第11話 実は厄年なんです

「はい! 着きましたよ、おじいちゃん」

「着いたって……ここは?」

「シャムニ王国との国境の近くかな」

「……」

 王様(仮)の問いに答えたのに王様(仮)からの反応がないもんだから、想太は少し心配になり王様(仮)に確認する。

「おじいちゃん? どうしたの?」

「ワシは王城の地下牢にいたんだよな?」

「うん、そうだよ。大丈夫?」

「で、ここは国境の近くと言うたか?」

「そうだよ。さっき言ったばかりなのにもう忘れたの?」

「はぁ?」

 王城の地下牢から、どう見てもどこかの山林に連れて来られて自分の感情の整理が付かない王様(仮)が戸惑っていると、想太からボケ老人扱いされ、ちょっとイラついているとことに朝香が想太を見付けて近寄ってくる。そして、想太が見たことない老人と一緒にいるのを認める。

「あ、想太。戻って来たんだ。それで、そのおじいちゃんはどこで拾って来たの? ちゃんと元の場所に戻して来ないとダメだよ?」

「そこの小娘! ワシは拾われて来た訳じゃない!」

「え? じゃあ、家族に黙って着いて来ちゃったの? ダメじゃないの。早くご家族に連絡してあげないと!」

「いや、朝香。この人を家族の元に戻すことは出来ないんだよ」

 いつの間にか、特撮ヒーロースーツから普段着に着替えた想太が朝香に言う。

「出来ないってどういうこと?」

「まあ、それをこれから聞こうと思うんだけど、まずは身なりをどうにかしないとね。このままじゃ、どう見ても『小汚いじいさん』だもんね」

「随分な物言いだが……まあ、悔しいがその通りだな」

「そういうことだから。パパさん達、お風呂に入れてあげてね。服も用意してあげて」

「俺達が……か?」

「そうだよ。だって、パパさん達の王様(仮)なんだから当然でしょ。じゃ、お風呂から上がったら教えてね。朝香、お昼にしよう」

「は~い」

 想太はその場に王様(仮)とパパ達を残し、さっさと家に入る。

「パパとやら、風呂があるのなら、案内を頼む」

「分かりました。ご案内しますので、こちらへ」

「うむ。よろしくな」


 朝香は家に入って昼食の準備をしていた想太の隣に立ち、想太の手伝いをしながら、さっきのおじいさんのことを想太に確認する。

「ねえ、想太はさっきさ。あのおじいさんを『王様(仮)』って呼んでた?」

「うん、そう。多分、あのおじいさんが本物の王様だと思うよ。でも今は他に王様がいるから、確認出来るまでは『(仮)』が付くけどね」

「そう。でも、どうして本物だと思うの?」

「やっぱり、不思議に思うよね」

「うん、思う。だって、あんな格好だし、見た感じ段ボールに住んでそうだし」

 朝香の正直な感想に想太も納得だけど、「アツシがね」と前置きして話し出す。

「アツシに『王様のいる場所を教えて』ってお願いしたら、地下牢に連れて行かれたんだよ」

「アツシが言うのなら、信憑性はあるよね」

「そういうこと。だから、今の王様との話を聞かないことにはどうしようもないんだけどね」

「ふ~んそうなんだ。なんだか面倒だね」

「そう言わないでよ。俺も思ってるんだからさ。はい、出来たよ。お皿並べて」

「は~い」


 想太達が昼食を済ませ、二人でお茶を飲みのんびりしていたところに玄関チャイムが鳴る。

「は~い。誰だろ?」

「リリ達かもね」

「いや、まだリリの手は届かないよ」

「それもそうか」

 のんびりとした様子で玄関に向かうと、そこには少しだけサッパリした感じの王様(仮)とパパ達が立っていた。

「もう終わったの。もう少しゆっくりしてもよかったのに」

「いや、俺達もそう言ったんだが……」

「メシだ! とにかく何か食べさせてくれ! 腹が減って敵わん」

「そういうことだから、後はよろしく!」

 パパ達はそう言うと王様(仮)を玄関に置き去りにして去って行く。

「あ、ちょっと……もう、行っちゃったよ。向こうで食べさせてくれればいいのに……ああ、もう土足で上がらないでよ。ちゃんと靴は脱いでね、おじいちゃん」

「ワシを年寄り扱いするな!」

「え? どう見てもお年寄りなのに?」

「ワシはコレでも四十前半だ!」

「「ええ! 嘘!」」

「嘘じゃない!」

 王様(仮)の発言に驚くが、想太が『鑑定』を使うと確かにそこには『四十二歳』と記述があった。

「確かに四十二歳だった」

「だろ? ワシは嘘はついておらん! ン? 待て! 何故、ワシの歳が分かった?」

 想太の言った『四十二歳』という言葉に王様(仮)が疑問を持つ。

「なんでって、『鑑定』で見たからだよ」

「お前は『鑑定』スキルを持っているのか! なら、ワシの職業はなんになっている! 教えてくれ!」

「えっと、今は『罪人』ってあるけど……」

「やはりか……」

 王様(仮)に『鑑定』スキルを持っていることを話した想太が王様(仮)の職業欄に記載されている職業を王様(仮)に伝えると、それを想像していたのか王様(仮)が項垂れる。想太は王様(仮)をソファに座らせると、朝香に食事の用意を頼み、想太もソファへと座る。

 そして、王様(仮)にまだ記載されている内容があると告げ、その記載内容を王様(仮)に伝える。

「でも、その職業欄に補足説明みたいに『ガルディア国国王』ってのもあるね」

「本当か! それは本当なんだな!」

「え、ええ。ありますよ」

 想太は王様(仮)に強い調子で問われ思わず敬語で答える。

「よし! これでまだ望みはある!」

 王様(仮)は想太から聞いたことに対し、想太に何度も確認すると拳を強く握りしめ、何かを決意する。


「は~い。おじいちゃん、お待たせ。熱いからね、ゆっくり食べてね」

「だから、おじいちゃんと呼ぶなと……」

 王様(仮)は朝香に文句を言いながら、前に出された昼食に釘付けになる。

「これ、ワシが食べていいのか?」

「どうぞ。作ったのは想太だけどね」

「そうか。有り難くいただく。では……うまい!」

 想太達に軽く礼を言ってから、まずはフォークで皿の上のチンジャオロースを掬って口に入れるなり、王様(仮)の口からは『うまい!』が連呼される。

「これは、食事が終わるまで、話せそうにないね」

「そうね。ご飯足りるかな」

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