第3話 突然の交代劇
「きゃぁ~誰です! あなた方は! あ、お父様。助けて下さい!」
「ラニ……お前……」
「なんです? それより早く、コイツらを追い出して下さい」
エルフの王である父に第三王女のラニが抱き着き、想太達を指差して早く追い出せと喚き散らす。
「あ、ああ。分かっ「へぇ~俺達を追い出すの?」……ラニ、ちょっと待ちなさい。まずは落ち着こうか」
「で、誰を追い出せって?」
「そんなの決まっているじゃない! お前は何を言ってるの!」
「ラニ! いいから、お前は黙ってなさい」
想太がラニを挑発するように言うと、想太の狙い通りにラニは喚き、国王が慌てて黙らせる。
「それで国王はどうします? 俺の方はこうやって証明して見せたけど?」
「……」
「国王、どうしました?」
突然、黙り込む国王に宰相が話しかけるが、国王からの返事はない。
「まさか、自分の娘が帰って来たから後は知らない……そういうことなの?」
「国王、そうなのですか?」
「……」
想太の言葉に宰相が国王に問い掛けるが、国王からの返事はない。
「あっそう。こっちは証明して見せたのに無視するんだ。じゃあ、いいや。なら、こっちもなかったことにするだけだし。いいよね?」
「ま、待て! 何をする気だ?」
「なんだ、話せるじゃない」
「いいから、答えろ! 何をするつもりなんだ!」
「答えろ?」
想太の『なかったことにする』と言う言葉に国王は何かを感じ取ったのか焦って想太に命令するが想太が一瞥するとまた、態度が急変する。
「あ……すまない。何をするつもりか話してくれないか。頼む!」
「お父様、どうしたんですか? こんな人種に頭を下げるなんて……正気ですか?」
「ラニ、いいからお前は黙ってろ!」
助けてもらった記憶どころか、奴隷として扱われていた記憶に蓋をされた第三王女が想太に対し、無礼とも言える態度を取り国王は焦ってしまう。
「あ~やっぱり、この親にしてこの子ありってところかな。第三王女を助けたのはたまたまかもしれないけど、親としての礼もなければ、国民を救った俺に対し国王としての礼もない。まあ、俺も礼が欲しかった訳じゃないけどさ。普通ならありがとうくらいは言うよね。だから、ここまでのクズっぷりなら助けるんじゃなかったって思ってもしょうがないよね。まあ、なかったことにするって言っても元の所に戻すだけなんだけどね。どうせなら元の姿に戻した方が苦痛も少ないと思うけどさ、折角治したんだし、このままでもいいよね?」
「「戻す?」」
想太の『戻す』に国王と第三王女が反応する。
「何? 何が問題? そっちにその気がないのなら、元通りにするのは当たり前の話でしょ? どこにおかしいところがあるの?」
「いや……でも……」
「お父様、ハッキリ言ってやって下さい。『出て行け!』といつもの様に!」
「そう言ってるけど、どうするの?」
「……」
ここまで言っても礼も言わないし、決断を迫ると黙り込む国王にいい加減、想太はイラついてしまう。
「また、だんまり。宰相さん、他にマシな跡継ぎはいないの?」
「跡継ぎですか?」
「そう、第三王女っていうくらいだから、少なくとも一、二がいるんでしょ? それと王子がいるのなら、そっちがいいかな?」
「つまりは、王子様達、お子様全員を呼び出せと」
「そう。国王が自分の娘が無事ならそれでいいって考えなら、もう国王じゃなく普通の親ってことでしょ。なら、次の国王になる人と話した方がいいじゃない。ね? そう思わない?」
「それはそうですが……」
「分かった。宰相さんでも判断出来ないのなら、もうこの話は終わり。そこの王女には元の場所に戻ってもらうし、他の人達に対しては、俺からは何もしない。それでいいんだよね?」
「ま、待って下さい! それでは私の……」
「何? 文句なら、さっきからそこで黙りこくっているおじさんに言ってよ。おじさんも別れの挨拶はもう済んだの? なら、元の場所に戻すから」
「待て! 待ってくれ! 頼むから、この通りだ」
エルフの国王が想太の前で土下座する。
「お父様……何故、この人族にそこまでするんですか! 宰相、お前もお前です。何故、早く追い出さないんですか!」
「俺に土下座なんかしても無意味だよ。頭下げたからって、何が変わるの? そんなことするくらいなら、先に一言『ありがとう』って言えばよかったのにね」
『ソウタ、この際、王子王女を呼び出してもらいましょう。ちょっと面白いことが分かりましたので』
『分かった。でも、少しだけだよ。もう、コイツらの相手するのもイヤになってきたよ』
『まあまあ、そんなこと言わずに』
想太はアツシからの提案に頷き、宰相には残りの子供達を呼び出すように指示する。
「分かりました。少々お待ちを」
宰相が部屋から出ると部屋の前で控えていたメイド達に王子王女を呼び出すように伝え、部屋の中へ戻る。
『それでアツシ、面白いことって?』
『あ~じゃあ、他のが揃うまでの場繋ぎに話しますね。実は……』
『へ~いいね。ソレ!』
アツシから聞いたことを確かめるために想太は第三王女に質問する。
「ねえ、そこの第三王女。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「無礼な! 私を第三王女と知っていながら、その態度はなんですか!」
「ラニ! いいから、あの方の質問に答えなさい!」
「お父様……ふん、いいわ。答えてあげるから、いいなさい!」
「そう。じゃあ、聞くね。アンタは誰に国境の近くまで行くように言われたの?」
