃんはまだ夢の中にいるようで安心した。

「私も、るみちゃんが大好きだよ」

 今度は静かに、私も耳元に返事をする。柔らかな髪をそっと掻き分けると、覗いたその耳が赤く色づいていた様がわかって胸が熱くなった。くすぐったいよと困ったように笑う姿を、ずっと見ていたいから、何度も触れたいんだ。

 だけどかわいい子にはちょっぴり意地悪もしたくなっちゃう。

「……もう、おしまい?」

「ふふ、嫌って言うまで撫でちゃう!」

 うちのにゃんこが最強最高にかわいいです!

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