『そうぞうしてごらん』っていうけどさ。どうしろっていうのさ!

@momo_gabu

第一章 ようこそ、異世界へ

第1話 知らない天井だ

「知らない天井だ……」

 昼休みの終了間際に襲ってきた睡魔に勝てずに机に突っ伏していたはずなのにと『思井 想太おもい そうた』は記憶を手繰るが、今はなぜか横になっていて、開いた両目には手が届きそうにないくらい高い位置に何やら豪華な天井が見えている。

「あ! やっと起きた。ほら、皆集まってるよ」

 そんな想太の顔を覗き込んでいるのは、家が隣の幼馴染みの同級生の『小林 朝香こばやし あさか』だ。

「こんな騒がしいのになかなか目を覚まさないから、心配したんだよ。でも、目が覚めたのなら起きようよ。ほら、皆も集まっているし」

 そう言って、朝香が立ち上がり、想太の手を引っ張り想太を引き起こす。


 皆が集まっている場所では同級生が固まって、何かに手をかざしている。そして、その結果を見た連中が喜んだり、落ち込んだりしている。

「ねえ、あれって何?」

 そう、朝香に尋ねると朝香が応える。

「私もまだしてないけど、さっき、偉そうなおじさんから異世界から召喚した人には何か特殊な力が宿るって説明されてね。皆はそれを確認しているんだと思うよ。だから、私達もしてみましょ!」

 そう言って朝香が想太を引っ張り走り出そうとするのを想太はなんとか宥めてゆっくりと歩き出す。


「他にやってない者はいないか!」

「あ、は~い! 私達、まだで~す! ほら、想太」

「分かったから、そんなに引っ張るなよ」

 人垣が分かれると、そこにはバスケットボール大の大きな水晶玉が、豪華な台座の上に鎮座していた。

「えっと、これに手を添えればいいの?」

「そうよ。あとはあなた達だけなんだから、さっさとしてちょうだい」

 おっかなびっくりな朝香に少し冷淡な様子で苛立ちを少しも隠しもせずに話すのは、想太が所属するクラスの『副委員長』を務める『森 敦子もり あつこ』だ。

「ごめんね。じゃ触るね……えいっ!」

 朝香が覚悟を決めたように水晶玉に触れると、水晶玉の横に置かれていたA4サイズくらいの水晶板に朝香のステータスが表示されると、周囲からオォ~と歓声が沸き起こる。

 そんな朝香のステータスはこんな感じだった。

『小林 朝香 十六歳 性別:女 ユニークスキル:治癒』

 朝香も水晶板の内容に目を通すが『ユニークスキル』と言われても理解出来ないようで、申し訳なさそうに小声で、側にいたおじさんに「えっと、これでいいですか?」と尋ねる。

 すると朝香に尋ねられたおじさんが急にかしこまり、朝香に対する態度をコロッと変えるとメイドに案内するように伝える。

「あ、これはこれは聖女様。申し訳ありませんが、まずはこちらへいらしてもらえますか」

「え? 想太、どうしよう……」

 朝香は急にもてなされて、どうしていいか分からずに思わず想太に助けを求めるが、その想太はと言えば、大きな水晶玉と水晶板に興味津々で朝香のことなど気に掛ける様子もない。

