第3話 変身!
「もう、いいでしょ。大人気ないよ、想太」
「納得出来ない! なんで朝香が『お姉さん』で俺が『兄ちゃん』なんだよ」
「想太が幼く見えたんじゃないの?」
「朝香が言わせたくせに!」
「あ、そうだったわね。もう、いいじゃないの」
「……分かったよ。でも、そうだね、朝香がお姉さんだったね。思い出したけど、朝香が一月くらい誕生日が早かったね。ね、朝香お姉さん」
「ちょっと、何よ。随分、根に持つのね。もう、いいじゃないの。ちょっとした悪ふざけでしょ」
「はいはい。じゃあ、リリとロロはこっちにおいで。はい、ここに座ってね」
朝香と想太のやり取りに少しビクついていた二人を想太がテーブルに着かせると、その前に器に盛られたプリンとスプーンを置いてから、食べていいよと勧める。
「「……」」
二人はスプーンを持つと器をジッと見詰め、おいしそうな匂いをさせるプルプルと震える謎の物体を恐る恐るスプーンで掬って口の中へ放り込んだ二人は顔を見合わせると一気に器を空にする。
「「おいしかった~」」
「喜んでもらえてよかったよ。ほら、口を拭こうね」
箱ティッシから数枚ティッシュを取り出すと、リリとロロの口を拭いてやると、後ろから刺さるような視線を感じた想太が、ゆっくり後ろを振り向くと今にも泣きそうな朝香が「ごめんなさい、ごめんなさい……」と連呼していた。
そんな朝香を見て、やり過ぎたかなと思った想太は朝香に「おいで」と声を掛ける。
「いいの? もう怒ってない?」
「ごめん。揶揄いすぎたね。いいから、こっちで一緒に食べよ」
「うん!」
朝香を座らせるとプリンを冷蔵庫から取り出し、朝香の前に出すと嬉しそうに食べ出す。
そんな朝香を見ていた二人もまた欲しくなったのか口からタラ~ッと零れる。
「じゃあ、リリ達はこれね。はい」
冷凍庫から取り出したカップアイスを三人の前に並べる。朝香は直ぐに蓋を開けスプーンで掬うと「ん~」と手足をジタバタさせる。リリ達もその様子を見て蓋を取り、スプーンで掬って口に入れると朝香と同じ様に「「ん~」」と手足をジタバタさせる。
三人が食べ終わるのを待って、想太が切り出す。
「二人の親はどうしたの?」
「「……」」
「どうしたの? 話しづらいなら無理には聞かないけど」
「……たの」
「なに?」
「お父さん達は捕まったの」
「お母さんは僕たちと一緒に逃げたけど、捕まったの」
「捕まったって……誰に?」
「ヒトに捕まったの」
「兵隊だった」
「ヒトってことは、隣の国かな」
『はい。シャムニ王国の奴隷狩りにあったんでしょう』
リリ達の話からリリ達の親はシャムニ王国の奴隷狩りに遭ったと推測される。アツシの話だとあの王国が勇者を召喚したと聞いたシャムニ王国が戦力増強の為に獣王国との国境を越え、獣人を対象にした奴隷狩りを行っているのだと言う。
「まだ、捕まった人達は輸送されていないのかな。まだ助けられる余地はある?」
『ちょっと待って下さい。はい、地図を見て下さい。ここが、ソウタ達のいる場所で、数キロメートル離れたこの位置が、捕まっている獣人達が集められている場所になります』
「想太、行こう!」
「朝香、落ち着いて。ほら、リリ達もビックリしているから」
「でも、急がないと、何されるか分からないでしょ!」
「だから、落ち着けって。戦力として集められているんだから、そんなに大怪我させれることはないと思うよ。それにどうせ奇襲を掛けるんなら暗くなってからだから」
「じゃあ、行くのね?」
「行くよ。俺一人でだけど」
「なんで? なんで想太一人で行くのよ! 私も行きたい!」
「朝香まで行ったら誰がリリ達の面倒を見るの?」
「……ズルい! なんでそんなことを言うの! そんなことを言われたら行けないじゃない!」
「分かったのなら、落ち着いて。多分、連れて来た人達は多少の怪我はしているだろうから、朝香には頑張ってもらうから」
「それもそうね。じゃあ、暗くなってから想太は行くのね」
「うん」
「分かった。もう、何も言わない。でも、想太の格好は変えといたほうがいいと思う」
「なんで?」
「だって、黒髪に黒目って召喚勇者だって分かるでしょ。折角二人で逃げて来たのにバレたら捕まっちゃうじゃない」
「でも、暗闇だからバレないんじゃないの?」
「ダメ! そういう余裕が一番危ないの! だから、変えるスキルを作って」
「だってさ、アツシ」
『闇魔法に『変質』があります。これを使えば髪色、瞳の色、肌の色を変えられます』
「へ~じゃあ、やってみよう。まずは肌を『褐色』」
想太が唱えると想太の肌の色が健康的な小麦色に変わる。朝香がソレを見て、「私も!」と朝香も肌を褐色に変える。
「じゃあ、次は髪の毛を『金髪』に」
「私も!」
二人の髪が一瞬で金髪に変わる。
「次は瞳の色でしょ? どうする? 私は緑色にしようかな。想太は金色ね」
「え? イヤだよ。そんな目立つのは」
「え~いいじゃない。じゃあさ、一回だけでいいから。ね? いいでしょ」
こうなると朝香はしつこいと言うのが分かっている想太は「じゃあ、一度だけね」と言ってから瞳の色を金色へと変える。
それを見た朝香は「きゃ~」と叫び、その場で跳びはねる。
「じゃあ、いいな。もう変えるぞ」
「ダメ! そのままにしといて。ね、ほらリリとロロからもお願いして!」
「「ソウタ兄ちゃん、格好いい!」」
「え? 格好いい?」
「「うん」」
朝香に言われてもそれほどまでもなかったけど、リリとロロに「格好いい!」と言われて、満更でもない感じになり頭を掻きながら「格好いいって」と朝香に言う。
「私が言っても、気にしなかったのに……」
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