第11話 なんの肉かは考えたくない

 ソルトとレイが受付のお姉さんに食堂のテーブルへと案内される。

「こちらがメニューです。代金の方は心配せずにご遠慮なく、どうぞ」

「「ありがとうございます」」

 ソルトとレイがメニューを開くが読めない。全くと言っていいほど読めない。

「どうなさいました?」

「すみません。こちらの文字が読めなくて」

「あら、それは不便ですね。では、私が簡単に説明しますね」

「お願いします」

 ソルトがメニューの内容を簡単に説明され、あまり重くなく栄養価が高いであろう一品を頼む。

 レイはといえば、元はなにかが不明なステーキを三枚頼んだ。


「では、少々お待ちください」

 受付のお姉さんが注文を受け付けてくれたので、あとは出来上がりを待つだけとなった。


「ねえ、ソルトはこれからどうするつもりなの?」

「どうするって、なにも考えてはいないけど」

「そう、私はどうすればいいのかな?」

「場所は教えただろ?」

「そうね。だから、ここで別れるっていうの?」

「ここには、お前が勝手に付いてきただけだろ? なにも俺が頼んで来てもらった訳じゃないし」

「まだ、そう言うの? ここまで仲良くなったのに?」

「俺は搾取された覚えしかないがな」

「ぐっ……もう、ああいえばこういう。元がおっさんだから若い私にメロメロになるはずだったのに……」

「お前、そんなこと考えていたのか。残念だが俺は熟女好みでな」

「なによそれ!」

「お待たせしました。ステーキをご注文の方は?」

 注文した食事を運んできたウェイトレスがソルトの方をチラッと見るが、ソルトは首を横に振る。

「では……」

 チラリとレイの方を見るウェイトレス。

「はい! それ私の!」

 ウェイトレスがステーキをレイの前に置き、もう一つのシチューを俺の前に置くと「ごゆっくり」と告げて奥へと消える。

「「いただきます」」

「ふふふ、久しぶりのまともな食事だわ」

 レイがナイフとフォークを手に持つと口から涎が溢れるのも気にせずに目の前のステーキにフォークを刺しナイフを入れる。

 切り分けた肉を『パクッ』と口に入れると「ん~」と言いながら足をジタバタさせる。

「埃が立つから、大人しく食べろよ。みっともない」

「なにさ、大人ぶってさ。元はオヤジだったかも知れないけど、今は見た目も私と変わらないんだからね。妙な説教はやめてよね」

「ふん、まあいい。これも今日限りだと思えば、後で懐かしくもなるだろうさ」

「やっぱり、私と別れるつもりなんだ」

「別れるって……人聞きの悪い。別れるもなにもお前との間にはなにもないだろうが」

「一緒にクニから出てきた仲じゃない」

「言い方! 一緒にクニから出てきた訳じゃなく、連れてこられたんだろ。それに俺はどう考えてもあの二人の巻き添えだ。だから、俺は被害者の立場だな」

「まあ、いいわ。そういうことにしておきましょ。今は食事を楽しむ時間なのよ。それも美味しそうね。一口もらえない?」

「絶対にわかってないな。それに欲しいなら、頼めばいい」

「ケチ!」

「ケチで構わない。俺は俺でやっていくから。元気でな」

 ソルトは食事を済ませると席を立ち、受付へ向かう。

「なによ! もう、こうなりゃやけ食いよ。頼めって言うのなら頼むわよ。すみませ~ん、このシチューを二つお願いします」


 ソルトが受付へ向かうとさっきのお姉さんがいた。

「もう、お食事はよろしいのですか?」

「はい、あまり食べすぎると体がびっくりしちゃうので」

「そうですか。で、お連れの方は?」

「まだ、食べ足りないようなので、置いてきました」

「それはまた。では、お部屋の方へご案内しましょう」

「お願いします」

 受付のお姉さんの後ろを付いて歩き二階へ上がる。

「202号室、ここですね。こちらが鍵になります。では、ごゆっくり」

「あ、すみません。お風呂はどこになりますか?」

「お風呂ですか?」

「ええ、お風呂です。あのお湯に浸かってゆっくりする」

「それは説明されなくてもわかります。ですが、ここの宿どころか、この村にはありませんよ?」

「なら、皆さんはどうやって身を清めているんですか?」

「洗い桶にお湯を入れ、そこに浸した布で体を拭いて終わりです」

「そんな……」

「部屋の前でなにしているんだい?」

「女将さん、実は……」

 ソルトが部屋の前でお風呂に付いて聞いていたところに女将さんが割って入ってくる。


「そういうことかい。あんたはそんなにお風呂に入りたいのかい?」

 女将にそう聞かれ、ソルトは無言でコクリと無言で頷く。

「ふう、しょうがないねぇ。ちょっと、部屋に入らせてもらうよ」

 そう言って、女将が部屋に入り窓を開けると下を見ろと言うので、ソルトが窓から顔を出し下を見るとそこには裏庭があった。

「あそこなら、自由にして構わないよ。もし、立派な風呂を作ってくれたのなら、うちで買い取ってもいいし。どうする?」

「それ、本当ですか?」

「あ、ああ。本当さ。なんなら今から作るかい?」

「女将さんさえ、良ければ是非!」

「そ、そうかい。じゃあ、頼むよ」

「じゃあ、行きますね。ありがとうございます」

 ソルトが女将さんに礼を言うと、裏庭へと向かう。


「なんだい、あれは?」

「さあ、でも面白い人ですね」

「お前さんはなにもされなかったのかい?」

「はい、特になにも」

「それも変だね。あんたは私らドワーフと違って、ヒトのオスには受けするものと思っていたんだが」

「ふふふ、お連れの方も可愛い方でしたよ」

「ああ、そういやいたね。でも、あれは兄妹って感じにしか見えなかったけどね」

「それは見方によると思いますよ」

「そうかい? まあ、これでこの宿に風呂が出来るのならゴルドに小遣いやってもいいくらいだよ」

「ええ、私も楽しみです」

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