第8話 聖女は行方不明です
想太達がアツシからの説明を受けている頃、メイドが朝香の部屋の扉を『コンコンコン』とノックする。
「聖女様、お食事の用意が整いました。お部屋の中に運び入れてもよろしいでしょうか?」
メイドが部屋の中の朝香に話しかけるが扉の向こうからは返事がない。
「おかしいですね? まさか、寝ているのでしょうか?」
「どうしましたか?」
「あの、聖女様が、お部屋にいるはずなんですが、その部屋の中の聖女様の様子が……」
衛士に話しかけられたメイドが聖女である朝香の返事がないことを話す。
「ふむ、では聖女様に何か変わったことは?」
「あ、そう言えば……あの少年が死んだことを話してから少し様子が変でした。執拗に、その少年に何をしたのかと聞かれました」
「そうか。それで、私達が手に掛けたことは話したのか?」
「いえ、ただ少年が暴れたので、それを抑えるために脅しの意味で火球を放ったとは言いました」
「ならば、聖女は私達のしたいことは分からないままだな」
「そうだと思います」
「そうか。では少し乱暴だが、しょうがない。少し下がっていてくれ」
「分かりました」
衛士がメイドを部屋の扉の前から下がってもらい、少しだけ腰を落とし身構える。
「聖女様、ご免……」
衛士が部屋の中にいるはずの聖女に一言謝ると共に前蹴りを部屋の扉にたたき込む。
『バキッ』と部屋の扉が中央付近でくの字に曲がり、部屋の中に吹き飛んでいく。
「怪我人がいないか確認してくれ」
「「「ハッ!」」」
「すまないが、君も中に入って聖女様の安否を確認して欲しい」
「分かりました。聖女様~ご無事ですか~」
複数の衛士とメイドが部屋の中をくまなく探すがどこにも朝香の姿を認めることが出来ない。
「嘘、いない。そんなはずは……」
「いません!」
「こちらにもいません!」
「浴室やトイレも確認しましたがいませんでした」
メイドに部下の衛士達の報告を聞き、衛士が頷く。
「本当に探したのか?」
「はい。念の為にと天井裏も確認しましたが、いませんでした」
「そうか。分かった。ここはいい。任務に戻って下さい」
「ハッ。了解しました」
「済まないが、この部屋はこのままの状態にしといてもらえないか。一応、調査したいのでな」
「分かりました」
メイドも部屋から出ると、衛士は部屋の中へと入っていく。
「争った様子はないか。ならば、気付かないうちに誰かに連れ去られたか? いや、外の廊下には見張りの衛士もいるし、メイド達も歩き回っている。では、窓からか?」
衛士が窓の側に寄って確認するが、特にこれといって変わった痕跡は見受けられない。
「ならば魔法か? いや、それは考えにくい。城の内外からの転移魔法は結界によって制限される筈だ。おかしい……何かがおかしい。一体、何が起きている?」
朝香がいなくなったことは委員長と龍壱にも伝えられた。そして、それを伝えられた委員長が激高する。
「朝香がいなくなっただと? なぜだ? 警護はついていたんだろ?」
「はい、警護の者は確かに控えていました。しかし、扉や窓から侵入した形跡はありません。そして部屋の中には争った形跡もなかったと報告を受けています」
「それはおかしいだろ。なら、どうして朝香がいないんだ!」
「ですから、それを今調べているところです」
「調べて何が分かるんだ! それで朝香が戻ってくるのか?」
「いえ、そこまでは分かりません。ただ……」
委員長の執拗な責めに伝えに来た衛士が怯んでしまう。そして、自分の考えをなんとか伝えようと言い淀んだところを委員長に詰め寄られる。
「『ただ』なんだ?」
「はい、実は今日の昼前に怪しい少年を我々の裁量で始末しました。それを聖女様にお伝えしたところ、非道く取り乱しておりました。それが原因で魔力が暴走し、その結果……消失したのかもしれないとも考えております」
「魔力の暴走……そんなことがあるのか?」
「ええ、あります。それは魔法を覚えたての子供などによく見られます」
「だが、その場合は死体が残るんだろう? なら、朝香のケースには当てはまらないんじゃないのか?」
衛士に魔力の暴走で朝香が亡くなったかもしれないと言われるが、それなら死体はどこだと更に衛士に詰め寄る。
「ええ、ですが……聖女様の場合は異世界から来たわけですから、何が起こるのか不確定です」
「そういうことか。じゃあ、その死んだ少年の名は?」
「確か『ソウタ』と言われてました」
「ソウタ……思井想太か。アイツが死んだのなら、朝香の暴走も考えられるか」
「そうなんですか?」
「ああ、朝香は想太と幼馴染みで、認めたくないが朝香は想太に思いを寄せていたハズだ」
「そういうことですか。だからあれほど取り乱したのですね」
「そういうことだ。なら、魔力の暴走も有り得るか。チッ、折角邪魔者の思井がいなくなったのに朝香までいなくなったら……俺は……どうすれば……」
そして同じ様に報告を受けた龍壱はフンと鼻で笑う。
「それが俺になんの関係がある? クラスメイトの一人が死んで、聖女役の女がいなくなった。だから、なんだ?」
「いえ、一応報告の義務がありますので……では、失礼します」
「今度から、クラスメイトの誰が死んでも俺には連絡は不要だからな」
「分かりました。その様に致します」
衛士が頭を下げ、龍壱の部屋から退室する。
「ふん、俺は勇者なんだ。誰が死のうと生きようと関係ない!」
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