第12話 それでも入りたい!
ソルトは宿の裏庭に出ると、排水溝の位置やどれくらいの広さが取れるかをパッと目で確認すると、無限倉庫からバッグを取り出すと中からメモ帳とペンを取り出し、大まかな設計図を書いていく。
「やっぱり、この広さだと男女で分けるのは難しいな。まあ、とりあえずは男女で時間差で入ってもらうようにして、気に入ってもらえたら、別の場所に広めの風呂を作って貰えばいいか。よし、遅くならない内にパパッと作っちゃうか」
『お風呂だけでしたら、建築スキルの応用で出来ると思いますよ』
「え? そんなこと出来るの?」
『はい、少しレベルが上がったので、なるべく細かいところまでイメージしてから建築スキルを使えば……多分、大丈夫だと思います』
「へえ、いいね。うん、やってみようか」
『でも、失敗するかも知れませんよ?』
「失敗したとしても、レベルは上がるんでしょ? なら、俺には損はないよ」
『そうですか。そういう考え方もあるんですね。勉強になります』
「ふふふ、そんなに気にすることないのに。まあ、そこがルーの可愛いところだよね」
『可愛い……ですか?』
「うん、可愛いよ。まあ、声の調子しか俺には分からないけどね」
『可愛い……うふふ』
「なんか変なこと言っちゃったかな? まあいいや、気にせずやってみるか。まずはメモに書いたお風呂をちゃんと隅々までイメージして、脱衣所もいるし、ちゃんと追い焚きも出来る様にボイラー室も必要だけど作りがよく分からないな。う~ん、ねえルー」
『可愛い……うふふ』
「まだ、向こう側にいったままだ」
ソルトがルーに話しかけるもルーはさっきソルトが言った言葉をず~っと反芻している。まるで壊れたテープレコーダーのように。
「お~い、ルー」
『は! マスター申し訳ありません』
「いいけど、そのマスターってのはどうにかならない? なんか呼ばれる度に背中がむず痒くってさ」
『では、どのように呼べばいいのでしょう。ご主人様とかですか?』
「それも大して変わらないよ。そうだな、ソルトでいいよ」
『そんな、マスターを呼び捨てにするなんて、私には出来ません』
「そう言わずに呼び捨てが難しいなら、ソルトさんでどう?」
『まあ、それなら』
「じゃあ、これからはそれでお願いね」
『わかりました。ソルト……さん』
「まあ、おいおい慣れてくれればいいから」
『はい。それでなにかご用事があったのでは?』
「ああ、そうそう。ねえ、魔道具の作り方って分かるかな?」
『魔道具ですか?』
「そう、水とお湯を出せる魔道具を作りたいんだ。どう、出来そう?」
『そうですね、魔道具ではないですけど、魔石に魔法を付与することで、目的の物は出来ると思いますが』
「そうなの? じゃあ、やってみるからお願い」
『付与スキルを取得しました』
「よし、やってみるか」
ソルトは無限倉庫からゴブリンの魔石を取り出すと、その魔石に水魔法を付与してみる。
「じゃあ、やってみるか『水球付与』」
するとゴブリンの魔石から、水球がポンポンと次々に現れると周りが水浸しになる。
「うわわ、止まらないよ。どうすれば止まるんだよ」
『魔石から手を離せば止まりますよ』
「分かった。手を離せばいいんだね。ありがとう」
ソルトが魔石をそっと地面に置くと水球は出なくなった。
ソルトはこれで給湯と給水はどうにかなったことに安堵し、再び風呂の詳細までイメージすることに専念し設計に集中する。
「よし、こんなもんかな『建築(簡易銭湯)』」
ポンと音がすると同時にソルトの目の前に小屋が出現する。
「よし、外観はいいな。これなら上から覗かれることもないだろう」
ソルトは小屋の中に入ると靴を脱ぐための三和土と下足箱が目に入る。
「ふ~ん、ちゃんとイメージ通りに出来るもんだな」