「もう、想太のバカ……」

 朝香がメイドに案内され、どこかへ連れて行かれるのを目で追っていた想太がそっと水晶玉に触れると、横の水晶板に想太のステータスが表示される。

『思井 想太 十六歳 性別:男 ユニークスキル:想像、牽制、耕運』

「おぉ! またユニークスキルが三つだ! すごいぞ!」

「「「オォッ!」」」

 すると、朝香の時と同じ様にワッと歓声が上がり、思わず想太も照れてしまうが「待て!」と声が掛かる。

「よく見ろ! スキルは確かに三つだが、それぞれのスキルは……ゴミだな」

「「「あ! 確かに……」」」

「ぬか喜びさせやがって」

「なんだよ。使い物にならないじゃないか!」

「はぁ~わざわざ喚んだのにコレかよ」

 と、散々な言われようだ。


「まあ、コレが普通だよな。でも、これってわざわざ、この水晶玉に触らないと見られないのか。異世界なら『ステータス確認』くらい出来るもんじゃないのか?」

『要求を受け付けました。スキル『ステータス』を取得しました』

「え? 今何か言いました?」

 想太は急に聞こえた声に驚き、近くにいた剣を携えたおじさんに聞いてみる。

「ああ、いったぞ。役立たずとな」

 想太を見下ろし侮蔑するように言うが想太は気にする様子もなく『声』が言ったことを確認してみる。

「このおじさんじゃないな。でも、ステータスを取得したって言ったな。試してみるか。『ステータス』」

 すると、想太の視界にはさっき水晶板に表示された内容が表示されるが、その右下にメールのアイコンの様な図形が点滅している。

「なんだろ? これ?」

「何をしている! 終わったのならさっさとそこから離れるんだ!」

 想太がそれを触ろうとすると、さっきのおじさんにそう一喝され、慌てて水晶玉の前から離れると「お前達はこっちだ」と別室へと連れて行かれる。


 想太は部屋の中を見渡すが朝香を見付けることは出来なかった。

「もしかして男女別? でも、他の女子もいるし……ま、いいか。それよりさっきのだ」

 想太が『ステータス』を表示させ、さっきの手紙の図形を触ろうとしていると、横から声を掛けられる。

「よ! 想太。お前のスキル見たけど、お前らしいと言えば、らしいよな」

「豪太。スキルって、これのこと?」

 想太はそう言って話しかけてきた友人の『高橋 豪太たかはし ごうた』に声を掛けられたので、想太は自分の視界に映るステータスボードを指差すが、豪太には見えてないらしく「なんのことだ?」と訝しげに想太を見る。

「豪太には見えない?」

「だから、何をだ? お前、変なスキルを押し付けられて変になったのか? まあ、寝ていたお前が悪いよな」

「寝ていた?」

 豪太の言うことが分からずに想太は豪太に質問すると、豪太は笑いながら「お前、もったいないことをしたな」と言って話し出した内容はこうだった。


 想太が昼休みの終了間際にどうしても睡魔に勝てずに机に突っ伏して寝始めると、急に教室の床に幾何学的な模様が浮き上がり、気が付けば白い空間に教室にいた全員がいたそうだ。

 そして、その白い空間にはどう見ても小学生くらいの金髪でおかっぱの男の子が古代ローマ風の白い衣服を着て立っていたそうだ。そして、開口一番に「ようこそ、異世界へ」と言われたらしい。

「え? 異世界?」

「どういうこと?」

「もう帰れないの?」

「「「異世界、キター!」」」


 突然のことに驚く者、理解出来ない物、嘆く者、喜ぶ者と色々で、それを見た男の子が言う。

「やっぱり、君たちの国は面白いね。特に十代だと、顕著だよ」

 すると皆がそう話す男の子に注目する。


「じゃあ、今から僕が話すことをよく聞いてね」

 男の子がそう言うと、表面に何か文字が書かれたカードが突然、出現したと思ったら男の子を囲むように宙に浮かび、カードに書かれた文字が想太達の方に向けられる。

「これから、君たちには異世界に行ってもらうから。でも、今のままだと困るだろうから、サービスで『異世界言語理解』は皆にプレゼントさせてもらうね。それで、このカードなんだけど……ん。中には気付いている人もいるようだね。そう、お察しの通りで、僕が与えられるユニークスキルだよ。もちろん『勇者』も『賢者』もあるからね。もちろん『聖女』に当たるスキルも用意しているよ」

 説明を聞いていた皆がゴクリと喉を鳴らす。

「ふふふ、もうちょっと説明させてよ。確かにこのカードを手にするとスキルが手に入る。でも、二枚目以降はダメ! 一枚だけだからね。そして、最初に手にしたカード以外を手にすることは出来ないよ。だから、手は触れずに、よ~く吟味してね。じゃ、まずは見るだけね。今、カードに触っても取得は出来ないからね。自分が欲しいスキルのカードをよく見てね。じゃ、見ていいよ」

