第6話 なぜかバレて殺されるみたいです

「これで勇者様以外の者は皆、隷属化出来たか。勇者様には隷属魔法は受け入れられないからな。こうやって人質を取るしかないが……さて、勇者様は我らの言うことを聞き入れてくれるだろうか」

 一人の術者がそう言うと講堂の扉が勢いよく開かれ衛士が駆け込んでくる。

「失礼します」

「何事だ、騒々しい」

「はっ申し訳ありません。ですが、監視からの報告で即刻、お耳に入れるべきだと思い慌ててしまいました。申し訳ありません」

「もういい。それで、監視からの報告とは?」

「はっ監視からの報告で実は妙なことを聞きまして……」

 衛士が想太を一瞥し、話を続ける。

「ですので、その監視していた者が言うには、独り言を話していたと思ったら、急に黙り込んで、宙の一点を見詰めたままでいたんですが、その内、監視していた者が急に眠くなり目を覚ましたら、そいつがベッドで横になっていて、朝になるとまた、急に眠くなり気が付いた時にはそいつは部屋にいなかったそうです」

「ふむ、そうか。それはちょっと怪しいな……」

 監視を任せた連中は、そんな任務中に寝たりすることはしないはずだということを知っている男は聞かされた報告内容に疑問を抱く。

『ねえ、ちょっと雲行きが怪しくなってない?』

『そうですね。ちょっと怪しいというよりは危険がこちらにダッシュして来てますね』

『ちょっと、どうするんだよ~』

『では、脱出しますか。でも、今のままでは不十分ですね。『並列思考』スキル『思考加速』スキルを取得しましょう。うん、取得と。では纏めて取得しましたので。これからのことをお話しますね』

『脱出か~しょうがないよね。朝香には後から説明するとして。分かった頼むよ。イタイのは勘弁だからね』

 数人の衛士が想太を囲み、術士が詠唱を始める。

『ねえ、何か始まったみたいだよ。どうするの?』

『慌てると失敗しますよ。いいですか? 私の計画はこうです』

 アツシが言うには、今術士が詠唱しているのは多分、炎系の魔法だろうと。なので、想太は今から蒸し焼きにされ、炭にされる予定らしいと聞かされた想太が飛び起きようとして、アツシに止められる。

『なんで、止めるの! さっさと逃げないとダメでしょ』

『そんなに慌てなくても大丈夫ですから。それより、手順を今から話しますから、ちゃんと理解して下さいよ』

『分かったよ』

 アツシが計画した手順はこうだった。

 まず、魔法が想太に放たれ、当たる瞬間に自分の部屋に転移すると同時に『擬態』を取り出し、想太の代わりに燃えてもらう。

『どうです? 分かりましたか?』

『分かったけど、そんな際どいタイミングじゃ無理だよ』

『大丈夫です。スキルに身を任せなさい。その為の『並列思考』スキルと『思考加速』スキルなんですから』

『分かった。やってみるよ』

 想太がアツシと会話をしている内に詠唱が終わったようで、想太に向かって火球が放たれる。

『今です!』

『分かった。『転移』、そして『擬態ダミー』放出!』

 火球が当たる瞬間に想太が転移すると同時に自分の擬態を取り出すと火球が擬態に当たり盛大に燃え出す。


 想太は部屋に戻ると「ふぅ」と一息つく。

『さあ、休んでいる暇はありませんよ。また、別の場所に転移しないとソウタはもう死んだことになっているんですから』

「でも、転移ってどこに?」

『そうですね。まずは地図を見てみましょう。なるべく離れた位置でソウタが紛れ込んでも大丈夫そうな所だと……ココですね』

 アツシがそう言うと視界いっぱいに広がる地図の中で今の自分がいる場所から遠く離れた位置で光点が青く点滅する。

「ここ?」

『そうです。そこに行きたいと強く念じてから『転移』を実行して下さい』

「分かった。行きたい! 行きたい! 行きたい! 『転移』!」

 想太が唱えた瞬間に想太の体が消滅し、一瞬の浮遊感の後にどこかの山林に立っていた。

「どこなの?」


 そして、想太が転移を使って消えたすぐ後に、想太の部屋の扉が乱暴に『バンッ』と開け放たれる。

「ん? おかしいですね。何か気配を感じたのですが……」

「誰もいませんよ。この部屋の小僧はさっき焦がされ炭になりましたから」

 衛士がそう言って、先に部屋に入った執事服の男にそう答える。

「それにしても、この部屋を片付けろと言われたのですが何もないですよね」

「ええ、そうみたいですね。では、ここはお任せします」

「はっ分かりました」

「お任せしましたよ。しかし、気になりますね……」


 そして、部屋で控えていた朝香の元に想太が死んだと告げられる。

「え? うそ……うそよ。どうして想太が死ぬの? おかしいでしょ? ねえ、どうしてなの?」

「落ち着いて下さい。聖女様。死んだのは一人だけですから」

「だから、なんでその一人が想太なの? ねえ、どうしてなの!」

「そう、私に言われましても……」

 想太が死んだと告げに来たメイドが朝香に詰め寄られ答えに窮する。

「なら、会わせてよ。せめて、想太の亡骸に会わせてよ!」

「申し訳ありません。その……言いにくいのですが、死体の損傷が激しいと聞いております。ですから、とてもじゃないですが聖女様にお見せする訳にはいきません」

「ちょっと、何よ! 損壊って……あなた達は想太に何をしたの? 言ってよ! 何をしたのよ!」

 想太が死んだと聞かされた朝香が信じられないと、そう報告してきたメイドを問い詰め想太に会わせて欲しいとお願いするが、想太の遺体は損傷が激しすぎて見せられないと言われ朝香が取り乱す。

「お、落ち着いて下さい。聖女様。私共は詳しい理由は知りません。ですが、伝え聞いた内容では、そのソウタと言われる少年が急に暴れ出して、なんとかその場にいた衛士で取り押さえたのですが、力が強すぎてすぐに跳ね返され脅しのつもりで一人の術士が放った火球が少年に当たり、勢いよく燃えだしたそうです。なので、その少年のご遺体は酷く炭化しており、とても聖女様にお見せ出来る状態ではありません」

「え、なんで? なんで想太が暴れるの? おかしいわよ。いくらなんでもあの想太が暴れるなんて。一体、あなた達は想太達に何をしようとしたの? 教えてよ!」

「教えてと言われましても、私達もこれ以上のことは教えてもらってませんので」

「いいから、教えなさいよ! 教えてよ~ねえ、想太ぁ~」

『はい? 何?』

「え?」

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