「アンタって……いいわ。でも、変なことを聞くのね。でも、少し違うわね。私は国境まで行けとは言われていないわ。ただ、『国境のキハシ村に珍しい花が咲いている』って教えてもらったから、行ったのよ。誰にも命令はされていないわ! ふん!」
「で、それは誰がアンタに話してくれたの?」
「誰って、それはセリお姉様よ。どう、これで文句はないでしょ!」
「ああ、俺はね……」
想太はアツシが言っていた面白い内容を確かめる為に第三王女に質問し、第三王女はそれに見事に答えてくれた。だが、それを聞いた国王と宰相の顔色はサ~っと青くなる。
「どうしたの? お父様」
「ラニ! その話は本当か?」
「え? ああ、さっき話したのは全部本当よ。それがどうかしたの?」
「宰相、用事って何?」
第三王女が何が本当なのかと不思議勝手いると部屋の扉が開かれ、残りの王子王女が揃って部屋に入ってきた。
そして、第一王女らしい女がラニを見て、驚愕し呟く。
「ラニ……なんでここに? あなたは確かに……」
「あ、セリお姉様。聞いて下さいよ。私がセリお姉様に教えてもらった国境のキハシ村に行ったって話したら、お父様も宰相も変な顔をするのよ。どう思います? あれ? 私なんで、キハシ村に行ったの? そうよ、確かにキハシ村には行ったわ。でも、城に帰った……あれ? どうして、どうして、お姉様……」
「ヤバいな。戻すとは言っても、ここで戻られちゃマズいな。『強制睡眠』。ふぅ~やばかったな」
第三王女が記憶の底から拉致された時のことを思い出したせいで、塞いだハズの記憶の蓋が少しずれてしまったようで他の記憶も呼び出され混乱してしまった様子を見て、想太は慌てて第三王女を眠らせる。
そして、第三王女が語った内容と第一王女の呟きを拾った国王は宰相に衛兵を呼ばせ、第一王女を拘束する。
「お父様、これはなんの真似ですか!」
「黙れ! 話は聞かせてもらった。ラニからの話もそうだが、お前もさっき『なんでここに』『確かに』と言ったな? どういうことかはこれから、詳しく話してもらう。話の内容次第ではラニがこれまで味わった苦痛をお前に体験してもらうことになるからな。覚悟しておけ!」
「そんな、お父様! 嘘です。そんなの全部、ラニの嘘です。私は何もしておりません! 信じて下さい!」
「言うな! 頼むから、これ以上、お前のことを嫌いにさせないでくれ。頼む……」
部屋の中から第一王女が連れ出させられると、その場面を黙って見ていた他の面々が口を開く。
「父上、これはどういうことですか? それに攫われたハズのラニがどうしてここに? それにその面妖な格好の者はどういうことです? そして、獣人が何故ここに?」
「すまんな。少し落ち着かせてくれ。宰相、スマンが説明を頼む」
「分かりました。では、私から今日起こったことを説明させて頂きます。まずは……」
宰相が王子達に話し終わると、一人の王子が想太と朝香に近付くと頭のてっぺんからつま先までジロジロと観察する。
そして、その様子を国王と宰相は想太達が怒りはしないかとハラハラとした様子で見守っている。
「もう、満足した黒幕のお兄さん」
「「黒幕だと!」」
「な、何をいきなり言うんだ。僕はこの国の第二王子だぞ。それを捕まえて黒幕だなんて、無礼な! 父上、この無礼な者を早く部屋から追い出して下さい」
「宰相……」
国王が宰相に向かい呟くと宰相も分かっていますと頷き、部屋の外に控えている衛兵を連れて来ると喚く第二王子を両脇から拘束する。
「お、おい! なんのつもりだ。俺は第二王子だぞ。捕まえるのなら、アイツらだろ。何を間違っているんだ。今なら許してやるから、早く離すんだ!」
第二王子が喚いているが衛兵はその手を緩めることはない。
「すまないが、その第二王子ヤンを黒幕と言った意味を話してくれないか?」
「へぇ~俺の言うことを信じるんだ」
「ああ。悔しいが、お……貴君の言うことは間違いがないと言うことは十分に分かった。だから、教えてくれないか」
「教えるのはいいけどさ、さっき言った『元に戻す』ってのはあんた達の態度が変わらない限り実行するからね。そこは勘違いしないでよ。俺にはこの国がどうなろうと関係はないんだからさ」
「……」
「どうしたの? 返事がないなら、実行するだけだよ」
「国王! いい加減にして下さい! あなたのわがままでこの国を滅ぼすつもりですか!」
「しかし、宰相よ。そうは言うが……」
「国王、あなたが国民より第三王女を選んだ時点で国王としての資格は失ったのです。これからは、ここにいる第一王子スイ様に国王として決断してもらいます。いいですね?」
「……」
「返事!」
「は、はい。国王は第一王子スイに継承します」
「それでいいです。正式な戴冠は後日ですが、スイ様。まずはこの方の話を聞いて下さい」
「分かった。すまないが、名を聞いていないのでなんと呼べばいいのか分からないが、貴君が第二王子を黒幕と言った意味を教えてくれないか」
「ふ~ん、なんか話せそうな王様になったね。いいよ、じゃあ話すよ。話はごく簡単で国王に可愛がられている第三王女が目障りな第一王女が相談したのが、そこの第二王子で。第二王子も第一王女の弱みも握られるし、自分が国王になるための手足として使おうとしていたってだけだよ。最近、第一王女から、何か贈り物とかされなかった?」
「「あ!」」
前国王も現国王も思い当たることがあったようで「まさか」という顔になる。
そして、第二王子は観念した顔になり、そのまま全身の力が抜け、両脇の衛兵に抱えられる形のまま、部屋から出される。
「じゃあ、そろそろ元に戻ろうか?」
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