レモンサワー
足駆 最人(あしかけ さいと)
本文
何年ぶりの集まりだろうか。
すれ違う人々は、見知った顔と知らない顔で混じり合っている。
けれども、私には関係ない。
「あー!奈那美久しぶり!」
ようやく、私の探していた顔を見つける。
彼女は私のそばに駆け寄ってくる。
「久しぶり、萌」
「男子って楽でいいよねー。スーツ着てくるだけでいいんだからさぁ。今日結局何着るか気が気じゃなかったよ」
「えーでもいいじゃん、萌似合ってるよ」
「ありがとう奈那美!奈那美も似合ってるよ!」
「ありがとう」
白を基調としたお洒落な服で、長いスカートを揺らした萌と私は再会を喜ぶ。
対照的に私は黒のシンプルめなのを着てきた。
「いつもインスタ見てるよ。どう?大学は」
「ありがとう!大学はねぇ、そこそこって感じかなぁ。バイトとかそろそろ就活とかも始まってくるし忙しいっていうのが大きいかなー」
「そうだね。私も……」
久しぶりにあった萌と会話が弾む。
今日は3月に入って後半、高校の同窓会。
なぜ開催されたのかというと、みんながハタチになってお酒も飲むようになれたから、というのが大きいのだろう。
他にも何かあるかも知れないが、知る由もない。
本来私は来るつもりじゃなかった。
高校時代の私は、そんなに友達がいたわけじゃ……今もいないか。
ただ、萌が行こうって誘ってくるから行くことにしたんだ。
「そういえばさ、あの子話を聞く所によるともう結婚して子供もいるんだって!旦那さんが今日は家で子供見てくれてるらしいよー。それに、すっごいイケメンらしい」
「本当?同い年でもう子供がいるの……」
萌が指差して紹介してくれた子は、見た事ある気がする。
と言っても、話したことはない……はず。
多分同じクラスだった、ただそれだけの関係だろう。
「いいなー私も彼氏欲しいなぁ……」
萌はそんな言葉を口に出す。
「……萌、彼氏いないの?」
「うん、いい出会いがなくてさぁ」
「えー絶対嘘だー」
「いやいや、本当だってばぁ。あ、そういえば奈那美お酒呑まないの?後ろのカウンターで色々貰えるよ」
「あ、本当?じゃあ行ってくる」
そう行って、私は後ろのカウンターに向かう。
「……」
萌は気づいてないかも知れないけど、高校時代、彼女を好きな男子は沢山いた。
萌は何も言わないけど、男子数人は彼女に告白した事も私は知っている。
けれども萌は、それを全て断っているはずだ。
じゃあ、彼女の先ほどの言葉はなんなのだろう。
『いいなー私も彼氏欲しいなぁ……』
……きっと、萌が望むのはもっと『上』なんだろう。
「何になさいますか?」
「……えっと、じゃあ……レモンサワーで」
そう言うと暫くして、氷の入ったレモンサワーのグラスが渡される。
受け取って、萌の所に向かう前に少し呑んでみた。
『青春はレモン味』そんな言葉があった気がする。
高校の同窓会という青春を思い出すにはいい味だろう。
けれども、レモンサワーのレモンの強い酸味はどこかへ消えていて、アルコールという大人の苦い後味が残った。
「おかえり!奈那美。何にしたの?」
「レモンサワーにしたよ」
「あ!私と一緒!すごく酸っぱくない?あんまり慣れてなくてさー」
「レモンサワーってこういうものだと思うよ」
「そうなんだー。あ、そういえばさっきの話の続きだけどさ」
そう言って萌は、私に聞く。
「奈那美はどうなの、彼氏とか」
その質問に、私は答える。
「……私はいてるよ、今同棲してる」
・・・・・
もう、随分と夜遅くだった。
月明かりと街灯が街を照らし、耳を風の音だけが切り抜ける。
高校の同窓会は終わり、萌と二人で二軒目に行って帰りだった。
マンションを登って、鍵を開ける。
「おかえり奈那美ー」
「ただいまー」
随分遅いのに、彼は起きていたらしく玄関まで迎えに来た。
「遅かったね。夜道大丈夫だった?」
「うん、平気」
バックを下ろそうとする私に、彼は抱きついてきて、頬にキスをする。
「もー、私酒くさいよ?」
「全然気にならないね」
少し躊躇するものの、彼と口づけを交わす。
流石に嫌だから、ソフトなやつ。
「奈那美の唇、レモンの味がするね」
「本当?」
「本当。青春の味だね」
「もう青春って年齢じゃないでしょ」
「そんな事ないだろ」
「それより、お風呂沸かした?それともシャワーで済ましたの?」
「いや、まだ入ってない?」
「ん?なんで?」
「酔った奈那美を介抱する為に一緒に入ろっかなって」
「馬鹿、私がお酒強いの知ってる癖に」
「まあまあ、光熱費が上がっちゃうから一緒に入ろう」
そう言って彼は、風呂を沸かしに行った。
・・・・・
今は時刻どれくらいだろうか。
帰るのが随分遅かったし、もうすぐ夜明けが近いかもしれない。
隣で眠る彼の背中を見ながら、そんな事を考える。
寝返りを打てば、或いは、枕元の携帯に少し触れさえすれば今の時刻がいつかなんてわかるだろう。
けれども私は彼の背中を見続ける。
「……」
現代において、「彼氏が欲しい」「彼女が欲しい」という会話はよくあるものだけど、それの真意って一体なんなんだろう。
楽しい時間を過ごす存在が欲しい?
寂しさを埋める存在が欲しい?
一緒にいて苦痛じゃない存在が欲しい?
きっと様々だろう。
勿論それが間違いだとも言わない。
けれども、結局欲しいのは『誰もが羨む恋人がいる自分』なんじゃないだろうか。
そうやって、自分の自尊心を満たしたいだけなんじゃないだろうか。
私は立ち上がって、冷蔵庫を開ける。
「散々飲んだのにな」
冷蔵庫には缶のレモンサワーが入っているのを見つけて、思わず取り出した。
レモンサワーだってそうだ。
酎ハイだけでも確かに美味しいかも知れないけど、レモンを混ぜたら、みんなに人気のレモンサワーとして認められるんだから。
缶のレモンサワーを呷る。
きっとカウンターで受け取ったレモンサワーの方がいいやつだったのだろう。
今飲んだレモンサワーはより味の薄いものだった。
苦味だけで、何も酸っぱさは感じない。
「……」
天井を見上げる。
今の私の中には、疑問の考えと……優越感があった。
萌の前で、彼氏がいると言った時。
そして、その後色々聞かれた時。
私の中には疑問の答えがあった。
窓の外を見る。
外はまだ暗く、日の出には少し早いみたいだった。
レモンサワー 足駆 最人(あしかけ さいと) @GOmadanGO_BIG
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