 そう、男の子が言うと、ワッと皆が群がる。

「あ、『勇者』だ! 本当にあった!」

「こっちは『賢者』だ!」

「あっちに『錬金』がある!」

「『聖女』は私のよ!」

 皆が異常とも言えるほど興奮した様子でスキルのカードを見ていた横で想太はずっと横になって寝ていて、朝香が膝枕をしていた。


 そして、それに男の子が気付く。

「おや? こんな状況で寝られる子がいるとは……面白いね。もしかしたら……」

 男の子は寝ている想太を見てニヤリと笑う。


 そして、しばらく経った後、男の子が手を『パンパン』と叩き皆を静かにさせると注目を集める。

「じゃあ、ちょっと離れてね」

 男の子がそう言うと、男の子の周りに何やら見えない膜の様な防御壁が現れカードを近くで見ていた生徒が弾かれ、一部の生徒が騒ぎ出す。

「おい! 俺のカードだぞ! これじゃ取れないじゃないか!」

「『聖女』は私にこそふさわしいのよ!」

「いいから、もう少し離れてね」

 そう言って、男の子が指を鳴らすと、透明な膜が広がり想太の寝ている位置まで迫る。

「じゃ、今から僕が指を鳴らしたら、その見えない防御膜は消えるからね。スキルカードは早い者勝ちだけど、一度触れたカードは戻せないからね。そこだけは注意してね」

 男の子がそう言うと宙に浮いていたカードはシャッフルされ文字が書かれた面を上にして、床に落ちる。

「あ~折角、場所を覚えたのに~」

 一人の女生徒がそんな風に嘆くと、他にも数人から「あ~」と声が漏れる。

「じゃ、そろそろいいかな」

 男の子がそう言って、少し高い位置に飛び上がり停止すると指を『パチン』と鳴らす。

 すると生徒達が一斉に走り出し、床に散らばっているカードの手間でピタリと止まり、そこから自分が目的とするカードを探し、見付けた途端に飛びつく。

 そして、手に取り満足そうにニヤリと笑う。

「ふふふ、これで俺が勇者だ!」

「『聖女』は私の物よ!」


 生徒達がカードに群がる様子を少し高い位置から眺めていた男の子は満足そうに頷き、呟く。

「やっぱり、あの国の住人は面白いね。柔軟性が高いのが一番いい。それに普段から武器も持ってないから、いきなりぶっ放すなんてこともないし。一度、あの国から喚んだら隠し持っていた銃をいきなりぶっ放すから顔が半分吹き飛んで痛かったもんな~まあ、その仕返しで折角召喚した人達も吹っ飛んじゃったけどね。うふふ」


 床に散らばっていたカードも少なくなり、手に入れたカードに満足している者、しょうがないかと妥協している者など色々だ。

「じゃあ、そろそろいいかな。カードを取った人は、そこの出口から出ていってね。その先は召喚された国に繋がっているから」

 男の子がそう言うと、カードを手に持った者達はゾロゾロと指示された出口から出ていく。

 豪太が覚えていたのはここまでなので、ここから先の話は朝香が体験した話になる。


 男の子が朝香に近付き話しかける。

「二人、残ったね。ねえ、君は選ばないの?」

「あ、私ですか? 私はこういうのよく分からないので……」

「ふ~ん、じゃあ希望とかある? こういうのがあったら便利だろうな……とか」

「それなら……怪我とか病気に役立つのがいいですね。だって、異世界だと薬とか手に入りづらいんですよね」

「そうだね。だったら、これでいいかな。はい!」

 男の子は一枚のカードをその手に引き寄せると朝香に渡す。

 朝香はそれを見て「『治癒』ですか」と呟き男の子が答える。

「そう、それがあれば大抵のことは大丈夫だよ」

「助かります。ありがとうございます」

「いいよ、お礼なんて。でも、問題は彼だね。どうしようか……」

 男の子は残っていたカードを全部引き寄せると想太の手に握らせる。

「え? いいんですか? 確か、一人一枚のはずじゃ」

「いいのいいの、だって、この方が面白いでしょ」

 男の子はそう言って笑うが、朝香はそれがなんだか怖くて愛想笑いしか出来ない。

「じゃ、男の子は僕が運ぶから、君もあの出口に行ってね」

「……分かりました。想太をお願いします」

 朝香が男の子に頭を下げると「任せて」と言うと、想太が宙に浮く。

 朝香もそれを見て少しホッとして宙に浮かぶ想太と一緒に出口へと向かう。


 豪太が話し終わり、想太が「ありがとう」と軽く礼を言う。

「やっぱり、豪太が言うようにいらないスキルを押し付けられたのかな? まあ、いっか」

 とりあえず想太はさっきからスキルボードの隅で点滅しているアイコンが気になってしょうがない。でも、どうやったら開けるのか分からない。とりあえず、手で触ろうと手を伸ばしてみると反応があった。

 想太がアイコンを指で触ると『未読の手紙が一通あります。開きますか?』のメッセージと共に『はい/いいえ』の選択肢が表示されたので、迷ったが『はい』を選択すると、手紙の内容が表示される。

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