ソルトが三和土で靴を脱ぐと目の前のすりガラスが嵌め込まれた引き戸を横にずらし中に入る。
そこには脱衣籠とそれを載せる棚が用意されていて、その奥にはガラス戸で仕切られた浴場が作られていた。浴場の上には給水タンクと給湯タンクが乗せられていて、ここから浴槽への給湯と各洗い場のカランへと繋がる。
「土魔法でシャワーが作れないのは残念だけど、職人さんがいればなんとかしてくれるかも知れないし。こんなもんだろう。まずはお湯を溜めないとね」
給水タンク、給湯タンクの側までいき、そこにそれぞれに付与した魔石を台座に載せ、手を触れると魔力が吸われていく感じがして、それぞれのタンクが満たされるのを待つ。
給湯タンクは満たされたが、これを浴槽に使ってしまうとタンクが空になってしまう。
「じゃ、こっちは自分でやりますか。『給湯』」
ソルトが自前のスキルで浴槽を満たすとニヤリと思わず顔が綻ぶ。
「早速入らせてもらいますか」
ソルトは脱衣所で着ているものを全て脱ぎ、脱衣籠に入れると浴場へと向かう。
「そういえば、桶がないな。『造形&圧縮』」
ソルトは桶を手に持つとカランからお湯を出し、桶に溜め掛け湯をする。
大事なところもしっかりと洗うと浴槽へと足を入れると、そのまま肩までゆっくりと浸かる。
「ふぁ~いい! やっぱり、一日の終わりはこれだよな~」
ソルトがお湯に浸かりゆっくりしているとなんだか、入口の方が騒がしい。
何事だろうと思ってはいたが、まあいいかと気にせずにゆっくりと浸かっていたが女将がいきなり仕切りを開けて浴場へと入って来る。
「邪魔するよ。ソルトはいるかい?」
「お、女将さん! なんですか急に」
「な、なんだい裸ならそう言ってくれよ」
「お風呂は裸で入るものでしょ。いいから、出ていってもらえますか?」
「まあ、そう言わずにそっちが風呂から出なけりゃいいだけの話だろ。風呂に入るなら石鹸が必要だろうと思って、持ってきてやったんだけどね、いらないみたいだね」
「石鹸、あるんですか?」
「あるよ。ほれ」
女将が手の平に石鹸らしき固形物を載せてこちらに見せる。
「それとタオル」
女将は体を洗うようにと手拭いも用意してくれたようだ。
「ありがとうございます」
「いいよ、それじゃ使いを呼ぶから、そいつらに風呂への入り方とお湯の貯め方を教えてもらえるかい」
「ええ、いいですよ。それくらいなら」
「そうかい、ありがとうよ。じゃあ、頼むね。それから、風呂から出たら私のところに来てもらえるかい?」
「痛くしません?」
「はん、なにを勘違いしているのか知らないが、一応こっちにも好みがあるからね。それにこう見えても亭主もちだ。ご期待に添えず悪いね」
「いえ」
「まあいい。じゃ頼んだよ」
「はい」
女将と入れ替わりに三人のドワーフの若者が入ってくるが、脱衣籠も使わずに脱ぎ散らかして来たので、ソルトは慌てて浴槽から出ると三人の若者に脱ぎ散らかさないようにちゃんと脱衣籠を使うようにと注意する。
一人の若者がソルトの注意に不満を漏らしそうになるが、女将に言われてきたんじゃないのかと注意すると、そこからは大人しくソルトの言うことに対し不満は言わなくなった。
三人にはまず、風呂の楽しみ方を知ってもらおうと掛け湯をしてから、入るようにお願いする。
三人はソルトに言われた通りにカランからお湯を桶に注ぎ掛け湯をすると、浴槽へと向かう。
ここでもソルトから、決して飛び込まないように、片足ずつ入れてから、ゆっくりと肩まで浸かるように、手拭いは浴槽に入れないようにと指導されながら、浴槽に浸かる。
「「「ふぅ~」」」
浴槽に浸かると声が出るのは種族に関係なく共通のようだ。
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