第7話 お願いが一つだけとは限らない
「想太、ここにいるの? 使い方は教えてきたわよ……って、何してるの!」
スーに厨房のあれこれを教えていると、朝香が戻ってくるなり大声で騒ぐ。
「お疲れ様、朝香」
「ありがとう。って、そうじゃないでしょ! 何いちゃついているのよ! 誰なの?」
「ああ、この子はスー。今はガスコンロの使い方とか教えながら食事の準備をしているところなんだ」
「スーです。よろしくね」
スーが朝香に手を振って挨拶する。
「ああ、そうなんだ……って、ならないからね。ほら、くっ付きすぎだから、離れて離れて!」
「朝香、火を使っている時に危ないから」
「想太ぁ……」
「スーも使い方はもう分かったでしょ。じゃ、後は朝香にお願いするね」
「うん、分かった。ありがとうね、ソウタ」
想太は朝香にこの場を任せて厨房から出ると、その後ろで「想太はダメだからね!」と朝香の声が聞こえてきたけど、聞かなかったことにする。
「えっと、パパさんはまだいるのかな。っと、その前に着替えとかないと」
想太はまだ自分が特撮ヒーローの格好をしていることに気付き、急に恥ずかしくなる。
「えっと、着替えはさっき朝香にもらったヤツでいいか。じゃ、『
一瞬で朝香が作った衣装に変更されたのを確認した想太はパパを探しに向かう。
「あ、まだアソコにいた。パパさん、ちょっといいかな?」
「ソウタ……で、よかったよな」
「そうだよ、ソウタ兄ちゃんだよ」
「ソウタ兄ちゃん、ありがとうね」
「……」
想太がパパを見ると、まだ少し不安定な様子のママがパパに片手を握られて恥ずかしそうにしている。子供達はそれぞれの膝の上に座っていた。
「えっと、少し話があるんだけど、いいかな?」
「話? それは明日じゃダメかな」
「ダメじゃないけど、出来れば明日は早い内から動きたいから、今の内に決めてしまいたいんだけど」
「そうか」
「あと、出来ればパパさんだけじゃなく、他にも二,三人の人に話を聞いて欲しいんだけど」
「分かった。いいだろう。ちょっと、集めてくるから待っててくれ」
「お願いね。じゃあ、俺はアソコに見える家で待っているんで」
パパは頷くと握っていたママの手をそっと離し、ロロの手を握らせる。
「あなた……」
「大丈夫だ。少し離れるだけだから、ね。そんなに不安そうにしていると子供達も不安になるから」
「でも……」
「大丈夫。今だってソウタのお陰でこうやって家族が揃っていられるんだし」
「だけど……」
「ママ、もういいでしょ。ロロ、しっかり握っていてね。じゃ」
「あ……」
パパと、パパに縋るママを見ていた想太は少しだけママに不安を感じるが、助けられたばかりだろうと思い、リリ達に家に入るかと確認するとママを一瞥してからコクリと二人とも頷くので、ママも連れて一緒に家に入る。
「さ、ママさんもどうぞ。靴は脱いで下さいね」
「はい……」
「ほら、お母さん。こうだよ」
リリが明るく笑いながらママの手を引き、玄関に上がるとリビングへと案内する。
想太は親子の邪魔しちゃ悪いかなと台所の椅子に座っていると、ロロが袖を引っ張り想太に何かをおねだりするように上目遣いで言う。
「ねえ、アレをお母さんに食べさせてあげたいの!」
「アレ?」
「ほら、あのプルプルした黄色いの!」
「あ~プリンね。分かった。ちょっと待って」
冷蔵庫の中にないのは分かっているので想太は魔力を使ってプリンを三皿創造するとトレイに載せてロロに渡す。
「ありがとう、ソウタ兄ちゃん」
ロロの頭をくしゃくしゃと撫でながら、お母さんのところに持って行くように言う。
台所からはソファに座っている背中しか見えないが、リリとロロが説明しながらママに食べてもらっている様子が窺える。
「これで多少は元気を取り戻してもらえればいいけどな……」
しばらくして、玄関扉が開かれ声を掛けられる。
「ソウタ! 連れて来たぞ。どうすればいい?」
「あ、来たみたい。リリ、ロロ、その場所を使いたいから二階に上がって。ママさんも一緒にね」
「「分かった!」」
リリとロロがママの手を引いて、階段を上がって行くのを確認してから想太は玄関のパパのところへと向かう。
「ぱぱさん、ありがとうね。上がって。あ、靴は脱いでね」
「ちっ、面倒なことをさせるんだな…イテッ」
「ソウタは俺達を助けてくれた恩人だぞ。そんなことぐらいで愚痴るな!」
「すみません……」
文句を言ったのはパパが連れて来た三人の内、一番若者のようだ。それを見て想太は「大丈夫かな? 暴走しないよね」と願いつつ玄関に上げ、リビングへと案内する。
「とりあえず座って」
「ああ、すまない」
パパが皆を適当に座らせ、想太が話をする前に飲み物を出そうとすると「話が先だ」とさっきの若者が怒鳴り、パパに小突かれる。
「すまんが、話を先にしてくれ。ソウタからの話がなんなのか気になってしょうがないんだ」
「そんなに気になること?」
「ソウタよ。アソコにいた敵の全員を無力化し、ここまで俺達を漏らすことなく全員連れて来た。それだけのことをたった一人で出来る奴に話があると言われれば、何を差し出せと要求されるのか、何かしただろうかと不安にもなるだろう。分かってくれ」
「そっか。それは悪いことをしたね。ごめんなさい。でもね、あの場では話せなかったことだから」
「分かってくれたのなら、それでいいがソウタからの話は、我々に対する要求ではないのだな?」
「何か寄越せって言われても何もないぞ」
そう言った若者がまたパパに小突かれる。
「俺からの話は要求と言うか、お願いだね」
「「「「お願い?」」」」
「そう。『お願い』だよ。あのね、その内容は今から話すけど怒らずに聞いて欲しいんだ。いいかな?」
パパ達は互いに顔を見合わせ「しょうがない」と誰かが呟くと「そうだな」と皆が頷く。
「分かった。ソウタの願いを聞かせてくれ」
想太は皆が話を聞いてくれる体勢になったところで、話を切り出す。
「俺の願いはね……」
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