許嫁の乙女

@hakumag

許嫁の……

あなたには許嫁がいる


憎ったらしい暑さも過ぎさり、特に取り柄も持たない秋も終わりに差し掛かる頃

両親に告げられた言葉を反芻しながら私は家族のぷくをこね回していた


「許嫁、だってさ。突然何を言い出すんだろうね あの人達は」


わしゃわしゃ、わしゃわしゃ 

日向ぼっこに励むぷくと構って欲しい私


「素敵なー、相手っ!、ね!」


ぷにー、わし、わしし


主の心境を知っているのか知らないのか

あくびをしながら此方を見たりそっぽを向いて日向ぼっこに戻るぷく

様子を観察しながらこねていた構ってちゃんの私 寝転び、今度は陽の光をご相伴に預かるなどしてみる


「はぁぁぁぁーーしんどいニャー」


思いの丈をため息に込め、吐き出しても胸のつかえは取れない 

それどころか段々と浮かび上がり憂鬱な気分がへばりっついて落ちなくなった


恋愛に興味がない訳ではない。

私だっていっぱしの乙女なのだ。

好きな相手との素敵な時間も胸キュンなシチュエーションも。

どれもが胸を躍らせるものなのです!!


「だからって、見ず知らずの他人ととか……どうかしてるって……」



私の名前は如月梨乃


ボヤボヤと進路を考えはじめる高校2年の秋の終わり 

いっぱいあった筈の選択肢が、ほぼほぼ1つに決められてしまった

セミロングの黒髪が飼い猫の毛だらけになった

そんな、ふつーうの女子高生


「まぁ、最初から恋愛に興味もないんだけどね

 まさか、罰があたりでもしたのかしら?」


首を傾げながら可愛く虚空に呟いてみる

答えは出ず愛猫がニャーと返事をしてきただけだった


「……さて、17時…だったよね」


愛猫が最早相棒になった、暑くも寒くもない

日が沈むのも大分早くなったある日

許嫁がいきなり出現し、しかもその日に面会するというイベントが開催された

私に無許可で。強制参加で。

お相手は大学生とのこと

何年も前から決まっていたことなのだそうだ

知らされていなかったのは私だけ


現在16時55分


最初こそ親の通帳関連一式を小さなカバンにつめ込んで、寝袋とぷくを抱いて二階の窓から飛び降りて

それはもう完璧な脱走を敢行したのだけど

まさかのぷくさんは二重スパイ!

器用に手からバックを奪うとお母さんに届ける忠義っぷりを披露したのでした!!

私はというとぷくさんに裏切られたショックと寂しさと足の痛みでしばらく動けず、お縄を頂戴したのでした!まーる

………それが2時間前の10分足らずの脱走劇

こうなりそうだから黙っていたと母の口から告げられた脱走劇


「もっかい力を貸すのだ 私の相棒よ」


不安と怖さとちょっとの期待と何かもう分からない気持ちでぐちゃぐちゃになった気持ちを抱えながら相棒を頭にのせて撫でまくる


トリートメント……はもう前にしてしまったがボサボサな頭と髪の毛いっぱいに猫の毛をつけ陰鬱な表情の眼鏡女子(母のを無駄拝借)が第一印象なんて最悪の筈だ諦めて帰るがいい

時計を見遣ると58分。

お越しになってもおかしくない頃合いか


「時間を守れるかどうか。そこもつついてしまおう」


時間を守れない人は嫌いなんてまさに女の子らしい文句じゃないか。別に私は特に気にし


ポーンポーン


時刻は17時丁度


17時を告げる時計のアラームと来客を告げるチャイムが同時に鳴った


今にして思えば、このチャイムは私の人生の分岐点を告げる音でもあったのだ


だってだよ? 許嫁として現れた相手が


「初めまして、如月梨乃さん 私は巴優羽 あなたの許嫁です」



同性だなんて

誰に言ったって信じないもんね?







































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