第3話 奴隷狩りがいなくなった日

「いたぞ。他の奴等に捕られる前に俺達で頂くぞ!」

「「「へいっ!」」」


 守男茂みに潜み何やら不穏な言葉を発する冒険者風の男達の前には国境付近の村にて畑を耕している獣人の家族が目に入る。


「よし、準備はいいな」

「へい。ですが、今回味見の方はどうなりやすか?」

「ふむ。そうだな、数を揃えるのが先だが、俺達にも楽しみがないとダメだよな」

「ですよね~」

「アイツらは見たところ、父親に母親、それに幼い男女の兄妹か……」

「俺、女の子がいい!」

「出たよ。お前は加減を知らないからダメだ」

「え~」

「だから、先ずは母親で慣らしてからにしろ!」

「分かりやした……」


 そんな集団の頭領リーダーらしき男と幼児虐待趣味でも持っているらしい男とのやり取りに回りから「ふひひ」と失笑が漏れるが、これらの会話は近くに潜む『ソウタ二号』により全て農作業をしているパパやママに全て報告されている。


 自分達の家族が狙われ、且つ乱暴すると宣言している連中に対し、パパが平然としていられる訳ではない。だが、同じ様に報告を受けているママから「ダメよ」と抑えられることでなんとか平静を保っている状態だ。なので、パパとしては来るなら早く来やがれと思っているのだが、潜んでいる連中は誰が一番にヤルのかを争っていた。


『なあ、ソウタ。まだ待ってないとダメなのか?』

『うん、もうちょっとだと思うから待ってて』


 ソウタ二号から渡された通信機でソウタ二号にパパがまだなのかと聞くが、まだ時間は掛かりそうだと返される。そしてパパは他の連中も同じやきもきした気持ちでいるのだろうかと心配してみる。


 その頃、同じ様に国境付近の別の場所では……。


「よし、お前ら自分の好みは抑えたな!」

「「「へい!」」」

「よし! じゃあ、いつも通りだ。邪魔な男を殴り倒してから女子供を抑える。そして、男の自由を奪ってから、その後は……」

「「「ぐへへ……」」」

「行け!」

「「「おっしゃぁ~!」」」


 茂みに潜んでいた連中はだらしない口元を気にすることも勢いよく茂みから飛び出すと信じられない光景を目にすることになる。


「やっと来た! 変身チェンジ! ブラックパンサー!」

「待ってたのよ! 変身チェンジ! ピンクパンサー!」

「あ! ズルい! 俺も俺も! 変身チェンジ! ブルーパンサー!」

「私も! 変身チェンジ! プリティパンサー!」

「ちょっと、ムスメ。プリティって何よ! 同じピンクでしょ!」

「いいじゃない! 言った者勝ちだってソウタも言ってたし!」

「もう、その話は後だ。先ずはアイツらを片付けるぞ!」

「「「おお!」」」

「あ、ちょっと待って!」

「なんだムスメよ」

「まだ、私達家族戦隊の名乗りを上げていないの」


 勢いよく出ようとしたところでムスメの一言に「確かに」と家族の動きが決まる。


「よし、じゃあもう一回だ。家族を守り国を守る男! ブラックパンサー!」

「家庭第一、ピンクパンサー!」

「いつかは親父を超える! ブルーパンサー!」

「いつでも可愛いのは私! プリティパンサー!」

「「「四人揃って……家族戦隊……ファミリーレンジャー!」」」


 一人ずつ短く舞うと何やら宣言しポーズを決めると、最後には声を揃えて名乗りを上げた。が、やはり問題があったのだろう。


「ちょっとムスメ。その名乗りはないんじゃないの?」

「え~そうかな~あ、ほら、そんなことよおり早く殺っちゃおう!」

「そうだぞ。オクサン。多分、この後何度もあるはずだから、早く済ませて練習すればいいじゃないか」

「もう、ダンナはムスメに甘いんだから。でも、それもそうね。じゃあ、軽く殺っちゃいましょう」

「「「おぉ!」」」


「「「え? ナニコレ?」」」


 攫って乱暴しようと思って一斉に襲いかかった獣人家族が奴隷狩りの連中の前で妙なポージングと宣言と共に体が光ったかと思えば、なんだか光沢のあるスーツに身を纏い、首元のマフラーが風に揺れていた。


 そして気が付けば、アッという間に捕縛されていた。


 そんな光景はこの国境付近の村のあちこちで見られたが、それが奴隷商に伝わることはなかった。何故かと言えば、その捕縛された奴隷狩りの面々はソウタ二号やソウタ三号などが元奴隷達が暮らす新天地へと連れて行ったからだ。


 新天地に連れて来られた奴隷狩り達は、そこにいた元奴隷達に面通しされる為に一列に並べられていた。


 ソウタ二号は集めた元奴隷達に話しかける。


「はい、いいですか~よく聞いて下さいね。今から、あなた達には面通しをして貰います。その相手は奴隷狩りを専門としていた冒険者達です」

「え?」

「うそ!」

「また、俺達を売るのか!」


 ソウタ二号の言葉に元奴隷達が何をするつもりなのかとソウタ二号を責める様に口々に暴言を吐くが、ソウタ二号は涼しい顔でそれを受け流す。


 やがてソウタ二号は大きく手を『パン!』と鳴らし注意を引きつける。


「はい、よく聞いて下さいね。ですから、見覚えのある顔、ヒドいことをされた相手、もしくは知り合いがやられたとかでもいいです。コイツらに悪意があることをされたのなら、今から渡すコレをソイツの体に刺しちゃって下さい」

「「「え?」」」

「でも、死んじゃうようなところや、目玉とか障害になる場所は出来るだけ避けて下さいね」

「「「えぇ~」」」


 奴隷狩り達の体を刺せと言われて戸惑っていた元奴隷達が、死ぬような所は避けてくれと言われ一斉にブーイングが起きた。


「はいはい、お気持ちはよく分かりますが、それで死なせてしまったら、他の人はどうするんですか? 皆さんは自分だけがよければそれでいいんですか?」

「「「……」」」

「そうですよね。ソイツらには皆さんが同じ様な目に合っていると思います。なので、今は少しだけ我慢して下さい。では、お渡ししますので並んで下さい。受け取ったら順番に刺していって下さいね。あと、足りなくなったらお代わりはいくらでもあるので、ご遠慮なく」

「「「……」」」


 ソウタ三号から二十号までずらりと並ぶと、その手には五センチメートルくらいのリボンが付いた画鋲がいっぱい入った箱を抱えていた。


「はい、扱いには気を付けて下さいね。持つなら、リボンの端を持って。あ、そうです。そんな感じで……はい、どうぞ」


 奴隷狩り達はどことなく見覚えのある特撮ヒーロースーツを着ているソウタ達が配る物が気になっている。そして、さっき聞こえてきた「刺す」が非常に気になる。だが、自分達は両手両足を縛られ、猿轡を噛まされた状態で正座させられ、その背中は地中深くに打ち込まれた杭に縛り付けられ、完全に自由を奪われている。


 そんな状態で元奴隷達は奴隷狩りの顔を一人ずつ覗き込み「これは違う」「これかな?」「でも、違う」と言うのをドキドキしながら聞き、通り過ぎるとホッとしていたが「コイツだ! えい!」といきなり自分の顔を指差したと思ったら、何かが頬を突き刺している感覚

 が後から襲ってくる。


「ガッ……グググ……」


 いきなりの頬の痛みに声を出そうとするが、猿轡を噛まされている為に思うように声が出せない。そして、こんな痛みを与えた奴……元奴隷の顔を見ようとすると、その元奴隷は両拳を握りしめワナワナとしている。


「お前のせいで……お前のせいで……俺の姉ちゃんは……」


 その元奴隷は両頬を涙が伝うのも拭わずにその奴隷狩りの男をジッと見ていた。


「お前がいるのなら、お前の仲間もここにいるんだな。よし!」

「……」


 その男の子は両袖で涙を拭うと次の男の面通しへと向かう。


 奴隷狩りの男はさっきの男の子が自分を仇だというが、今まで幾人もの獣人を奴隷として狩っていた為に誰のことだろうと思うが、また新たな痛みが今度は左胸を刺す。


「アグッ……」

「よかったわ。さっきの子がひょっとしたら殺っちゃうのかもってドキドキしちゃったわよ。久しぶりね……まあ、アンタ達は覚えていないかもしれないけど私は忘れないわよ。ふふふ、アンタにはいくつ刺さるのかしらね。ふふふ、楽しみだわ」


 そう言って去っていく女の顔にも見覚えはなかったが、その女が言った言葉が気になる。


『いくつ刺さるのかしら』


 奴隷狩りの男は思った。今までしてきたことを振り返りながら俺はいくつ刺されてしまうのだろうかと。

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